第8話 俺はこっちがいいです
家に帰って一休みしてから、夕夏はキッチンに立っていた。今日のメニューはオムライス。夕夏には難易度が高い料理だが、スマホで作り方を見ながら野菜を切り始める。
後ろには陽太が夕夏の様子を見守っている。
ボクサーを支えるセコンド席のコーチのようにちょいちょい指示を出してきた。
夕夏はレシピを見てても何故か手順をすっ飛ばしてしまう。
先週のカルボナーラがいい例だった。茹で時間が早くて麺は固いし、ほうれん草の軸ごと入れてしまって、砂が混じっていたのだ。
あれを彼氏とかに振る舞ったら、100%別れ話を切り出されていただろう。
なんとか野菜をみじん切りにして炒めて、ご飯と混ぜる。ケチャップを入れて再度炒めながら、ライスは完成だ。
次はメインとなるオムレツだ。溶いた卵をフライパンに入れて、菜箸でかき混ぜて寄せようとしたが、おもいっきり崩れた。焼き色も付いてぐちゃぐちゃな玉子ができてしまった。
もう一個の方は、陽太がお手本として焼いてくれた。同じ手順でやってるのに何故ふわふわで真っ黄色なんだ?
出来映えの違うオムライスを食卓に並べる。陽太は夕夏が作った不格好な卵をスプーンで掬って口に運んだ。
「夕夏さんのオムライス久しぶりですね。卵の焼き方が下手なのも同じです」
「下手でごめんなさいね!やっぱり、そっちは私が食べるよ!」
「いいですよ。俺はこっちがいいです」
どうしてか夕夏の作ったオムライスを手放さない陽太。甥っ子に気を使わせてしまって、もっと練習しないとダメだな。
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