温泉に!エステに!癒される!
第12話 温泉!温泉っ!おんせ~ん!
7月の始め。
この頃夕夏の帰りは遅く、ひどい時は泊まり込みでプログラムの打ち込みに終われていた。
ようやく、納品できて今日は定時に帰れたのだが、夕夏は大量の酒を買ってきて、飲んで荒れていた。
「あのモジャモジャ頭!マジでふざけんなよ!なーにが俺の手腕だぁ!私と杉やんのお陰だろがよぉ!」
会計システムはなんとか仕上がったのだが、最後まで無茶苦茶な進行だった上、追加の機能を榎本が安請け合いしてしまい、納期までほぼ缶詰状態だった。
なんとか間に合わせて納めることが出来たが、榎本がクライアントから称賛の言葉を貰っているのを聞いて、杉山と夕夏は握った拳をお互いに抑え合った。
「くそっ!ハゲろ!いい年こいてパーマなんかかけやがってぇ!似合ってねんだよ!」
ビール缶を叩き付けて机に突っ伏す夕夏。陽太はずっと彼女の愚痴を聞いていた。
「夕夏さん、もうそのくらいにしといた方がいいですよ」
「こぉ~ら、未成年は飲んじゃダメだぞ~!」
「別に飲みませんよ」
缶を取り上げた陽太から、それを奪い返す夕夏。残りを飲み干して夕夏は潰れてしまった。
陽太は夕夏をベットに連れていって、ハンドタオルをかけて部屋を出た。
次の日、ひどい顔の夕夏が12時過ぎに目を覚ました。軽くシャワーを浴びて、陽太が準備してくれた遅い朝食を食べる。
味噌汁とおにぎりとお新香が揃っていた。いつもはパンなのに、二日酔いにはしじみの味噌汁が良いからと、わざわざ開店したスーパーで買ってきてくれたのだ。
陽太くんなら、完璧な主夫になれるだろうな~。
「昨日はごめんね。酔っぱらって愚痴ぶちまけちゃって…」
「いいえ、俺には愚痴を聞いてあげることしかできませんから…」
「いつもなら、杉やんと飲みに行って吐き出すんだけど、昨日は夕食一緒に食べるって約束してたしね~」
「……昨日もその人の名前出てきましたけど……同僚ですか?」
「うん。同期の戦友。同じチームで苦楽を共にした仲なのさ!」
「……男性ですか?」
「そーだよ」
「ふーん…」
陽太はコーヒーを啜って、それ以上の質問を飲み込んだ。
「あ、そーだ!忘れるところだった!陽太くん今月の三連休どっか旅行行かない?」
「旅行ですか?」
「そう!そう!有給取れたからさ、一緒にどこか行こう!」
「いいですね。どこに行きますか?」
「温泉!温泉っ!おんせ~ん!もう、肩凝っちゃってさ~。浸かってゆっくりしたいな~」
「リクエストはありますか?」
陽太はスマホを取り出して温泉旅館を調べだした。夕夏が希望を言って陽太がそれに近い宿をピックアップする。
「泊まるのは7月18日と19日でいいですか?」
「うん!いいよ~!支払いは買い物用に渡してる家族カードから払っちゃっていいから~」
普段の買い物のために陽太に所持させているクレジットカード。財布からカードを引っ張り出してきて、番号を打ち込んで予約を完了した。
「……前から思ってたんですけど、夕夏さん。俺がこのカードを悪用するって考えないんですか?」
「あっはは!恐いこと言うね!
あのクソ女ならやると思うけど、陽太くんはそんなことしないよ!」
甥とはいえ、他人である陽太を信じきっている夕夏。クソ姉とは金銭的なトラブルで何度も揉めていたのに、陽太の事は疑ったりしてなかった。
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