滅べ!バレンタイン!

第55話 一緒に作りましょう

 なぜこんな行事があるんだ!一年の中でもっとも面倒くさい行事だ!物を贈る行事はいろいろある。お中元、クリスマス、元旦!けど、ヴァレンタインだけは納得いかない。

 そもそも、日本人はキリスト教徒でもないし、ヴァレンタインの本質からもズレているような、こんな商戦イベント止めちまぇばいいんだぁ!


 そんな、モテない男子高校生みたいな呪文を並べているが、あれは結構女性のほうも面倒な行事である。


 特に社会人になってからの方が大変である。職場の男性社員にチョコを用意しなくてはならないからだ。

 そんなの任意だろって思う方もいるかもしれないが、『暗黙の女子力』が働き、何かしら用意しておくのが2月14日の風習になっている。


 まあ、会社用のはいつものチョコレート詰め合わせを買えばいいとして、問題は『本命チョコ』をどうするかだ。


 ここまでお付き合いいただいた方にはすでにお分かりだと思うが、夕夏は料理が下手だ。

 キッチン大爆発とか、ダークマターを作るとかの『魔のスキル』は持っていないが、ナチュラルにメシまずだ。


 中学生の時、友チョコを作ろうとして、湯煎を知らずに鍋で溶かし、文字通り『黒』歴史を作ってしまった女だ。お菓子作りなんて神の領域になる。


 スマホを睨みながら、『初心者でも簡単に作れるレシピ』をスクロールするが、自分が作れるイメージが全く湧かない。

 頭を悩ませる夕夏を杉山はニヤニヤしながら見ていた。何も言ってこないのが腹立つ!


 考えても答えがでなかったので、陽太に直接聞くことにした。『買ったものと手作り、どっちがいい?』と打ったら、『一緒に作りましょう』と返ってきた。


 うん、私もそれが一番いいと思う…。





 今年の2月14日は残念ながら平日なので、前日の13日に夕夏の家でクッキングをする事になった。陽太はトートバッグに調理道具を入れてやって来た。お母さんから借りてきたらしい。


 作るお菓子はガトーショコラ!おいおいおいおい!鬼難易度過ぎるでしょ!まさか、ケーキとか!


 あんぐりと口を開ける夕夏に陽太は大まかなプランを説明する。彼が言うにはシフォンケーキのようにふわっと作らない分楽なのだとか…。いや、私にはエベレストとカラコルム(世界1位と2位の山)の違いしかないよ。

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