ページ3『リーダー』

「こっち、こっちなのです!」



「ま、待って待って。」



ソルビ市の町中を、ケプナスに手を引かれて走っていくハプ。その時、初めてハプは自分の住んでいる町を見た。


初めて見た時、ハプはこう思った。



━━何この謎空間!



と。


その町は、とにかく、『混ざっていた』。


ハプの住んでる家のように、中世ヨーロッパの御屋敷のような家もあれば、近代的な高層ビルもある。江戸の街にありそうな瓦屋根の家もあり、宇宙船のようなものが沢山置いてある空港のような場所もあった。


……どうしてこうなった。


異世界転生でよくある、「現代知識でちやほやされる!」を少しばかり期待していたハプだったが、一見元いた世界より進んでいる。


ちょこちょこ進んでいなかったり時代のズレが生じているのは、恐らく魔法で補える部分と化学を使った方が効率がいい部分に差があったからだろう。



「...…はぁ」



そんなことを考えながら走っていると、ケプナスが急停止した。



「すとーーーっぷ! 着いたのです。」



「わわっ、急に止まらないでよぉ。びっくりするじゃん。......わぁ…」



ケプナスに案内してもらい着いた場所は、塔のような場所だった。四角柱の茶色いレンガでできた塔で、とても高い。


その上の方にはⅠ、Ⅱ、Ⅲ...と書かれた、大きな時計があり、時計台のようになっていた。



「ここが、『リーダー』っていう人のお家?」



「そうなのです」



「じゃあノックして呼ばなきゃ」



「ノック? ノックしなくても大丈夫なのです。」



ピーンポーン



そう言ってケプナスはインターホンを押した。


こんないかにも異世界らしい時計台にインターホンがついているなんて...…ハプはそう思ったが、何とかその感情をこらえて見ていた。



『はーい? 誰ですかー?』



インターホンから、穏やかに音を伸ばしながら喋る男の人の声が聞こえてきた。



「リーダーリーダーリーダーリーダーリーダーリーダー誰か当ててみろ!」



必死に「なのです」を堪えてケプナスは言った。その後インターホンから聞こえてきたはぁ...という溜め息で、いつも同じことをやっているのだとハプは理解した。



『ケプナスだね、ケプナススルーリー』



呆れたような声が聞こえてきた。それを聞いたケプナスは、驚いたようにインターホンから後退りした。



「な、ななななななんでわかったのですぅ!? 今回はなのですって言わなかったはずなのです!」



『あのねぇ、まず声。声変えないとそりゃあ分かるよねぇ。そしてそんなことするのケプナスくらいしかいない。そして極めつけ。そこにはカメラがありますよ』



それを聞いたハプは、思わず笑ってしまった。当たり前だ。インターホンにはカメラがついている。だから見える。ガッツリ『リーダー』にはケプナスが見えてる。



「なっ...…カメラ..….油断していたのです!くそぅ...…っ!」



いや誰でもわかるだろ。



『またご飯かな? いいよいいよ上がってー。ちょうど食べようとしてた所だからね〜。』



そういうと扉が勝手に開き、2人は中に入っていった。


中には、とにかく時計が沢山あった。中古のような時計、金ピカの時計、小さな時計、大きな時計、色々あった。壁は1面時計だった。



「リーダーの部屋は、こっちなのです。」



そういうとケプナスは大きな時計が置いてある壁を指さした。



「…...? 扉なんて、どこにもないけど...…」



「この時計を、指定されている時間に合わせたら鍵が開くのです。」



ケプナスは時計の針をクルクル回して11時42分23秒に合わせると、時計が扉のように開いた。



「おはよう、ケプナスにハプ。いい天気だね。」



そう言って穏やかに笑顔を作った男性は、2人に近寄ってきた。


彼は薄紫色の髪の毛で、髪が長めの男子くらいの長さの髪だった。瞳は横に長く、優しい目で紫の色をしていた。ケプナスが着ているのと同じ服を着ているが、下には長ズボンを履いていた。身長は高く、ちょっとしたかっこいい感じの人だった。



「…...だぁれ?」



ハプは、初めてあったその人に尋ねた。



「…...え?ハプ?」



「あ、おにちゃーまはきおくそーしつなのです! じこしょーかいしないと駄目なのです。」



「記憶喪失、ねー。ふむふむ……確かにそうみたいだね? わかった。僕は『チームソルビ市』リーダーの、シアルキャリソンだよ。あ、星5貴族ね。よろしく」



星5貴族…...ということは、まあまあいい家系なのだろう。差し出された手を見て、ハプも手を差し出した。



「うん、よろしく。…...リーダー?」



「あ、リーダーって呼ぶかどうかは自由だよ。シアルって呼んでくれても全然いいし。とある人には時計オタクとか呼ばれてるし.…..ね。」



困ったような笑顔で、シアルはそう言った。そして掛けてある梯子を登りながら、「ご飯取ってくるね」と笑顔で言った。



「この人、いつもニコニコしてるね。…...怖いくらいに。」



「怖い? 怖くないのですよ。リーダーはとーーっても優しー人なのです!」



そんなことを話していると、シアルが両手にお皿を乗せたトレーを持って、平然と歩いて梯子を降りて来た。



「やばっ。どうやってるの?!」



「ん? やばくないよー? 半分浮遊術で上半身を固定しながら降りれば簡単だよ?」



「あ、この世界にもやばいっていう単語あるんだ...…」



ハプはそう思ってボソッと呟いた。



「はい、召し上がれー」



そこに差し出されたのは、極普通の家庭料理だった。スライスされた食パンと、その隣に添えられたレタスとミニトマト、コンソメスープだった。



「お、美味しそう! ……食べていい?」



「ケプナスの料理の方が美味しそうなのです!」



「ケプナスよく言うよ...…あ、ハプ、食べていいよ」



そう言われるとすぐにハプは食パンにかぶりついた。



「あ、美味しい...…良かった...本当に良かった……」



「ケプナスの料理と比べられては困りますね〜」



腕を組んで穏やかな笑顔を浮かべながら、シアルはそう言った。



良かった。この世界の料理が全てケプナスの料理のようなものでないことが証明された。


これで安心して、この世界で生活ができる。



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