第10話 『疑う』という事をしない人だ。
夕夏さんの仕事が忙しいみたいで、この頃はひどく疲れている。仕事の愚痴も多くなり、どうやらむちゃくちゃな上司に振り回されているそうだ。
俺の料理が最近は生き甲斐だと言っていた。ここに転がり込んだ時、冷蔵庫の中は牛乳と多少の調味料しかなく、自炊をしていなかったらしい。
料理なんて腹が膨れればいいから、俺も味や見た目にはこだわらないし、『振る舞う』つもりで作っていなかった。けど、夕夏さんに『美味しい』と言って欲しくて研究を始めた。
夕夏さんと一緒に食事するのも嬉しかった。『あの人』と食卓を囲むことはないし、お互い自由に行動するので、ほぼ顔を合わせない。お金の話をする時だけ長く話す。本当に最悪だ。
夕夏さんがお金の事で何か言ってくる事はない。むしろ、自分に買い物の為にクレジットカードを渡してきた時は、驚いてしまった。明細も確認してないだろう。『疑う』という事をしない人だ。
「陽太くん、受験の方はどうなの?」
夕夏に話しかけられて陽太は和風ハンバーグから目を放す。
「学期末テストの結果で目標校を決めようと思ってます。あ!夏休みに模擬試験を受けてもいいですかね?」
「うん!いいよ。必要な物があったら言ってね!」
受験の事は特に心配していない。難関校じゃなければどこでも入れるだろう。それよりも、解決しなければならない『問題』があった。
「高校受験か~。懐かしいな~。私先行は落ちて、滑り止めもダメで、すっごい焦った記憶があったから~」
「意外です。夕夏さん頭いいイメージがあったのに…」
「あっはは!ガリ勉になったのは高校生からだよ!大学受験は絶対失敗したくなかったから!」
「そういえば、勉強する夕夏さんの部屋に俺よく行ってましたね。夕夏さんのベッドで本を読んでいた覚えがあります」
「そうだね!陽太くんがココア入れてくれたの、すごく嬉しかったよ!」
頭はそこまで良くなかったのに、必死に勉強して大学に行ってシステムエンジニアとして働いている夕夏さん。努力できる彼女は本当に素晴らしかった。
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