ページ21『笑って不意打ち』

「ゆぴ、ハプを抱えてもっと遠くへ逃げて。」



ケピの行動を見たペリィが、遠くで見守っていたゆぴにそう言った。



「ん、でも、これくらい離れてりゃ大丈夫じゃない?

それに、もしあたしがこの辺離れてアンダ達になんかあったら、あたしは責任とれないんだけど。どーしよってんの?」


「ここに居たら君もハプも危険だよ?シアル様はここにいて欲しいし、僕は逃げれるわけがないだろ?

そうなると、気絶して戦闘不能状態のハプを安全な場所に連れ出せるのは君だけになるんだよ。」



それを聞いたゆぴは少し考えて理解し、咄嗟に浮いて遠くへ飛んで行った。



「ねぇ、ケピいつまで待てばいい訳?君たちのおしゃべりを聞いてる暇とかないのに、仕方なーく聞いてあげてるんだよ。

ねぇ、ねぇねぇ、そーろそろ攻撃しちゃってもいいかな?」


「そうだね、暫し待機してくれたことには感謝するよ。まさか待ってくれるとは思ってなかったものでね。

でも、そちらから攻撃してくるわけだ。

こちらが攻撃して、そちらが文句を言ってくる、なんてことは無いよね...?」



いつもの調子でペリィは語った。シアルは先程まで立っていたいちから移動して、不意打ちができるようにした。



「うん、どういたしまして。ここからはケピ遠慮とかぜーったいしないから。

覚悟しとけよクソ眼鏡。こんなに可愛いケピだけど、実力としてはある程度のものだから。

そんなゆるーい気持ちでやってたらー、死ぬからねー。」



声のトーンを落として、魔力をさらに集めながらケピは言った。

かなり怒っている。でも、まだ本気ではない。



「論破されてそんなに悔しかったのかな?ケピ君。

そんなに悔しいのなら御自慢の屁理屈を僕にぶつけて、逆に僕を論破してみたらどうかな?

そうすれば僕もきっと、君を認めることになると思うから。」



怒っているケピをさらに挑発し、ケピの視線全てをペリィは自分に引き付けた。

ケピはさらに両手のうちに魔力を込め、どんどん攻撃の質を上げて行った。

しかしペリィは怯まず、1歩もその場所から動かなかった。



「いいよ、いいよ!そんなに死にたいんだねー!お望みどーりに殺してあげよーじゃん!

ケピ優しいね!言ってもないのに何して欲しいか理解してあげて、しかもちゃんとお願いを聞いてあげるなんて!

最高だね!」



段々とケピの周りに、大量の風が舞いだした。

その近くにいたペリィとケピは、風で服や髪をたなびかせて、風に抵抗しながら喋っていた。



「僕を殺すのは僕の望みを叶えるのではなく、君の望みを叶えるためじゃないのかな?

僕は死ぬことを望んではいない。挑発されて言い返せなくなった君が、自分の怒りを癒すために僕を殺すのでは無いのかな?」



ペリィは暴風で声がかき消されないよう、いつもより声を張り上げながらさらに挑発した。ケピが怒り、魔力の波動で更に風は吹き荒れた。



「黙れこのクソ野郎ォ!屁理屈言ってんのはそっちだろぉー!いくら優しいケピでもこれは見逃せませぇん!

黙れ!黙れ!黙れ!こんなこと言ったこと、地獄の最終下層から後悔しろぉ!

馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」



そう言って、ケピはその魔力の全てをペリィに向かってほおり投げて、水に変換した。

その水は大津波となり、ペリィをそのまま包み込んだ。ペリィは水で見えなくなっていて、中の様子は全く分からなかった。



「所詮は口だけだよね!ケピを論破できたからってチョーシ乗るなー!

ケピの方が強いんだから!ケピの方が愛されてる!好かれてる!世界に認められてるの!

ばーかばーか!きゃは!カワイソー!」



ケピは魔力をかなり一気に放出したせいか、少しふらつきながら言った。

次の瞬間、ケピに紫色の魔術攻撃が命中した。

シアルが不意打ちで、背後からの攻撃をしかけた。

シアルはニコっと笑って呟いた。



「ペリィが挑発して引き付けてくれたおかげで、僕はあまり目立つ事なく移動できたし、あれほどの一撃を打ってくれたのもペリィのおかげだよねー。

僕のしたいことを全部先読みして、攻撃しやすい状況作るなんて、さすが。僕が副リーダーに任命しただけあるよねー。」



ケピは不意打ちをくらって振らついて、ギリギリで立ち直った。

そして後ろを振り返り、シアルを見つけると思いっきり睨んだ。



「君さぁ、なんなのー?酷くなーい?初めっからこのつもりだったって言うのー?なんなのー?!弱いからってセーせーどーどーと勝負しないのー?

弱いからさぁ、こんなフーにずるーいわるーい作戦とか考えてやるのー?

おかしくなーい?理不尽じゃなーい?

弱い人ってカワイソー。ワラワラだねー。」


「これは作戦の一貫。頭脳系も、戦場においては大切だということを君は学ぶべき。」



ケピは機嫌悪そうに、シアルに話しかけた。シアルはいつもの穏やかな笑顔で、そう返した。

ケピはそれを見て余計イラついたのか、もう一度手に魔力を込め始めた。



「わざわざ魔力を込めて攻撃するところを見せなくても、好きな時に攻撃してくれて構わないんだよー?

僕と本気でやり合うつもりなら、ね。」



シアルは余裕な笑顔でそう言って、杖を構えて戦闘態勢に入った。

ケピもそれに反応し、手を前に出した。

ケピが手を前に出してそれをシアルに向けると、上空に灰色の雲が出てきて、大量の雨が降ってきた。

シアルはその雨に魔力ガこもっていることに気がつき、杖を上空でクルクル回しながら雨を防いだ。

雨が止まったことを確認すると、シアルは杖をケピに向かって振った。

すると、紫色の斬撃がケピに向かって飛んだ。



「しっつこいなぁ!さっさとやられてくれれば終わるのにさぁ!

ウザイんだけど!ねぇ、ねぇねぇ!ホントにもー!みんなみーんななんなのよー!」



ケピが手を前に出すと大きな雪の結晶の形をしたシールドが現れ、シアルの斬撃を防いだ。


ハイレベルの戦いが、荒地で繰り広げられた。

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