ページ30『昔話の偉人達』

「今、助ける!」



3人はひとつになって空を飛び、風の流れに乗った。それと同時に、3人の心も、ひとつになった。


――ケプナスを助ける。


これだけは絶対に成し遂げるのだ。

ハプはグッと胸に手を当てて、心に誓った。



「ゆぴ、ペリィ。覚悟は決まった?」


「勿論だよ。君の大切な妹で、僕の大切な仲間だ。明るいむーどめーかー、である彼女は、僕たちのチームには欠かすことのできない存在なんだから。」


「ったりめーでしょうが!あたしはあいつを助けてやるのよ!このあたしが助けてやんのよ!尊敬させてやる!

ニート・スペリクルに誓ってやってもいいくらいよっ!」



ペリィとゆぴもハプの方に顔を向け、自信に満ち溢れた表情で言った。ハプは頷いたが、それよりもひとつの単語に興味は持っていかれていた。


『ニート・スペリクル』


ゆぴがサラッと言った単語だが、それを聞いた時に、ペリィが一瞬驚いた表情をしたのは確かなこと。



「ねぇ、ゆぴ。ニート・スペリクルって、なぁに?」


「はぁっ?知らないってんの?」



ハプは当たり前のように疑問を述べると、ゆぴは一瞬驚きのあまり浮遊術をやめて落ちそうになった。ハプはそれを見て慌てて、ゆぴを浮かせた。



「ハプは記憶喪失なんだよ、ゆぴ。初めは魔術師のことも知らなかったんだからね。ニート・スペリクルのことも知らなくて当然だと思うよ。」



未だに落ち着かないゆぴに、ペリィは隣から説明を加える。



「あー、そういうのか。えーと、えーとね。ニート・スペリクルってんのは、あれよ。『1番初めの魔術師』って呼ばれてんだけど...あー、うん。あのね、なんか、神様?的な?」


「かみ、さま?」


「えーと、あーもう語彙力喪失!ペリィ説明してやんなさい!」


「最終的に僕に振られることは予想していたよ。もう準備済みだよ。簡単に説明すると、ゆぴの説明で合ってると思うよ。この世界で1番初めに『魔術師』だった人物だね 。彼は厳選した何人かの人物に、魔術の力を与えたんだ。例えばピグルット・マジシャンとか、プーリル・スルーリーとか、話を聞いたことはないかな?」



国際魔術協力連盟までの長い道のりで、ペリィはハプに『知っておいた方がいいこと』の説明を始めた。



「マジシャン、スルーリー。あっ、戦争の時に聞いたよ!ほわとかのご先祖さま、だよね?」


「その通りだよ。分かりやすいように、昔話風に説明してみよう。よく聞いてね。昔昔、ある所に___。」



ペリィはそれから、ハプに話を語り始めた。ゆぴもそれを聞いていた。


――昔昔あるところに、ニート・スペリクルという魔術師がいました。彼は、初めての魔術師であり、この世界を作り出した神様でもありました。

彼は、何人かの人々に『魔術』の力を与えました。魔術を使うと不思議な力を使うことが出来、それぞれの性格や特技によって固有の魔法も使うことが出来ました。

そんな力を悪いことに使う人もいれば、いいことに使う人もいました。人間は力を手に入れると、自惚れてしまうのです。

その魔術師の1人に、ナルシー・ゴールドという魔術師が存在しました。彼はとても強い力を持ちました。そして彼はその力を、悪いことに使ったのです。彼は1人で、世界を自分のものにしようとしました。身分を作り、差別のある社会を作り。魔術を使える『貴族』にはいい暮らしを、魔術の使えない『平民』には酷い暮らしを与え、言うことを聞かない人は殺してしまったのです。

平民達は怖がりました。それを見た魔術師のピグルット・マジシャンは、この世界を変えなければならないと、そう思ったのです。それから親友の回復術士、プーリル・スルーリー、初めての弟子であるアルロット・キャリソン、便利な固有魔法『瞬間移動テレポート』の開発者、ミクス・コリアと共にゴールドを倒そうとしたのです。

その4人は力を合わせて、ナルシー・ゴールドを討伐することに成功しました。

それからピグルットは『英雄』と呼ばれ、歴史に名を残すことになりました。

めでたしめでたし。


ペリィは語ると、目を閉じて、もう一度ハプに顔を向けた。



「実は裏から、精霊使いのフレンダー・ソーサーラーという魔術師が手を貸していた、という話もあるんだけど、それはまた別の話だ。

まあ、こういうこと。ニート・スペリクルはいわば神様だね。君にはわかるだろうが、ピグルット・マジシャンとプーリル・スルーリー、アルロット・キャリソンの子孫は...。」


「ケピ・マジシャン、レット・マジシャン。それと、シアル・キャリソン...。」



ハプは指を折りながら、名前を口に出して言った。

それを見ながら、ゆぴが隣から不満そうな顔で叫んだ。



「ちょっとちょっと!あたしの先祖忘れないで欲しいんだけど!?あれでしょ?あたしの先祖はさ、有名な中立魔術師で!ピグルットに手を貸して、ナルシーの討伐に関わってるじゃない!」


「そうだったね、ごめん。でも君の先祖は、名前も知られてないだろう?」


「そんなの、そんなのどうだっていいわよ!ピグルット・マジシャンはさぁ!あたしの先祖が中立だからとかいう理由で!ゆーぴぃー家を星四にしたんだわ!ふんっ!

...そういや、改めて考えるとやばいわよね。『英雄』ピグルットの子孫てケピレットでしょ?あいつら性格最悪。どこでどうなってああなったのよ。」


「そ、そうだね、でも、きっと!ケピとかレットも、いいひとなんだよ!話してみれば、仲良くなれるかも!

あ、そうだ、ペリィ。その、みくす、っていう人とふれんだー、っていう人の子孫はここにはいないの?」


「僕は、見たことないかな。」



そんなことを話しながら飛んでいると、いつの間にか目的地についていた。降りると、そこには大きな建物があった。

大きな城壁に囲まれていて、その中はまるで竜宮城のようだった。

そう、とても和風。

しかしその大きな門の前には、洋風の鎧に身を包んだ門番が2人立っていて、とてもおかしい。違和感しかなかった。



「す、すごい...ここが国際魔術協力連盟の本部、なんだね...。

相変わらず世界観...。」


「きっと門番に話せば通してくれるだろう。話をつけに行こうか。」



3人は少しずつ歩いていった。ハプはここに来て初めて緊張し、本当に大丈夫なのだろうかという不安に包まれた。

ペリィが門の前に立つと、門番はペリィに声をかけた。



「御用件は。」


「ケプナススルーリーの裁判をここで開くと聞いたんだ。通してもらって構わないかな?」


「裁判、ですか?予定表を確認します、暫しお待ちください。」



それから門番のひとりは懐から紙を取り出し、ペラペラとめくった。それから紙をしまい、目を細めるとペリィに対して言った。



「今日ここで、裁判の予定などございません。お引き取り願います。」


「――え?」


いつもは表情を変えることのないペリィだが、その時は少し表情が動いた。



「...でも、そっちの人が今日ここであるって...。」


「いいえ、今日裁判はありません。...もしこれ以上言うようであれば、強制的に。」



それを聞いてハプはとても不安になったが、ゆぴは思いっきり前に走っていった。



「はぁ!?アンタ、何言ってんのよ!デタラメ言ってんのはアンタじゃねぇの!?あたしはさ、ケプナス助けないといけないの!ふざけないでよ、遊びじゃないのよ!?」


「...そう言われましても。」



ハプはゆぴを見て、不安が吹き飛んだ。



「妹を、助けたいんです。」



心を込めて、それだけを言った。


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