第16話 不快だよ…
祭り囃子のBGM。提灯の灯り。立ち並ぶ出店。たこ焼き、焼きそば、ベビーカステラ、チョコバナナ!いいな、いいな!私も中学生の頃に戻ったみたい!
陽太と一緒に屋台の食い歩きをする。焼き鳥とビールを見たとき、かっ食らいたい衝動に駆られるが我慢する。陽太の保護者として外で酔っぱらう訳にはいかなかった。
「うそ!南條くんだぁ!」
ラムネを飲んでいると、明るい女の子の声が飛んでくる。浴衣姿の女の子4人が近付いて陽太の周りを囲んだ。
「どうも……」
「南條くんがこういうのにいるなんてめずらし~!」
「だよね!会えてラッキー!」
地元のお祭りなので、おな中の同級生に出くわしても不思議じゃない。にしても、女の子が目の色変えて飛んでくるなんて、本当にモテるんだな。グループの一人が夕夏に気付いた。
「その人だーれ?お姉さん?」
『母親』と呼ばれなかったから、セーフ!流石にそこまで年増に見えないか!良かった。陽太は『親戚のお姉さん』と紹介した。わざわざ『叔母さん』という必要なんもんね。
まとわりつく彼女達を当たり障りのない会話で追い払う陽太。夕夏を連れて本殿の前まで逃げてきたが、女の子の一人が追ってきていた。
陽太は苦い顔をした。二人きりで話がしたいと持ちかけてきたが、粗雑な態度を示す。
「家族と一緒だから遠慮してもらえる?」
ちょっと冷たい言い方が気になった。夕夏は自分のことはいいからと陽太を送り出す。なんだか不機嫌になった彼は女の子と一緒に本殿の裏手へ歩いて行った。
舞台のカラオケ大会を座りながら見て、陽太の帰りを待つ。だが、遅かった。かれこれ30分は経ったが、戻ってこない。
まさか、告白OKでそのまま神社の裏で!いやいや、エロ漫画じゃないんだから、ないでしょ。
心配になった夕夏は陽太達が消えた本殿の裏へ向かう。傾斜になっている林の中を歩いていると、木の間から抱き合う陽太と女の子の姿を見つけてしまった。
お~うっ!ドンピシャ!
まさか、本当に熱烈なシーンに出くわすとは!
抱き合う二人に唖然としてしまった夕夏。お邪魔虫ならこのまま帰ろうかと思ったが、少し様子が違っていた。
女の子が陽太に抱きついているが、陽太は肩に手を当てているだけだ。彼女の肩が小刻みに震えているから、泣いている彼女を慰めているのだろう。
陽太が彼女を振って泣かれてしまったんだろう。あんなに誰かを好きになれるなんてすごいと思った。
夕夏も年頃になったら異性を意識した。仲のいい男子や部活の先輩なんかを…。でも、夕夏は恋愛にエネルギーをあまり使わない。誰が好きとか、付き合ってるとか、学校生活のステータスみたいで疲れてきてしまう。
陽太が女の子をはがして肩を擦っている。そろそろ終わるかなと見守っていると、女の子が背伸びして陽太に『キス』をした。陽太は女性相手だとは考えず、思いっきり突き飛ばした。
「さすがにこういう事されるのは、不快だよ……」
陽太の低い声に乗せられた苛立ちは、女の子を青ざめさせた。別の意味で泣き止んだ彼女を置いて立ち去ろうとした陽太は、夕夏と目が合ってしまう。
夕夏は何の反応もできずに棒立ちになっていまい、陽太が近付いて手を引いてくれたので、歩く事ができた。
少し人足の減った境内を陽太に引かれて下りていく。喧騒の中なので話しかけることもできなかった。石段を下りきり駅の方へ歩き出した。
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