ページ7『亀裂』
ページ7「亀裂」
「ケプ、ケプナス、ケプナススルーリー! 特訓の時間だよ、いつも自主練サボってて。今日こそはちゃんと特訓!」
すやすやとベッドで眠っているケプナスの口に人参スティックを押し込みながらハプが言った。
「むごっ! にゃ、にゃんにゃのでしゅか!けふなふはなにもひへないのへふ!(ケプナスは何もしてないのです!)」
「特訓! 特訓! もうほわ達以外のチームメイト達は、戦場にいるんだよ? ほわたちだって、あと三日で行かなきゃならないの! 弱いままじゃあみんなに迷惑かかる!」
そう言ってケプナスを無理矢理起こして、手を引いて走りながら大広間に向かっていった。
「お、ケプナス、ハプー。よく来たねー。ケプナスパジャマのままってことは、またまた寝坊したのかな? 戦場でそんなことしてたら、寝てる間に殺されるよー?」
大広間で魔術服に変身して待っているシアルが手を振りながら言った。
「り、リーダー! そんな怖わわわーいこと言わないでほしーのです!」
「残念ながら事実だよ、ケプナススルーリー。だから緊張感を持ちなさい」
「うぅうぅ...…。はいなのです...…。うぅ...…。頑張るのです...…」
そう言ってケプナスはとぼとぼと歩いていき、魔術服に変身した。
「せやぁっ! .........やっぱり当たらないのです。ケプナスは、ケプナスは...…」
ケプナスは攻撃を出し、何度も的に当てようとするが一向に当たらない。それでも当てようと何度も攻撃し外しを繰り返し、ケプナスは合計1時間の休憩無しの特訓を積んだ。
「ケプナス、もっと一気に魔力を出さなきゃ。そうしないとしっかりと定めにくいし。」
「…...シアル、もしかしてケプナス、元々の魔力量が少ないんじゃないかな?」
「…...そうなのですよ」
ハプがそう言うと、ケプナスがガクッと膝を着いた。
「ケプナスはどうせ魔力量が少ないのですよ! 星五貴族なのに魔術も勉強も運動も何も出来ない出来損ない! ほら、リーダーもケプナスなんかに構わずに可能性のあるハプの所へ行けばいいのですよ!」
手を地面について俯きながらケプナスは強い口調でそういった。ハプは驚いてそれを無言でみつめてしまう。
「け、ケプナス...…?」
「何なのです、もう構わないで欲しいのです。ケプナスが戦場なんて行っても足でまとい、ケプナスを庇ってみんなが傷ついて、ケプナスが死んで終わるだけなのです! ほらほら、ハプも早く特訓に行ってなのです。…...ケプナスなんかに構う余裕があるなら、自分の腕を...…磨けばいいのです!」
「ケプナス、ほわは...…」
ケプナスの怒りに触れないよう優しい声で語りかける。
「うるさい……」
否定
「ケプナス、聞いて...…」
ケプナスに届くように願いを込めて声を出す。
「弱者に構うな」
拒絶
「ケプナス! ...…」
ハプはケプナスの視線が床でなく、ハプに向いてほしくて強い口調でケプナスの名前を呼んだ。
「どこか行かないならケプナスが行くのです。ケプナスは戦争には出ないのです。チームソルビ市が出ないのではなく、ケプナスが出ないのです。さよならなのです。」
そう言ってケプナスは走って家に帰っていった。ハプも急いで後をつけたが、後ろからシアルが肩に手を置き、首を横に振った。
「なんで、シアル。ケプナスが......!」
ハプは必死にそう言ったが、シアルはニコッと笑うだけだった。
「…...何なの...…もう、みんな...…!なんで、どうして...…!」
ハプは拳を握りしめて俯き、静かに涙を流した。
「馬鹿、馬鹿、馬鹿、ケプナスの馬鹿...! なんなの、ほわは何も言ってないのに...! 魔力が少ないんじゃないかって言っただけじゃん...! 何が悪いの! 知らないよ、勝手にキレられても困る。この世界の常識を勝手に押し付けられても困るの…...ほわには分からないんだから!」
ハプがぶつぶつと呟いた。シアルは変わらずの表情で肩から手を離し、元いた場所に戻って座った。
「なんでなの、なんでなの...…!!」
ハプはもう訳が分からなくなり、闇雲に攻撃を発しまくった。大広間全体を焼き尽くしたり大爆発を起こしたり、壁を包丁で切り裂いたり。
シアルは無言のままで笑っていたが、ハプが大広間を壊す度に座ったままで直して行った。
「意味不明、分からない、嫌だ。」
◇◆◇◆◇
「...............。」
スルーリー家のケプナスの部屋で、ケプナスはベッドに仰向けで寝転がっていた。電気を消して、カーテンを閉めて、カーテンの隙間から入ってくる僅かな光の中で。
「戦争に行くのは怖いのです、ケプナスには絶対無理なのです...。出来ないのです。なんで出来ないのか、おにちゃーまが教えてくれたのですよ」
そう言ってケプナスは寝返りを打ってうつ伏せになり、息を飲んで言った。
「…...ケプナスは、魔力量が少なかったのですよ」
ケプナスは枕を抱き抱え、涙を流した。
「そりゃあ、出来るわけないのです。ゲームと同じなのです。MPが溜まってないと必殺技が打てないのと、同じ、なのですよ...…」
枕を布団に叩きつけて、その枕を無闇矢鱈にケプナスは叩いた。叩きつけた。
「星五貴族の面汚し、とか言われるのです...…。しかもスルーリー家なんて、最悪なのです。
おにちゃーま達まで...…プーリルスルーリーだって、みんな、みんな、みんななのです。
それならおにちゃーま達に嫌われて、もう、スルーリー家の一員と思われなかったら...…そう、それがいいのです。
そうしたらみんなは.........! ふふ、ふふふ、久しぶりにこんなに頭を使ったのですね。ふふっ、ふふふ。は、はは。」
再び仰向けになり、腕で涙を拭いながら、ケプナスは笑った。
◇◆◇◆◇
「…...ケプナスなんて、ケプナスなんて! ............大嫌い」
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