甥っ子なのに…ダメだよ…

第25話 なんでいるの?

 8月の初旬に夕夏にとっては朗報が舞い込んできた。榎本が異動になったのだぁ!いえぇぇい!やったぁぁぁ!

 本人は栄転とか言ってたけど、ただ単に戦力外通告されただけだろうが!ざまぁ!

 人事異動のwebページを見たとき、杉山と目を合わせて小さくガッツポーズした!そして、3日後にやつの机が空になると、夕夏と杉山は万歳からのハイタッチをして、しばらく机の周りで小躍りしていた。


 その日はもちろん、杉山と飲みに行った。二人で榎本の悪口と苦労話で盛り上がり、居酒屋を二軒にけん梯子はしごした。


 4時間ほど話して9時には解散し、地元駅に向かう。電車に乗っている途中で陽太にメッセージを送る。『迎えに行く』と返ってきたが、10時過ぎるので『大丈夫』だと返信した。


「杉やん、この駅じゃないでしょ!なんで降りてんのよ」


「ここの駅の降りたところのラーメン屋がうめぇんだよ!」


 地元駅でついてくる杉山をうざがりながらもホームを並んで歩く二人。昼間のうだるような暑さは消え失せ、じっとりとした熱が夜の風に乗っていた。ほろ酔いぎみの夕夏の肩に杉山が腕を回してきた。


「なぁ!なぁ!ラーメン屋一緒に寄ってかねぇ!奢るからさ~」


「い~よ、も~。帰って寝たい!」


「何だよ~、飲んだ後は塩ラーメン!これ鉄板だぞ~」


「いや、お前の鉄板なんか知らんし!放せ!」


 絡んでくる杉山の腕を振り払おうとした時、怒鳴るような声で名前を呼ばれた。


「夕夏さんっ!」


 振り向くと横断歩道をこちらに向かってくる陽太の姿があった。


「陽太くん!なんでいるの?」


「迎えに来たんですよ。酔ってるでしょうから…」


「あのねぇ!今何時だと思ってるの!子供が出歩ていい時間じゃないでしょう!」


 注意する夕夏を陽太は眉をつり上げて見てくる。夕夏が気圧されると、杉山が絡んできた。


「おお~!君があのイケメン甥っ子くんか~。聞いてたよりめっちゃ!男前じゃん!」


「あ~、えっと、同僚の杉山。こっちは甥っ子の陽太くん」


 陽太は低い声で『どうも』と挨拶をして、杉山を睨んだ。杉山は『あえて』その視線を無視して、夕夏の肩に手を置いて叩いた。


「なになに!叔母さんが心配で迎えに来たのか?すげぇ~紳士じゃん!非行に走るようには見えないけどな~」


 夕夏の酔いは一気に覚めた。杉山のネクタイを掴んで陽太からひき離す。


「こんの!バカ野郎!本人に言うヤツがあるか!このっ!」


「痛い!痛いってば!」


 杉山の頭を叩く夕夏。陽太はじゃれあっている二人を引き離し、夕夏の手を引いた。陽太に引っ張られながら夕夏は杉山に別れを告げる。




 家路を急ぎかなら、夕夏は陽太に謝った。陽太の事を相談した事と詳しい内容は話してないことを…。陽太はずっと黙ったまま夕夏の手を引いて前を歩く。やっぱり、『非行に走った』事を上げられて怒っているようだった。


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