新しい家族、新しい環境

第37話 海藤家の『実子』となることが出来る。

 陽太が興信所に依頼した内容は、海藤かいどう雅晴まさはるの居場所の捜索だった。自分の元父親である彼なら、自分の赤子の頃の事を聞き出せると思ったからだ。

 けど、彼は引っ越していた上、転職していたらしく、それ以上消息を辿れなかった。


 結果を聞いて落ち込む陽太だったが、担当してくれた探偵は優秀な方で、彼の兄夫婦の居場所は突き止めてくれた。陽太は藁にもすがる思いで、海藤家に突撃した。

 話を聞く内、同年の子供がいることを知り、念のため持って来ていた検査キットで父子・母子鑑定を行った。


 1週間後に届いた結果を見て、陽太は腰を抜かしてしまった。予想が見事に当たっていたからだ。

 結果を夫妻に見せて『特別養子縁組』して欲しいと頼み込んだ。二人は了承してくれた。








 陽太と夕夏は児童相談所に向かった。美奈の育児放棄を暴露するためだ。『特別養子縁組』には実親の同意が必要になってくる。けれど、その意思が表示できない場合や、虐待やその子供の利益をいちじるしく害する事由じゆうがある場合は、同意が不要になってくる。


 幸い、陽太は『母親の悪事』の証拠ならいくらでも持っていた。食事や必需品を与えず世話をしない。養育費や学費の私的利用。無職の上に散財。借金の借用書など…。

 首が回らなくなって家を売り払って、妹に子供を預けて蒸発した(という筋書き)母親。もはや、『悪意の遺棄いき』に達していたので、本人の同意なしが認められた。


 性的虐待の事は提示しなかった。陽太の名誉にも関わってくるし、証拠は十分だったからだ。


 海藤夫妻と児童相談所が必要書類を用意して、家庭裁判所に『特別養子縁組』を申立。6ヶ月間の『監護』期間を経て審判が下されれば、陽太は海藤家の『実子』となることが出来る。





 諸々の手続きをしている最中、夕夏は陽太と共に海藤家を訪ねた。陽太の『本当の両親』に挨拶したかったからだ。

 夕夏は挨拶をすると、二人に頭を下げた。美奈の唯一の肉親として、彼女の所業を誠心誠意謝った。陽太も海藤夫妻も夕夏を慰めて頭を上げさせた。

 二人も心の整理がつかないが、『夕夏のせいではない』と言ってくれた。




 夕夏は『さとる』の事について訊ねた。




 彼は4年前に亡くなっていた。




 不妊治療の末にようやく授かった我が子に夫妻は『さとる』と名付け、慈しんでいた。

 活発で明るいが、癇癪持ちな所があった。そのせいで人と衝突して問題を起こしてばかりだったが、小学校に上がってサッカークラブに入ると少しずつ変わってきたという。協調性が生まれ、すぐ怒ることはなくなり、人に気遣える子供になったという。


 10歳の時に車に轢かれて智は帰らぬ人になった。今でも死んだことが信じられないと…婦人がこぼした。


 夕夏はサッカーボールを抱えて満面の笑みを向ける智の写真を見て、静かに泣いていた。

 自分は、『本当の甥っ子』に会うことすら出来なかった。それが悔しくて、悲しくて、涙が止まらなかった。


 声を抑えながら泣いている夕夏の肩を陽太は抱き寄せる。皆、悲しみに暮れ掛け合う言葉もなかった。




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