第5話 それとも、俺にします?

 案の定、仕事が片付かず残業していた。定時より二時間ほど打ち込み作業をして、ロッカールームで鞄を引っ張り出す。スマホを見ると陽太からのメッセージが来ていた。


『遅いようですけど、残業ですか?』


 首を傾げて鳴いている犬のスタンプが一緒に送られていた。仕事中はスマホをロッカーに入れるのが原則なので、返信することもできなかった。


 今から電車に乗ったら9時過ぎてしまうので、『先に食べてていいよ!』と打って帰路についた。







 2時間後にようやく家に着いた。ドアを開けるとリビングから光が漏れていて、テレビの音が聞こえる。ダイニングの前の扉を開けると、陽太がテレビから目をこちらに向けた。


「ただいま~」


「おかえりなさい。夕夏さん」


 テレビを消して笑顔で出迎えてくる陽太。テーブルを見ると二人分の食器が用意されていた。


「夕飯食べてないの?」


「ええ、夕夏さんが帰ってくるの待ってました」


「そっか…」


「お風呂も沸いてますよ。入ってる間に夕飯の準備しますから、お先にどうぞ」


「至れり尽くせりだな~」



「ご飯にします?お風呂にします?…それとも、俺にします?」



 夕夏より背が高いのに、テーブルに手をついて上目遣いをしてくる陽太。

 本当に中学生なのか…?


「……あっはは!すごいこと言うね!じゃあ、お風呂入ってこようかな?」


 夕夏は視線を反らして目映い顔の彼から逃れる。入浴後に食べたアヒージョは肉とトマトが絡み合っててめちゃくちゃ美味しかった。



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