ページ2『食べれるかっ!』

「おにちゃーま、先にご飯を食べようとしたら、めっ! なのですよ!」



食事の用意されているリビングへ向かって、席について朝食をとろうとしているハプを、追ってきたケプナスが引き止めた。



「どうして? ほわ、お腹すいたのに..….」



当たり前。なぜなら転生前も、結局おかゆと佃煮とビーフステーキは炎々と燃え広がる炎に飲まれ、恐らくまっ黒こげになってしまった。


穂羽は、そしてハプは、今日1日何も食べていない。



「待ってなのです! ケプナスが心をミキサーにかけて注いだ美味しいスープと、ケプナスの心を溶かした水で炊いたご飯と、ケプナスの心をスライスしてトッピングしたサラダを盛ってあげるのです!」



「言い方...…。ケプナスの心、ズタズタだよ...…精神状態大丈夫.…..?」



「そ、そそそそそういう意味じゃないのです! 心を込めたって言うのを言いたかったのです!」



そう言いながら自分の心をズタズタにして作った朝食を盛り付けるケプナス。



それをハプは、なら最初からそう言えばいいのに……



というツッコミをこらえながら見ていた。



「ほらほら、でーきたのですよー! ケプナス特製のあ、さ、ご、は、ん、なのですっ!」



そこに並べられたのは、色とりどりの野菜、ほかほかのお米、野菜と共に煮詰められた鮮やかな色のスープ!


...…ではなく、原型を留めていない野菜ともはやお粥を通り越して水と一体化したお米、まるで沼のようなどす黒い色をした液体だった。



「..................ケプナス?」



「召し上がれっ、なのですっ!」



「......ケプナス?!」



「いただきます、なのですっ!」



「..….ケプナス!」



「は、はわわわ、なんなのです!?」



やっと名前を呼ばれていることに気がついたケプナスは、椅子をひっくり返しながら返事をする。



「これは何? ここに、テーブルに並べられている物体と液体は何?」



その物体と液体から距離を取りながら、それ等を指さして聞いた。



まさか、食べ物では、ないはず。



という希望を込めて。



「スープとご飯とサラダなのです! さーあさぁさぁさぁ! おーめーしーあーがーりーくーだーさーいーまーせ?なのです」



パヤァァという効果音が今にも聞こえてきそうな笑顔でケプナスはそう言った。


この物体と液体は『食料』だと。



「...ケプナス、え? ケプナス? 頭おかしくなっちゃった? え? 大丈夫? ちょっと病院行く? あ、病院の場所分からないや」



「ま、待って待って待って待て待て待てなのです! ケプナス病院はだーい嫌いなのです! 絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対行きたくないのです! そもそもなんでこんな天才的頭脳の持ち主ケプナススルーリーが病院なんか行かなきゃなのですか! おかしい、おかしい、おかしいのです!」



目に涙を光らせながら、高速後退りをして壁にぶち当たり、スルスルとへたりながらケプナスは言った。


その様子を、ハプは決別の目で見つめる。



「い、嫌なのです...お願いしますなのです...…。ケプナス悪いことしないのですから、びょーいん、行きたくないのです.…..」



「わ、わかったよ..….これ、本当に食べれるんだね?」



ハプは恐る恐る食料と呼ばれた物にスプーンを近づける。


そしてその液体をすくい、震える手でスプーンをもって口に近づけていく。



「が、頑張れハプスルーリー! あと1歩の勇気! それだけ! 頑張れ! できる、できる、君ならできる! やれ! やるんだ! ハプスルーリーぃぃ!」



「おにちゃーまこそ病院、行くべきだと思うのですけどね。」



そして思いっきり口を開けて、液体を口に運ぶ。


それをケプナスは不思議そうな目で見ている。



パクッ



口にした、その瞬間━━━━



「ヴッ」



ハプは椅子から立ち上がり、高速で調理場に向かい、口を3回すすいだ後に5回のうがいをした。



「ケプナス! ケプナス! ケプナススルーリー!!!!」



「はわわわわ、なんなんなんなんなんなのです!?」



凄まじい形相で近づいていくハプを見て、後退りしながら、ケプナスは返事をする。



「これのどこが食べ物なのかなぁ!? ほわ、こんなに口にした後に死にたくなる『食料』は初めてだよ!! なにこれ! 毒でも盛った!? 最低、最悪、馬鹿!」



「ど、どく? ケプナスはどくなんてつけてないのです。ステータスを見てほしいのです。『ステータスオープン』って言ってなのです...…多分毒はついてないのです。」



オドオドした様子でケプナスは答える。信じきってはいないが、ハプは念の為確認してみる。



「...…ステータスオープン」



【ステータス】


【HP】305/25000


【MP】0


【状態変化】―



「ほ、ほら! 毒、ついてないのです!」



「ならさあ、このHPが27685も減ってるのはなんでだろうね? ケプナス?」



ステータスのHPの部分を指さして、ハプはケプナスに問う。



「HPのとこを長押ししたらどうやって減ったか分かるのです...…」



言われるがまま、ハプは『HP』の表示を長押しする。



【ステータス】


【HP詳細】


体内に異物を確認。-27685(2分前)



「ケープーナースースールーーーリーイーー?」



燃えるようなオーラを放ちながら、ハプはケプナスに近づく。



「ご、ごめんなさいなのです! でもケプナス何もしてないのです! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいなのです!」



必死に謝るケプナス。ハプは、少し立ち止まって、考える。この世界の料理は、全てがこうなのだろうか。



「ケプナス、ほわは、ケプナスのお料理は絶っっ対に食べれない。だから今日は、どこか外食しない? いいところ知ってる?」



「し、知ってるのです……。お店じゃないけど、リーダーに言ったらご飯くれるのです」



「ふーん...」



ケプナスの不味い料理から逃げるため。この世界の『料理』を確かめるため。



ハプとケプナスは、チームソルビ市の『リーダー』と呼ばれる人の所へ行くことにした。



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