第26話 キスは?したことあるの?

 家に着いた二人は、ドアの前で手を離した。お風呂は沸いてるから入って欲しいと言われたので、夕夏はリビングの横の自分の部屋に戻ろうとした。その手前で電話がかかってきて取った。


「なーに?杉やん…どしたの?」


 杉山からの電話らしく応対する夕夏。陽太は聞き耳を立てた。


「え~、知らないよ。なくなったんじゃない?……いやいや、そんな事言われてもっ…」


 会話の途中で夕夏はスマホを取り上げられる。陽太は通話を切って夕夏のスマホをソファーに投げる。


 唖然とする夕夏を引き寄せ、陽太は夕夏の唇を奪った。最初は軽く触れてきて、顔を傾けてディープキスをする。陽太の口は歯磨きした後なのかミントの味がした。自分はきっとお酒臭いだろうに…。


「夕夏さん…キスは?したことあるの?」


 夕夏の顎を両手で包んで、視線を自分に固定する陽太。吐息がかかる位置に彼の顔があって、心臓が早鐘のようだった。


「………ないよ…」


 最後の1音を言う前に陽太の唇が被せられる。貪られるように吸われて唇を舐められる。夕夏は口を固く閉じて、彼の侵入を防いだ。固定されてた手を掴んで顔を反らす。


「やだ…待ってよ」


 逃げようとする夕夏を壁に押し付けて、彼女の両手首を掴んで封じた。陽太のキス攻撃に夕夏は顔を背けて反撃する。

 陽太は顔を肩にうずめる夕夏の耳を舐め始めた。耳穴に舌を入れて水音を立てる。陽太が送ったピアスがついた耳たぶを舐め、下顎を舐めて、首筋にかぶり付く。

 何度も吸ったり舐めたりして、だんだん下がっていき、鎖骨の辺りを舐め始めた。


 羞恥に震える夕夏だったが、我慢の限界にきた。


「陽太くん!これ以上は本当に!怒るよ!」


 夕夏は陽太に視線を落として怒鳴った。舐め回すのを止めて顔を上げた陽太の『眼』に夕夏は囚われた。


 自分を狙う『オス』の眼…。

 欲情し、ギラついた眼球がゆらゆら揺れていた。


 荒い息をしたまま、もう一度夕夏の口にかぶり付く。あっさり口内に舌を入れられ絡めていく。夕夏は力を抜いて陽太にされるがままにした。

 夕夏が抵抗しなくなると、陽太は彼女の顎に手を戻した。


 貪り合うようにキスをする二人。陽太のボディーソープに混じった汗の匂いにくらくらしてきた。しばらくして、唇を放すと惚けた陽太の顔がそこにあった。

 自分もきっと…同じ顔をしているだろう…。


「ゆかさん。夕夏さんの…はじめて、俺にくれませんか…」


「ふぇ?」


「俺が、夕夏さんの『初めての男』にさせて下さい…」


 頭がぼうっとして上手く整理できないが、彼に誘われているのは理解した。


「君は…、私の、甥っ子だよ…。何言ってるの?」


「…わかってます!

けど…おれ、…夕夏さんが好きなんです…、ずっと、前から…」


 陽太の告白に夕夏は飛んでいた頭を元に戻した。


「そんなこと言われても…ダメだよ…。できないよ…」


「誰にも取られたくないんです。『体の関係』だけでもいいから、俺と…」


 陽太の言葉の途中で、夕夏は陽太の体を突き飛ばす。ダイニングテーブルにぶつかった陽太は、夕夏の形相を見て青ざめた。


「体だけの関係ってなによ!まだ、そんなことしてるわけ!」


「ちっ、違います!そういうんじゃありません…!」


 陽太の言い訳は聞かずに部屋に逃げ込む夕夏。ドアの前で座り込んで、訳も分からず泣いていた。ひとしきり泣いた後、重い心と体で服を脱いでベットに潜った。





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