ページ15『交換条件』
「...なんで、シアル?何かしたの?」
ハプは後退りをしながらゆぴの方を見つめていた。ゆぴは気絶はしていないが、まだ立ち上がっていない状態だった。それから少しずつ立ち上がって行った。
辺りを見渡しても、シアルは居ないし、気絶しているはずだ。先程の出来事はシアルが起こしたものでは無い。
「アンタさぁ...何やったの?ちょっと...せっかくの機会をさぁ?ねえ、やめてくんない?ほんっと困るんだよねそういうの。あたし落ちるとかマジで最悪な演出よね。何がしたいの?自分が助かるためにあたしの名誉を傷つけたの?なるほどね...?」
ゆっくりと立ち上がりながら、ゆぴは言った。立ち上がったらすぐさまモーニングスターを構えた。
「ほわは何もやってないよ。ほんとに。」
「なにに誓うの?それによっては信じるわ。」
「.....................ケプナスに誓うよ。」
「はぁ?誰よそれ。そんなんじゃ無理よ。あたしは認めな...いっ!」
その言葉をいい終わろうとした時に、ゆぴはもう一度地面に叩きつけられた。
「なんなの...アンタ...え?」
「────ガハッ!」
ゆぴがハプに向かって文句つけようとした時、ハプも地面に叩きつけられた。数分の間、2人ともが地面に寝そべり、動けないという謎の状態が続いた。
しばらくすると2人は顔をあげて立ち直ることが出来た。
ハプとゆぴは周囲を見渡した。
2人とも今は目の前にいる敵よりも、自分と相手の両方に対して攻撃を仕掛けてきた、要は両方に敵対する勢力を探すことに夢中だった。
ハプが近くを見渡しても何も人影や魔力反応は見当たらなかった。
しばらくの間探していると、遠くの高い崖の上に人が1人たっていた。
「───ゆぴ。」
「わかってるわ。あいつね。肉体強化術で視力を上げて見てみるわ。」
ゆぴは何も言わなくても、「今だけは協力して欲しい」というハプの願いが通じたのか、協力的になってくれた。
ゆぴは目を細めて、遠くにいる1人の人物を見つめていた。
「...黒のフード付きローブ。」
「──え?」
ゆぴがぶつぶつと呟き始めた。
おそらく相手の容姿だろう。ハプはその言葉に耳を傾けた。
「フードで顔はほとんど見えないわね。え───ッ、ローブの中も見えにくいわね。ならローブの特徴から組織を割り出せってこと?きっつー、あたしの肉体強化術じゃこれが限界ってのによ...。」
「──なら、ほわは?ほわならもう少し、できたりしないかな?」
「はぁ?アンタが?...一理あるわね、悔しいけど。ほら、見てみなさいよ。」
ハプが相手の容姿を確認することを願い出ると、ゆぴは相手と自分の実力を見極め、その場所を変わってくれた。
悔しそうな目付きだった。
「黒のローブ。胸元に黒のシンプルなリボン。」
「ローブに...リボン...?何よそれ...。」
「フード、分かれ目に沿ってちょっとしたラインが入れられてるね。色は...金色?」
ハプが情報を伝えるにつれて、ゆぴは混乱していた。
「あ、後ろ向いた。えっと...なんか赤色の模様がある!赤色で...縦に長い六角形が二重になってる。内側の六角形は塗りつぶされてあるね。赤色。それで、その六角形の上下にその形に沿ったラインがある。
────横に金色の翼。」
それを聞いた瞬間、ゆぴの顔が青ざめた。
「きょうか...ッ。アイツら...ツ!!」
「きょう...か...?なんの事?ゆぴ?」
ゆぴは黙り込んだ。そうして1回とても大きな深呼吸をして、口を開いた。
「アンタには関係ないわ。ただ、今見た紋章は覚えておくことよ。もし見たら...警戒!わかった?」
いつもと違った────、
少ししか話したことは無いが、見たことのない表情でゆぴは答えた。
恐らく、真剣な表情をしていた。
それを見たハプは、信じざるを得なかった。
「ねぇ、ちなみにそいつの顔の特徴とかって分かるの?見えた?見えたなら教えて。」
敵は危険だ。あのゆーかゆーぴぃーがこんなにも恐れ、警戒する相手。
かなり危ない集団だ。本当のことを言うと、少しは顔が見えていた。
しかし、ゆぴも敵だ。ハプはツム国チームソルビ市、ゆぴはトムガノ魔術国軍。
今は協力関係にあるとしても、すぐに破棄される関係だ。
教えてもいいのか。
心の奥深い所で、そう思う。
でも、教えなくてはならない。もし教えなくて、ゆぴが死んでしまったら、その責任はハプが背負う。みんなは知らなくても、『自分のせいで死んでしまった』という責任感に一生付きまとわれる。
そんなこと、できっこない。
もし本当に危険な集団なのなら、ゆぴだけではなくトムガノ魔術国のみんな、ケピやレット、関係の無い市民の人達。自分や、大切なチームソルビ市の仲間。シアルや、最愛のケプナス。
もし、その人達が...。
────決めた。
「ゆぴ。」
「ん?どんな見た目?」
「言えない。」
そう言って、ハプはニコッと笑った。ゆぴは凍りついたような表情を浮かべた。
「──いや、は?どゆ意味?普通に考えたらそうはならなくない?意味わかんないんだけど?」
「ゆぴ、君は敵。戦争で敵対する国同士。仲間じゃありません。」
「いや、そうだけどさ?だってこいつらのせいでアンタの仲間が...色々、変なことになったりしたらどーすんのよ?!」
「わかってるよ。ゆぴ、交換条件だよ。」
そう言って、ハプは手を差し出した。ゆぴは目を大きく開けて見つめていた。
「君は中立なんだよね。今、どんな報酬で雇われてトムガノにいるのかは知らないけど、ほわがそれ以上の価値の報酬を与えるとしたら?」
「いや、それは...。」
ゆぴはもじもじして、目を逸らして言った。
「そうね。間違いない。」
「ほわがゆぴに与える報酬は、住む場所、土地、食事に加えて、チームソルビ市でチームの一員として過ごす権利。それに追加で好きな凶器を10個ほわが買ってあげる。最大は、さっきの敵の情報。変わりにゆぴがほわたちに協力してくれる。協定内容は、チームソルビ市に入って、
今すぐに!
ツム国軍に移動すること!」
ハプは手を、前に差し出した。
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