第43話 婚約指輪です。

 早速部屋の引越し作業に取りかかる。15時に来てくれる業者のために部屋の本を次々と捌いていく愛実。良秀はショボくれながら本を一階に運んでいった。陽太も畳んであったダンボールに私物を詰め直す。元々部屋に配置してなかったので、片付けはすぐに済んだ。


「智くん、君の部屋を取っちゃってごめんな…」


 写真を手に取り会ったこともない彼に謝る陽太。


「でも、君のお父さんとお母さんは、ずっと君のお父さんとお母さんのままだよ。


だって俺は、君の『弟』なんだから…」


 1ヶ月先に産まれた彼の事を、陽太は『兄』と思うことにした。そうして彼の存在もこの『家』に残るのだ。







 夕夏に整った部屋を写メって送った。『いい部屋だね』と返ってきた。陽太も嬉しくなって新しい部屋でベッドにダイブする。

 本に埋もれていた部屋は今はスッキリとしている。ベッドと机と本棚。本棚にあるのはお父さんがどうしても捨てられないと泣きついた本達だ。残った本は少しずつ読んで感想をお父さんに言ってみよう。


 それからはお母さんの家事を手伝うようにした。ご機嫌とりのためじゃない。お母さんに料理を学びたかったからだ。愛実の料理は非の打ち所がない。朝食はご飯に味噌汁、焼き魚にお浸し。夕飯のバリエーションも豊富で和食・洋食どちらを作らせても美味しかった。

 台所で楽しそうに料理をする二人を見て、お父さんが『息子じゃなくて娘を貰ったみたいだ』と笑っていた。





 平日の仕事の合間に陽太から連絡がくる。『会いたい』と送ってきたので、定時で上がって帰宅する。前より会社に近くなったので、18時には家に着けた。駅で待っていた陽太と合流して、家へ向かう。


「夕夏さんにこれを渡しておきたくて…」


 玄関に入るなり、陽太は夕夏の左手をとって指になにかを付ける。視線を落とすと光る指輪が見えた。


「婚約指輪です。虫除けのために付けといてくださいね」


「こっ、これ!どうしたの?どうやって買ったの?」


 婚約指輪にひびる夕夏。贈られた事よりもお金の心配をしてしまった。


「落ち着いて下さい。それはアクサリーショップで買った3000円のものですよ。本物は俺が大人になったら、贈ります」


 値段なんてどうでも良かったが、プロポーズされて指輪まで贈ってくれるなんで、嬉しすぎる。


「用事はこれだけです。じゃあ…」


 別れ際にキスをして去っていく陽太。くっ!なんてカッコいいんだ。たらしめ!



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