ページ6『回復ビーフ』
ページ6「回復ビーフ」
「......通常のチーム制服から魔術服への素早い変身...…。もし急に敵から不意打ちを食らったとしても、すぐに対応できるように...…。次はこれか」
ハプはいつも特訓のために通っている大広間に、自主練に来ている。シアルに貰った『魔術戦争前の魔術師基本特訓マニュアルブック』という本のページを次から次へと読んで、どんどんマスターしていった。好都合なことに、ハプにはこの世界の文字が読めるのだ。
なぜならこの世界の文字は町の標識などでよく目にする、ローマ字だった。
「えーと? 『素早く変身することも魔術の一貫となるため、自分の衣装構造をよく知り、変身する自分をしっかり想像することが大切である』か。なるほどね?」
それを読んでハプは、自分の衣装を想像した。
まず真っ白の長袖のシャツを着ていて、そのシャツの袖の部分にフリルがついている。
そうしてそのシャツの上から黒色のスカートを履いていて、ベルトで止めてある。
シャツの上には紺色の固めの生地でてきたノンスリーブのチョッキを着て、胸元に宝石。宝石から白いヒラヒラが出ている。
靴下は膝の上辺りから履いていて、右足は黒、左足はひし形の模様。
靴は黒のローファー...って、この服装、男子じゃない! 女子だ!
ほわが来る前のハプスルーリーって、どんな人だったんだろ。あんまり変わってなかったり...…
「まあ、これを素早く想像...それで魔力を一気に出したら変身! 行くぞ!」
シュッ!
「あ、変身できた! よし、このスピードなら...。」
「いや、ダメだね。」
「わっ! し、シアル...?」
気がつくとハプの後ろでシアルが立っていた。いつものように笑顔で。
「はーい、シアルです。考える時間が長すぎる。それじゃあ考えてるうちに攻撃されるよー。敵軍の魔術師は、戦争において優秀みたいだからね」
「戦争に...…優秀…...。じゃあ、どうすれば...?」
「そうだね、間違いなく考えるのと魔力を放出するのは同時にするべき。防衛しながら変身とか。変身してなくても少々は魔術使えるでしょ? だから盾シールドを張りながら変身、かなぁ?」
それを聞いてハプが{シールド}と唱えるが、何も起こらなかった。
「あれ、なんでだろ...…。それとシアル、盾シールドを張りながらなんてこのマニュアルには書いてないよ。」
ハプは本を指さしながら言った。シアルはいつものように爽やかな笑顔を浮かべながら本を取り、ペラペラとページをめくった。
「その本に書いてあることは基本的な魔術戦争についてだからね。さっきも言っただろう? 今回の魔術師は1人だけだけど、戦争に特化している。それに殺すことを躊躇わないし、戦闘狂だとの噂も聞いたことがある」
ゴクリ。ハプは息を飲んだ。
でもいくらやってもハプは盾シールドを出すことが出来ない。
「ハプ、ステータスカード見て。戦闘タイプは?」
「え、えっと、戦闘タイプ、戦闘タイプ...ヒール、だね。」
ステータスカードを開き、ハプはそう言った。
「ヒールか、そういえばプーリルスルーリーの子孫だったね、君は」
「あ、その名前、ケプナスにも聞いたことある。誰なの? その人。えらーいひと?」
この世界に転生して初めてケプナスと会った時に、ケプナスは自己紹介で自分を『天才回復術士プーリルスルーリーの子孫』だと言った。
「あぁ、歴史の本とか読んだら分かるよ。それより回復術の練習かぁ…...このチーム、回復術士って感じの人あんまりいないからなぁ。まあ、聞いたとこによると、単純に回復したいと思って柔らかい魔力の霧を出す感じらしいけど...…」
「回復したいー!」
それを聞いた瞬間、ハプは叫んだ。
ポンっ。ハプが心を込めた叫びをしたその瞬間、目の前に調理台がでてきた。
「…...は、え?調理台、?」
「ハプの固有魔法が変わったのかな。記憶喪失になって人格が変わったから。だからねー、ハプが思ったことをすればいい。」
そうしてハプは調理台を見つめた。
「…...作れなかった料理を作る。」
あの日作れなかった黒焦げになった料理を、作る。そう決めてハプが欲しい材料を想像すると、ポンポンとでてきた。
フライパンを出して火をつけて肉を焼いて、お米を出して水を入れて佃煮を出して。
シャシャシャ、チャチャッ!
素早く高速で料理を作るハプ。
「は、早い...…ハプ、何者だよ...…」
「できたー! 美味しいビーフステーキと佃煮のお粥でーす!」
1分かからず、ハプは料理を作った。
「ステータスカードの固有能力の所に料理と書いてたんだ。料理は元々得意だけど固有能力が加わってこんなに早くできるようになったみたい!」
「ビーフステーキとお粥...…すごいメニューだね」
ハプは鼻歌を歌いながら、ビーフステーキを口に運んだ。
すると。
シュワンッ。
「あれ? なんだか、楽に...…」
ステータスカードを見てみると、HPとMPが回復していた。
「あれ? 回復してる。なんで? もしかして、ビーフ食べたから?」
「なるほど、君は大抵の魔法を料理で何らかするのか……ふふ、面白い。まあ、これで君は回復術をマスターしたわけだ。良かったね」
「はむはむ、おいひい! お粥美味しい。回復ビーフもおいひー」
シアルの言葉を聞かずに、ハプは自分の作った料理を食べている。回復してくれるビーフだから、ハプはこのビーフを『回復ビーフ』と名付けた。
「ご馳走様でした!」
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