元甥っ子イケメン婚約者
第57話 ストーカーで通報するわ…
3月中旬。合格発表やら、卒業式やら、学生はやることが沢山あるだろう。陽太は見事、都内の進学校に合格した。この一年、受験よりもやることが多く人生の転換期であった陽太だったが、無事に受験を終えられ、しかも点数はトップクラスだったという。
本当に末恐ろしい……。
そして、もう一つ嬉しい報告がある。6ヶ月間の『監護』期間が終わり、家裁から認可が下りて陽太は晴れて海藤家の『実子』となることができた。『南條』の戸籍から抜けて、『海藤陽太』となった彼は、本当に夕夏の『甥っ子』ではなくなった。
会社終わりに山手線に乗り東京駅に着いた夕夏は、ドーム屋根の下で陽太を待っていた。今日は3月22日。陽太の誕生日だ。二人で誕生祝いをするために待ち合わせている。陽太は夕夏と過ごしたいから海藤夫妻には前もって許可を取っていたし、夕夏も楽しみにしていた。るんるん気分で待っていると、場違いな男が夕夏に話しかける。
「今から『陽太くん』とデートか?なんじょ!」
「うわぁっ!ビックリした!」
夕夏は跳び跳ねて杉山から距離を取る。彼の出現に困惑しながら訝しむ。
「何であんたがいんのよ!」
「そりゃ、お前の後を付けてきたからに決まってんじゃん!」
「えっ……ちょっ、ふつーに怖い。ストーカーで通報するわ…」
夕夏はスマホを取り出して、本気で110番しようとした。杉山は慌てて夕夏の手を止める。
「待て待て!それがお前達を身を挺して守った男にすることかぁ!」
「何のこと?」
「会社の奴らがさ!お前の後付けようとしてたんだよ!だから、俺が代わってやったわけ!」
夕夏が今日デートモードだったのは誰の目からも明らかで、それを見た数人の社員が夕夏の婚約者を見てやろうと話していたらしい。もちろん、プライベートに首を突っ込むなんて非常識だが、察知した杉山が尾行役を買って出たのだった。
「うそ……そんな事になってたなんて…」
「まぁ、普段『パンツスタイル』のお前が『スカート』履いてりゃ誰でもピンと来るって!もうちょっと普段から『女らしい』格好しとけよ」
「……そーだね」
「安心しろ!皆にはイケメンだったと伝えとくよ!年齢は伏せといてな!」
「ありがと……」
勘の鈍い夕夏にとっては杉山の気遣いは本当に助かった。
「……で?」
「ん?」
「あんた、いつまでここにいんの?」
用件は済んだのに居座る杉山を睨む夕夏。もうすぐ待ち合わせの時間になってしまう。
「用は済んだでしょ!なら、帰ってよ!」
「えぇ~!俺も陽太くんに会~い~た~い~!」
「か~え~れ~!」
夕夏は杉山を帰そうとするが、抵抗する杉山。わちゃわちゃやっている間に陽太が待ち合わせ場所に来てしまう。
「よう!元甥っ子イケメン婚約者くん!」
「肩書きなげぇよ!」
夕夏のツッコミに大笑いする杉山を陽太は訝しむ目で見た。夕夏が杉山にバレた事をすぐに謝った。今までの経緯も話してしまった事も含めて…。
「まぁ、俺としては他言しないでくれれば、何でもいいですよ」
「お、さすが!懐がでかいね~。陽太くん!
いや~、君の生い立ちとその行動力を聞いて、俺涙が止まらなくてさ~。本当に尊敬するよ!今度一緒に飲みに行かねー?」
陽太を飲みに誘う杉山の
「痛ってぇ!なんすんだよ!」
「未成年だ!バーカ!良識ないのか!」
「はぁ!中学生に手ぇ出したお前に言われたくねーよ」
「ばか野郎!だから!なんで言うのよぉ!私を本気で社会的に終わりにしたいのかぁ!」
「おちつけ!なんじょ!声がでけぇ!」
夕夏は杉山の髪を掴んで振り回す。引き千切られそうなぐらい引っ張られて痛がる杉山。そんな二人の様子を陽太は笑って見ていた。
「仲がいいですね、お二人とも…」
「おお?嫉妬か、婚約者くん」
「いえ、なんか漫才見てるみたいで面白いです。それか、兄妹の喧嘩のようですね」
「なっ!こいつが兄貴なんて絶対嫌よ!」
「俺もいらねーよ!できるなら、黒髪ロングの巨乳女子高生だな!」
「いや、あんたそれ、社会的にアウトでしょ!」
「そのままブーメラン!」
「ぐはっ!」
杉山の鮮やかな切り返しに笑う陽太。本当に相方のように面白い二人だった。
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