うそでしょ…甥っ子がホテル街にいるんだけど…

第18話 陽太が彼女に『キス』をした。

 有給消化のために平日に休みになった夕夏。家にいたが、陽太がてきぱき家事をこなすので夕夏はやることがない。夕夏の昼食を作って陽太は昼前に出掛けて行った。


 気になっていたドラマの最終話を見ていたら、榎本から電話が来た。『今から出社してほしい』と言われて、有給休暇中だと説明したが人手が足りないそうだ。


 杉山からもメッセージが来て、詳しい事情を聞いた。どうやら、榎本とクライアントとの間で納期の食い違いが起きて、明日納めなければならなくなったそうだ。他の社員も手が貸せないので、夕夏にヘルプが来た。


 夕夏は適当な服に着替えて会社に向かう。オフィスに着くと榎本が一言謝ってたが、塩対応をする。杉山から割り振りを聞いて『仕事』に取り掛かる。


 夕方近くにようやく目処がついたから、夕夏は帰宅することにした。榎本が気を使って夕飯を奢ると言ってくれたが、断ってやった。今さら点数稼ぎしても無駄だから!労基に訴えないだけありがたいと思え!


 17時に通勤に使っているS駅に向かう。今日の夕食は何だろうと考えながら、やさぐれた心を落ち着かせていると、駅のロータリーで足をとめる。


 目を凝らしてゆっくりと近づいていく。その人物を注意深く見ると、間違いなく『陽太』だった。眼鏡を外していたが、あの綺麗な顔は見間違いようがない。


 一人でいたなら明るく声を掛けたが、女性と一緒にいたのだ。陽太と同い年の女の子ではなく、年上の女性。容姿や服装から学生には見えず、夕夏より上に見える。


 手を繋いで会話をする二人を夕夏は眉間に皺を寄せて見ていた。同い年の女の子にベタベタされて不機嫌になっていた彼が、何を楽しそうに話しているんだ?

 女性に引かれて二人は歩き出していったので、夕夏は後を付ける。気付かれないように距離を取りながら、陽太から目を離さなかった。


 二人がやって来たのはホテル街だ。ラブホに入ろうとする彼女を陽太が引き止める。彼女とどういう関係なのか分からないが、嫌がる陽太を見ていられらず、止めに入ろうとした瞬間…、


 陽太が彼女に『キス』をした。


 位置的に唇ではなく頬にしていたが、そんなことはどうでもいい。優しい笑顔で彼女を宥める陽太の顔が歪んで見える。


 茫然と見ていると、陽太と目が合った。顔面蒼白した陽太から目を背け、踵を返して走り出す夕夏。そのまま走って改札を抜けて、到着した電車に駆け込んだ。


 手摺に掴まって息を整えるが、動悸が止まらないのは走ってきたからではないだろう…。


 あれは一体なんだ?

 私は何を見たんだ?


 女の子に無理矢理キスされて嫌がっていたあの子が、自ら女性にキスをしていた。あれは誰なんだ?自分の知っている陽太じゃない…、気味が悪い…。



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