第27話 欲しくて欲しくて、たまらない。

 朝、リビングに出ると書き置きがあった。まさか、家出したんじゃないかと、恐る恐る書いてある文字を見ると『少し出てきます』と書いてあった。

 夕夏はほっと胸を撫で下ろし、朝食の用意をする。







 陽太は事務所に入って経過報告を聞く。まだ調べている途中だと言われて、挨拶だけして雑居ビルを出た。

 まだ家に戻りたくないので、本屋に寄ったり駅のショッピングモールの中をうろうろしていた。お昼頃になったのでコーヒーショップで、適当に食事をする。



 昨日の事は失敗だった。

 あの『杉山』という人は本当に同僚なだけで、男女の仲ではないのだろう。なのに、自分の心の中の焦りと嫉妬が抑えられず、短慮な行動をとってしまった。


 ふと、頬に水滴の感触があった。気付かず泣いていたのだ。眼鏡を外して涙をぬぐう。


 泣いてもしょうがないし、なんにもならない。

 泣くだけ無駄だ。


 前は、こんなに貪欲じゃなかった。『問題』が解決して、自分が大人になったら、気持ちを伝えてみる。そんな淡い恋心だった。

 でも、一緒に暮らしはじめて…手の届く距離にいると…もうダメだった。

 欲しくて欲しくて、たまらない。可愛くて、ひたむきで、純真で…、まだ誰にも手をつけられていない夕夏を自分のものにしたかった。


 こんな劣情れつじょうを夕夏にぶつけている自分が恥ずかしくて、苦いコーヒーを飲んで店を後にした。



 


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