ページ29『守りたい助けたい』

「なんで...。シアルはそんなこと言うの?

シアルのために、なんて言われたら、ほわ、何も、できないじゃない...。」


「そういうだろうね、ハプスルーリー、君なら。

君はとても、とても。優しい心の持ち主だから。僕のためだと言っていたら、それを断ることはないだろ。」



にこ、っと、優しい笑みを浮かべて、シアルは言った。

その笑顔の裏には、悪巧みをする、優しい、残酷な、悪魔の顔があった。



「じゃっ、ハプ。ゆぴとぺリィを呼んで、本部に向かってくれ。地図は..そうだね。

スマホで検索したら行けるだろ。全員未成年だから浮遊術で行くのが早いかな。

――絶対、勝ってね。」



軽くステップするような口調でハプにそう指示して、シアルも出発の準備を始めた。

最後の『絶対、勝ってね』。そこには、他とは違う意志の強さが込められていた。



「待って、シアル___。」



ハプが手を伸ばし、シアルを引き留めようとした時には、シアルはもう居なかった。




◇◆◇◆◇




ハプは街の大広間で、ゆぴとぺリィと3人で、話し合いをしていた。



「ありがとう、来てくれて...。2人とも、全く状況が分からないと思うから1から説明するんだけど___。」


「ねぇ、アンタのうるさい妹どこよ。」



ハプが説明を始めようとするとすぐさま、ゆぴは異変に気がついた。ぺリィのことだから、きっと彼も気がついていただろう。ぺリィは気がついていて当然なのだ。なんせ、チームソルビ市の仲間として、共に戦ってきたのだから。

しかし、ゆぴはつい最近あったばかり。

いる方がおかしいと思うはずなのに、ゆぴはすぐにケプナスが居ないことがおかしいのだと、そう思った。

2人はあの時言い合って、じゃれあったことにより、誰も気が付かない友情に結ばれていた。



「なんであいつが居ないの?あたしはさ、こういう場面であいつと会ったことないけど、多分あいつならこういう時、空気読まずに騒ぐんでしょ?

なんで?なんで?って。それでー、どうだろ。あ、なんか変な推理みたいなのやり始めて、おまかせあれ〜、見たいな?」



分かっている。理解している。彼女はあの時短い時間で、ケプナススルーリーのことをこの上なく理解している。

2人はお互いに、周りのみんなも。気づいていない。この2人の絶えることの無い友情に。



「そう、だよね。うん、そうなの。良く、わかってるね、ケプナスのこと、うん。

そうなの。ケプナスならそうすると思う。勝手に騒いで、勝手に喚き散らして、勝手に整理して、勝手に仕切って、勝手に解決しようとして。」


「___でも今は、そうならない。あいつがこの場にいないから。」



ハプの言葉に繋げるように、ゆぴがそう言った。強ばった表情で、そう言った。



「ここ最近で君たちが外出したのは見たことがないね。だから恐らく、敵に殺された、というのは間違いだろう。誘拐や拉致、あるいは逮捕の類かな?」



ぺリィはできるだけ手短に、自分の意見を述べた。

ハプは最後の言葉を聞き、グッと唇を噛み締めた。



「そう、そうなの。ケプナスは、ケプナスは...っ。戦争...に、行かなかっ、た、か...ら、国際、魔術協力連盟っ、に、逮捕、され...ちゃって...。そ、れで...。」



ハプは話していくにつれ、ケプナスのことを思うにつれ、目の奥から熱いものが込み上げてきた。



「みんな、でっ。本部ってとこ、に行って、さいば、んに、勝たないと...行けな...っく、て___!」



ハプは涙をこぼし、地面にガクッと、膝を着いた。

ゆぴとぺリィは状況を即座に理解し、顔を見合わせた。それからゆぴはスタスタとハプに近寄り、屈むことなく、立ったままで、ハプに手を差し伸べた。

それからゆっくりと、口を開いて言った。



「膝をついたままじゃ、歩けないでしょ。進むことは、できないじゃない。」


「___。」



ハプは悲しみを抑えることが出来ず、制御が効かず、その場で屈みこみ、泣いていた。



「立ち上がって始めて、1歩が踏み出せるの。下を向いてちゃ、前は見えない。」


「...ゆぴ。」



ハプは少しだけ顔をあげて、涙を流し続けた。



「その涙を拭って。勇気に変えて。その涙も、その悔しさも、その悲しみも、全部、全部、全部。あいつを、妹を、ケプナスを、愛してるから、好きだからの気持ちでしょ!それは全部、アンタのアイツへの愛なのよ!あいつを助けましょう。あたしらと一緒に。アンタのその愛を、勇気に変えて。その愛をひたすらに振り絞って、ケプナスを助けるわよ!さぁ、たって。進んで。ケプナスに向かって。突き進むのよ!」


「ゆぴ...。ありがとう...。」



ハプは手を伸ばし、ゆぴの手を取り、ゆっくりと立ち上がった。

それからゆぴは手を離し、少し焦ったような声で言った。



「あ、別にアンタのためとか、あいつのためとか、そんなんじゃないから。

それだけは勘違いしないでよね。これ、ちょーぜつ大事なことだからね。

あたしは、ね?あいつをあたしが助けたらさ、あの生意気なケプナスがあたしに従ってくれるかもしれないじゃない?だからさ、あたしはあたしの名誉のためにあいつを助けるわけだから。」


「うん...!」


「やはり、君は『つんでれ』だね、ゆーか・ゆーぴぃー。」



それから3人はゆっくりと1歩を踏み出し、思いっきり地面を蹴りあげて、空を舞った。



「待っていてね、ケプナススルーリー。シアル様も、ハプも、ゆぴも。みんなが君の帰還を待ち侘びている。僕たちが、君を助ける。」


「待ってて、ケプナス!初めての大切な、とても大切な妹、ケプナスを、ほわたちは必ず助け出すから。どんなことがあったとしても、ほわは君を救い出す。だってケプナスは、ほわにとってとってもとーっても大切な存在なんだから...!」


「...待っていなさいよ、ケプナススルーリーっ!あたしがあんたを救い出して、あたしを敬うようにしてやるわ!アンタに分からせてやる、あたしの素晴らしさを!

アンタのこと友達とか、そんなんじゃないけど!あたしの、初めての、部下になりなさいっ!」

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