第59話 毎日すっごくキラキラしてるよ!

 レストランに着いて食事をはじめる。クリスマスはフレンチだったので、今回はイタリアンにした。コース料理じゃないが、お祝いプランがあったので食事の後にはケーキが運ばれてきた。


「お誕生日おめでとう!陽太くん!」


 ケーキを前に喜んでいる夕夏。鞄の中からプレゼントを取り出し陽太に差し出した。その場で開封すると時計が出てきた。


「ありがとうございます。毎日付けますね」


 陽太は箱から丁寧に時計を取り出して左腕につける。そこまでごつい時計ではないが、革製のベルトにシックな造りの腕時計だ。


「やっと……15歳か。あと、3年も待たないといけないのか……」


 以前は15歳になるのが怖かった。特別養子縁組の年齢制限が『15歳以下』だったからだ。でも、海藤の戸籍に入った今は早く18歳になりたかった。


「この時計の針が早く進んで…さっさと18歳にならないかな…」


「あっはは!陽太くんは詩人だね!そんなに焦んなくても、私は逃げたりしないよ!」


「でも、俺……夕夏さんと同い年に生まれたかったです。そしたら、高校生活を一緒に謳歌できたのに……」


「おお!それは楽しそうだね!」


 確かに陽太と同い年ならどれだけ良かったろう。学生時代を共に過ごし、共有できる事はたくさんあっただろう。


「確かに学生時代に陽太くんがいて、私の『彼氏』だったらすっごくキラキラしてたかも!

でもさ、『青春時代』がキラキラの全てって訳じゃないよ」


 夕夏の学生時代は勉強ばかりだった。別につまらなくなかったし、暗かった訳じゃない。でも、恋人がいてうきうきするのは『何歳』でも変わらないと思った。


「私、陽太くんと付き合ってから、毎日すっごくキラキラしてるよ!」


 頬杖をして歯を見せてにっこりと笑う夕夏。こんな可愛い人と恋人になれて、本当に嬉しくなった。


「じゃあ、もっとキラキラするために、夕夏さんが学生時代にしたかった事をしませんか?」


「ええ!なんだろ?一緒に帰りながら買い食いしたり、デートしたりとか?」


「じゃあ、たまに学校帰り待ち合わせてデートしましょう!」


「いいね!またにしようか!」


 笑いあってケーキを食べる夕夏と陽太。付き合いを公言することはできないけど、二人を阻む障害はもう何もない。

 食事を終えた後は予約した部屋に泊まる。レストランからのホテルって一回やってみたかった!いや、部屋では何もしないよ!

 そう思っていたが、陽太はやる気満々らしかった。ソファーに並んで座っていたら、襲われました。


「ちょっと!……陽太くん!これ以上はダメよ!」


「……ちょっとだけ、ダメですか?」


「ダメっ!」


「…………」


「そんな子犬みたいな目で見てきても、ダメなものはダメっ!」


 陽太は肩を落としてショボくれる。夕夏は乱れた服を整えて深呼吸する。


「残念、誕生日だからいけるかと思ったのに……」


「陽太くん!あのねぇ!」


「分かってますよ……『18歳になるまで』ですよね?」


 本当に守るつもりがあるのか訝しむ夕夏。陽太は背もたれに肘をかけてこちらに微笑んだ。


「ところで夕夏さん。『大人のおもちゃ』に興味ありますか?」


 爽やかな笑顔でなんてことを口走るんだ、この15歳は!


「なにする気?」


「そりゃ~いろいろエッチなことを!」


「君ねぇ……ちょっとは健全になりなよ」


「ええ?好きな人と『ヤりたい』と思うのは健全じゃないんですか?」


「もっとやることあるでしょ!勉強なり、部活なり!」


 夕夏の言葉に陽太はつまらなそうに姿勢を戻す。夕夏は少し後悔した。口煩い母親みたいな事言って、堅苦しく遊び心のない自分。そんなんだから、今まで彼氏がいなかったのだ。

 一人で暗い気持ちになっていると、陽太が思い付いたように声を出す。


「じゃあ、バイトします!お金貯めて!夕夏さんにちゃんとした『指輪』を買ってあげたいので!」


 陽太のその笑顔を見て、夕夏は思い出した。陽太は昔から真面目で素直な子だった。確かにいろいろ変わったかもしれないが、根本的な部分は変わってない。

 可愛い『元』甥っ子で、今は婚約者だ。


「よろしい!健全な仕事をするんだよ!」


「は~い!」


 子供らしい笑顔だ。

 そんな顔付きにしてあげられた事を夕夏は誇らしくに思った。




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