第7話 彼女いるの?
昨日までの6月の湿った気候は置いてきたのかと思うほど、カラっとした天気だった。一ヶ月ぶりにシーツを洗って布団を干して、洗濯物も並べていった。
一通り掃除を終えてソファーに腰掛けると、陽太がカフェオレを入れてくれた。砂糖と牛乳たっぷりのやつだ。陽太のはブラックだったが…。
「夕夏さん、今日買い物に連れてってくれませんか?」
「何か欲しいものあるの?」
「靴がだいぶ痛んでるので買ってくれたら嬉しいな~と。あと、調理器具も揃えたいです!料理のレパートリーも増えますし!」
自分の欲しい物と必要なの物を同時に提案してくるとは、策士だな。確かに陽太の所持品はかなり少なかったし、かわいい甥っ子のために色々見繕ってあげよう。
夕夏と陽太は電車でデパートに向かった。陽太の靴は今の陽太の足に合ってなく、父が使っていたのを履いていたようだ。あの女が息子の服を新調するはずないので、現在162㎝の陽太は少ない金銭でなんとか一張羅を揃えたと言っていた。
その話を聞いて夕夏はATMでお金を下ろして、陽太の服を豪気に買ってあげることにした。
陽太の見た目なら洋服は何を着ても様になった。爽やかな色合いの服を買い揃えて、靴も履きやすいスニーカーを買ってあげた。
陽太とあれこれ買い物するのは楽しかった。息子がいたらこんな風にお買い物できるのだろうか。いや、中学生の息子は反抗期だろうから、母親と出掛けないか…。
そういえば、陽太は大人に反抗したりしない。聞き分けがよく、気遣いができて、子供っぽくない…。
包丁やフライパンも新調して、夕食の食材を買って家に帰っていく。人通りの少なくなった住宅街を歩いていると、陽太が急に手を繋いできた。夕夏はびっくりして顔を上げて陽太を見る。
「いいでしょ?昔も手を繋いで歩いてたし…」
確かに実家にいた時に、陽太と手を繋いで家に帰っていたが、恋人繋ぎはしてないよ!
なんだか手慣れてるな~、もしかして恋人がいるのかな?
「陽太くん、彼女いるの?」
「いません」
ぶったぎるような返事に夕夏は少し戸惑った。陽太の表情も固くなったように見える。
「そうなんだ。今はお付き合いも早いっていうし、陽太くんはイケメンだから告白されてそうだなって!」
「そうですね。進級してから二人に告白されましたよ。断りましたけど…」
「付き合わないの?」
「興味ないので…」
それは相手に興味がないのか、女性に興味がないのか。でも、そういう事には興味があるんだよな?
「夕夏さんは告白されたりします?会社の人とかに…」
「あっはは!ないない!職場は男性が多いけど、戦力としは見られてても、女としては見られてないよ」
「じゃあ、大学生の頃は?経験なくても、お付き合いした事はあるでしょう?」
「うーん、まぁ、食事に誘われたり、いい感じになった人はいるけど、付き合うまでには至らなかったな~。なので、恋愛経験もゼロで~す」
自虐を含んで苦い顔をする夕夏。陽太と手を繋いだまま、ふらふら歩きだす。
「世の中の男性は、私が女に見えてないんだろ~な~。体は貧相だし、ズボンばっか履いてるし、完全に男だよ~」
前から車が来たので、陽太は夕夏の手を引いて端に寄った。セダンの車が通りすぎると、陽太が夕夏に囁いた。
「夕夏さんはとても魅力的ですよ。可愛いし、努力家だし、あなたをちゃんと見ている人はいると思いますよ…」
誉め言葉を送りながら優しく微笑む陽太。やっぱり、彼女いないなんて嘘でしょ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます