ページ20『理屈VS屁理屈』

「はーぁあ、まーた気絶かよ。面倒くさ。」



レットは諦めてその場から動かずに、自分に迫ってくる銃弾を見つめていた。

その様子をゆぴは空中から見守り、シアルも少し警戒しながら見ていた。

銃弾が一点に集中し、大量の土煙が舞い上がり、レットの立っていたところは何も見えなくなった。

ゆぴはそれを確認して、銃をしまおうとしたがそれをペリィは引き止めた。



「追加の銃弾を。それとマシンガン。」



それを聞いたゆぴは一瞬困り顔をしたが、しぶしぶ銃とマシンガンを取りだした。

次の瞬間、レットのたっていた場所が盛大に爆発した。ゆぴは咄嗟に反応し、銃を浮かせてマシンガンを構えた。シアルは杖を高く掲げ、魔力を込めた。

ペリィは後ろに飛び、ハプを抱えて離れた場所まで下がった。


爆発した後、一瞬だけレットのいた場所を中心に猛烈な暴風が吹いた。

その暴風で銃弾は弾け飛び、地面に落ちていった。

段々と舞い上がった砂は地面に落ちていき、塞がっていた視界は開けてくる。



「────なんで居んのよ、このクソガキ!」



ゆぴがそう叫んだ。その視線の先には、両手で小さな風をつつみ、ゆっくりとすくい取っていくケピが立っていた。



「なんでって、この馬鹿で弱っちいレットを助けに来てあげただけじゃーん。ほらほらぁ、レットひとりじゃお前らに勝てないかなーって。

こいつくそ弱いからさ〜。なんか悪い?」



目をぱちくりさせながら、手を横にパタパタさせて、ケピはてちてちとその場で回った。



「邪魔すんなって言ってんのよ!消えなさい!」


「はぁー?ケピせーっかく来てあげたのにー!ケピだって忙しいんだからねー!そのキチョーな時間を削ってまでここに来てー、君たちと戦ってあげてるんだよー?

それってさぁ、ケピは歓迎されるべきだと思うんだよねー。おかしくなーい?ねーねー、おかしいよねー?馬鹿ー?

ケピは来たばっかりなのにさー?そこの中立の雑魚魔術師がー、どんな状況にあるのか即座にわかってあげたんだよー?理解してあげたんだよー?

それによってさ!君たちはケピにセツメーする手間が省けたのです!これはさぁ、感謝すべきことだよー!

わかるよねー?フツーに考えたらチョー簡単にわかる事だよねー?頭使って考えろよこの馬鹿共。歓迎もしないし感謝もしない。しかもただ無視するだけじゃなくてボーゲンまで吐いて!これは、しつれーと言うやつなんだよ!しつれー!しつれーです!

お前らさぁ、わかってるのか?常識ってやつさ。考えろよ。頭使えばわかるよね。頭無いの?それとも聞く耳がないの?それともそれを現す口がないのー?

きゃは!ばーかばーか!」



それだけの言葉を全然止まらずに言い終えて、ケピは腰に手を当てて威張った。

ゆぴが引き金を引こうとすると、ペリィが後ろから引き止めた。



「無駄に体力を消費しなくていいなら、その方が懸命だと思うよ。相手は攻撃をしてくる様子もないし、話すだけで終わるならそれが1番だよね?無理に相手の堪忍袋の緒を切る必要はないんじゃないかな?」



ゆぴはそれを聞いて渋々マシンガンを下ろした。



「うんうん、そーだね!ただしー判断だと思うよ!なかなかいいこと言うね、メガネの人!うんうん、すごいすごい!褒めてあげるよー!ケピが認めてあげる!褒めてあげる!これは光栄なことなのだ!

ほらほら、誇らしく思えよー!感謝しろよー!褒めてあげるんだからさー!わーいわーい!ケピ優しくなーい?

これだけのことで褒めてあげてるー!凄ー!もう天使級なんじゃなーい?見た目も可愛いし、優しいし!理想の人物像ってこーゆーことだよね!きゃは!」



ケピがぴょんぴょんと飛び跳ねた。ペリィは一切表情を変えず、それに反論した。



「僕はね、別に君に認めて貰いたくてこの判断を出した訳では無いんだ。期待を裏切ったようで済まないが、僕は君に感謝の意を示すことはできないだろうね。

感謝と言うものは、人から強要されてするものではないと思うんだ。自分が人に何らかのことをしてもらい、自然とその気持ちが芽生えた時に、感謝の意を伝える。そうだと思わないかい?

それに褒めるという行為に対して感謝を求めるということも少し間違っていると考えるね。

褒める、ということもまた同じく、相手を認めた時、 自分から進んで褒める。これはいわゆる、贈り物の様なものなんだよ。贈り物は自分が対価を貰えないことを承知した上で相手に渡す。

だから、褒めたことに対して対価としての感謝を求めるのは、不思議な行為だと僕は思うね。」



ケピの目線が、完全にゆぴからペリィに移った。

ペリィが注意を引き付けたら、ゆぴに手で合図を送った。

ゆぴはそれに気が付き、ハプを浮遊術で浮かばせて、自分と一緒に安全な場所へ向かって走っていた。

その隙にまたシアルも、ケピから見て視覚になり、上手く攻撃が狙える場所へと移動した。



「はぁ!?なんでそーなるのよ!いみふめー!おかしくなーい?

だってさ、褒めてるんだよ!ねー!それにここに来てあげたの!すごいことだよね!感謝すべきだよね!」


「おかしくはないと思うよ。逆に君のその根拠はどこから出てくるのか知りたいものだね。

それに言わせていただくと、僕は出来れば君には来て欲しくなかったかな。なぜなら戦いの妨げになるからだよ。

敵が増えれば勝利への道が阻まれる。それくらいは君にも分かると思うよ。

僕達にとって、君がここに来て喜ぶ理由はどこにもない。君が来なければレットを仕留めることもできた可能性だってあるし、無駄に体力を使わずに済んだんだ。

それが僕としての考え方だね。反論は?」



ケピは怒ってペリィに怒りの目を向けるが、ペリィは落ち着いた様子で一切表情を変えることなく意見を述べ続けた。



「あのね!ケピの言ったことは全部本当なんだよ!ケピの言ったことはジョーシキ!それが分からない君はヒジョーシキ!

なんでかって?

ケピの存在!ケピがここにいるということ!ケピという人間の存在が!正しい!正当な!存在だからだよ!

よってケピの言ったことは正しい!事実!正論!常識!世間一般論!」



両手を空高く掲げ、上を向きながらケピは叫んだ。



「その、『君の存在が正しい』という根拠は分かった。でも、君の存在が正しいということはどこで証明されるものなのかな?それもきっと、君の中だけでできている理論だろう。それでは僕は納得することが出来ないね。

ここで、どう証拠を提示するかな?」



落ち着いて、ゆっくりと、ペリィは話す。

聞き終わったケピは、両手に魔力を込めて言った。



「黙れこのやろー!聞いてりゃ調子に乗りやがって!」


「ケピを...論破した?あいつやべえぞ。」


隣で座ってみていたレットはそう言って、戦いの成り行きを見守った。

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