第35話 俺の人生…めちゃくちゃだ……

「かいどう…?」


「夕夏さんはあまり聞き覚えがないですよね。この人の最初の結婚相手、海藤かいどう雅晴まさはるさんの兄夫婦なんですよ」


「兄夫婦?…っていうか、陽太くんはなんでそれが分かったの?」


「…興信所に依頼して調べてもらいました。そして、2週間前に夫妻にお会いしてDNA鑑定をしたら、見事親子だと証明されましたよ」


「…海藤さんのお子さんが陽太くん?じゃあ、美奈の本当の子供はどこに行ったの?」


「海藤夫妻にもお子さんがいます。俺と一ヶ月違いに生まれた『さとる』という男の子だそうです」


 後は言わなくとも想像できた。つまり、『陽太』と『智』は入れ違いになり、これまで別家庭で育ってきたのだ。


「そんな事って…なんで…こんなことになってるの?」


「それはこの女に聞いたほうが早いと思います。子供を入れ換えたのはこの人ですから…」


 ダイニングテーブルに手をつき、ずっと黙っている美奈。二人は美奈に視線を向ける。


「美奈が子供を入れ換えた?なんのために…」


「………」


「ねぇ、美奈!」


「『実子が可愛くなかったから…』じゃないのか?」


 陽太の言葉に美奈は怯えた目を彼に向ける。冷徹な眼が美奈を見下す。


「海藤婦人が言ってたよ。おまえは産まれてきた我が子の眼が小さいだの、かわいくないだの、散々ほざいてたらしいな。


だから、見た目が良かった『俺』を連れ帰って『自分の子供』を置いてきた…違うか?」


 美奈は何も答えなかったが、この女ならやりそうだと夕夏は体を震わせた。


「うそ…だよね?

…そんな、理由で?

ねぇ!美奈!嘘だって言ってよ!」


 夕夏は美奈に詰め寄る。追い込まれた美奈は事実を話した。


「………だって…

あんなババアの子供が可愛いなんて、ムカついたから…」


 夕夏は目の前が真っ暗になった。

 その場に座り込んで、頭を抱える。


「そんな……そんなぁ…

そんな下らない理由で……他所よその家の子供を…?なんで…そんなぁ…」


 夕夏はこの世の終わりのような絶望感に襲われ崩れ落ちる。


 美奈の身勝手で陽太は、この女に振り回され、搾取され、身も心もボロボロにされたのだから…。


 陽太は暗い目で、これまでの苦痛や苦悶を思い出し嘆いた。



「ほんとうに……なんなんだよ、これは…


お前のせいで…俺の人生…めちゃくちゃだ……」



 悲愴がその場を包み込む。二人は美奈を罵倒してはいなかったが、張り詰めるような空気が彼女を責めていた。


「何よ!お前をここまで育ててやった『母親』は私よ!立派に育ててやったでしょうが!」


「ふっざぁけんじゃねぇぇっっ!」


 美奈の言葉に陽太はキレた。彼女の胸ぐらを掴んで上に持ち上げる。爪先立ちになった美奈は陽太の鬼の形相に恐怖した。


「お前なんか『母親』じゃない!お前の『息子』でいることがっ、どれほど苦痛だったことかぁ!」


 陽太の怒りは爆発した。

 いや、今までよく耐えてこれたと思う。胸の奥底に閉じ込め続けた業火が一気に燃え上がる。


「お前には罪を償わせてやってもいいんだぞぉっ!

育児放棄!養育費の使い込み!経済的DV!


だがなぁ!一番決定的なのは、俺に売春させたことだぁ!」


 美奈は体をガクガク震わせた。陽太は食い殺すかのような目で美奈の目を見る。


「お前に指示された時の音声データ、やり取り、ヤってるところやお金を受け取っているところの隠し撮り…全部記録してある!


これを警察に突き出せば!あんたは塀の中だ!


今まで通りのぬるくて甘い生活がしたいなら、2度と俺と夕夏さんに関わるなぁっ!」


 陽太は美奈を突き飛ばす。

 唸るような声で、『出ていけ…』とおびやかすと彼女は逃げるように出ていった。



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