ページ62『いまと向き合って』
それからはすぐだった。
リナは決断が早かった。リナ曰く、楽しそうだということらしい。リナがその宗教とやらに入ると言ったから、もちろんナルも入る。
シアルは一気に魔力を放出させた上、炎を思いっきりくらい、気絶していた。
「無茶なことをされたものですね」
女性は去りながら呟いた。
リナが着いて行ったから、ナルも着いて行った。
道中、女性が独り言のように話しているのが聞こえてきた。
「これでまた、1歩近づきました。我々の‘目的’に。この訪問で、2枠の導き手を見知ることができた。残る導き手は、1枠のみ。『第2の導き手』……」
何を話してるのかな、と思いながら、それを聞いていた。目的やら何やら、ナルにはわからなかった。わかっているのは自分が、『導き手』と呼ばれた者だということ。リナも。
まぁ、そんなことはどうでも良くなった。リナの楽しそうな顔が、嬉しそうな足取りが。
ナルの顔を
両親や親族のことに、心残りなんてなかった。別に両親なんて、ほとんど会ったこともないような人間だ。死んだからって、悲しいなんて思うはずもない。リナも、多分そうなんだろうと思う。表情を見れば明らかだ。
◆◇◆◇◆
私は楽しそうだと言って、その役目を引き受けることにした。それからはすぐだった。ナルは私が引き受けるから、同時に引き受けるということらしい。
フードの女性は、何かを話していた。初めの方は聞こえなかったけど、途中からは、何となく聞こえていた。『討伐』だとか『復活』だとか、『偽り』だとか『真実』だとか。わけがわからなかったから聞き流したけど。どうせ、後で説明されることだろうし。
両親や親族のことに、心残りなんてあるはずもない。寧ろ精々しているくらいだ。私は自由だったけど、自由じゃなかった。囚われた中で、自由が与えられていた。道筋は決められていたんだから。偽りの自由だ。もう、解放された。本当の自由を味わいながら、本当の苦難を味わうことが出来る。ああ、なんて素晴らしいんだ。
今頃きっと後悔しているのだろう。残念だったね、跡継ぎが居なくなって。私は知らない。跡を継ぐのが嫌になったのは、貴方たちのせいでしょう? 後は託すことにするわ、セレイン・キャリソン。きっと貴女なら、今も生きている。どこかで生きて、何か立派なことを成し遂げて、もう一度、私と出会うのでしょう。
『敵』として。『
私は貴女を待っている。貴女の言ったお迎えを。
いつか、私達3人を、迎えに来てくれるんでしょう___。
◇◆◇◆◇
聞いたのは、目的。簡単な、魔術神秘教団の目的。それと構造。特に、他の導き手との面会とかはなかった。それから使徒に、黒いローブを与えられた。金色のラインが入っていて、背中に赤い六角形。そこまでは手渡してくれた使徒と同じだったが、一つだけ違う部分があった。
それは、フードの内側。貰ったローブは、紺色の、宇宙のようなキラキラした色合いだった。対して使徒は、赤一色。
「なんで別物なの? 」
「えぇと、このローブは……」
「導き手か、使徒かによって。区別ができるようにしてあるのですよ、観望者様」
隣でソファ座っていた、手渡された物と同じローブを羽織っている女性が、立ち上がって言った。
「そう…なの。あ、名前とか言ってた方がいいの? 」
「構いませんよ。貴方の名前くらいは知りえておりますから。あぁ、私も名乗りませんので。今は『友人』と呼んでくだされば、それで。もちろん、口外禁止ですよ? 」
『友人』は人差し指を口に当てた。それが、『言うな』という合図であり、言った場合には、良くないことが起こりうるという脅しだった。
ナルは、黙って頷いた。
それからはリナと一緒に、自由のある日々を送った。もちろん最低限、導き手としての仕事はして。仕事をしたりする中で、導き手と会うことは少なかった。
出会った導き手は、1人だけ。そいつとあったことで、その教団の導き手は、異常者しか居ないのだと錯覚していた。
◇◆◇◆◇
それからの日々は、楽しかった。今までよりも。教団の仕事を最低限こなしながら、自由を味わった。今までとは違った、本当の自由を。偽り無き自由を。囚われることの無い自由を。もちろん、対抗してくる人もいた。そんな時でも、平気だった。その困難が、楽しかった。
◇◆◇◆◇
この教団は、人々には知られていない今日。世間一般には知られてはいけない、もし出会ったら、口封じをしなくてはいけない。その口封じの為、ナルはツアーに来たお客様を殺してきていた。
固有魔法『動揺操作』は、ここから生まれた。全ては、リナを楽しませるために。『過去の声』の内容は、ナルによってある程度操作することが出来る。初めのうちは、本当に聞きたい声を聞かせていた。神の知る知識の中から、本当にその人が聞きたかった声を出して。でもそれでは、相手を殺すのに手間がかかってしまっていた。それ以前に、リナを喜ばせることができなかった。
そこで『リナを喜ばせるため』に生まれた固有魔法が、『動揺操作』である。相手の動揺を感知したり、その動揺の大きさを操作したり。相手を動揺させる方法を調べられたり。本当に、それだけの能力だ。
ナルは、その能力を利用して『口封じ』をした。神の知る記憶の中から、『お客様』が一番動揺する…つまり、聞いた時に1番ショックを受ける言葉を感知し、それを過去の声として聞かせていた。罵倒したり、図星をついたり、地雷を踏んだり。そんな言葉ばかり聞かせて、隙をついて殺していた。
でも、そんな事はどうでもよかった。それよりももっと大切なのは、それをリナに見せること。『過去の声を聞ける』という希望を与えた後に、『聞きたくないことを聞かされる』という絶望を与える。これは正しく、希望から絶望へと変化する瞬間。それをナルが見る。リナと出会う。ナルの見たそれを、ナルの過去として、リナに見せる。
それを見せた時のリナの喜ぶ顔が見たくて、その一心で声を聞かせた。リナが喜んでくれた時には、ナルも喜んだ。それが、ナルにとっての素晴らしい瞬間だ。
口封じも出来るし、リナを喜ばせることも出来る。
魔術神秘教団に入って、良かったと、思った。
くるくる、くるくる、世界は回る。
くるくる、くるくる、人生回る。
人は生きては居なくなり、人は死んではまた生まれる。
くるくる、くるくる、過去を見て。
くるくる、くるくる未来を望み。
ピタリと止まって、『
過去を見るな、未来を見るな。嫌な過去など捨ててしまえ。未来の希望なんか見つめる前に。
まずは、
「そろそろ、戦闘再開、かなー? 」
目の前には、時計の針。シアルの突きつけてくる、武器。
「もう、ショーは終わりなの。さぁ、戦闘再開なの」
シアルに向き合って、ダガーを突きつける。
「やっと、やっと終わるんだね。短くて長い、この戦いが」
「もうすぐ、ケプナスを連れて帰るわ。今後こそ、後日談を」
「
「僕は分かっているよ、君達こそが、シアル様の目的だ。ならば僕は、その補助をするのみ、だね」
「キミは、エイを知ってる? 教えて、教えてよ。キミの知ってる、エイを」
シアルを先頭に、対魔術神秘教団軍はナルを包囲する。それぞれの決意を言葉にして。
「僕は、僕の罪を消し去る。君たちの罪と共に」
「どれだけでも足掻いてやるの。みっともなく。リナのために」
シアルとナルも向き合って、お互いの目を見て。
「ケプナス様の、お役立ちタイムなのですっ! 」
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