第51話 いいって…言った。

 予約したフランス料理店は正装をするような本格的な店ではないが、内装もおしゃれで落ち着いた雰囲気だった。フレンチのフルコースを楽しむ夕夏と陽太。さすが一人18,000円の料理は豪華だな~と思うのは、ド庶民の考え方だろう。だって、ウニとか高級和牛とか普段食べないし。でも、せっかくのデートなんだから贅沢しても良いだろう。


 食事を楽しんだ後は、外を手を繋いで歩いた。デートスポットとしてオススメされていたイルミネーションの綺麗な通りをゆく。青いLEDの木々の間を歩き、その先にある装飾されたクリスマスツリーを見上げる。こういう恋人っぽい事をしているなんて、驚きだな~。ライトに照らされている横顔もカッコいい。


 しばらく、七色に輝くイルミネーションを見ていると、いちゃつくカップルが目に止まった。人目のある中でキスをする男女を夕夏は横目で見ていた。

 去年までならこの時期すれ違うカップルを見たら、『爆発しろ!』と心の中で呪っていたが、恋人と手を繋いでいる今の夕夏は呪われる立場だろう。でも、衆人環視の中で熱烈な事をするのはちょっと不快に思えた。


 陽太も夕夏の視線の先の恋人を見た。バカップルが盛っているだけだと呆れたが、正直羨ましかった。

 自分も夕夏とイチャつきたい。キスして身体中舐め回して、自分のを押し込んで、泣かせるぐらいイかせてやりたい。



「夕夏さん、ホテル行きませんか?」



 …聞き流そうかと思ったが、驚きすぎて体が反応してしまった。聞き取れていたのが、バレてしまう。


「あっはは…、直球なこというね…」


 引きつった笑顔を返すが、これ以上濁す言葉が見つからない。強く握られた手が圧迫感を与える。七色に入れ替わるイルミネーションと人の波に、二人の時間は置いていかれる。


「すみません。今のはなかった事に…」


「いいよ…」


「えっ!いまっ!何て言いましたっ!」


 俯く夕夏の顔を覗き込む陽太。夕夏は返事を変えようか迷ったが、そのまま答える事にした。


「……いいって…言った。2回も言わせないで…」


 陽太は唾を飲み込み、スマホで周辺のラブホを調べて、夕夏の手を引いた。駅周辺の繁華街を通りすぎて、目的地の建物に入る。パネルの一室をタッチしてエレベーターへ向かった。フロントに断りもなく入って良いのか心配したが、ここは無人フロントらしかった。


 ラブホなんて入ったことないから知らないよ。


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