ページ25『ごめんなさいとありがとう』
「ペリィ、ゆぴ、ハプ。集合!」
シアルが、戦争が落ち着いて、周りで気を休めている3人の近くで集合をかけた。
ハプはニコニコと笑顔で、ゆぴは少し気まずそうに、ペリィはゆっくりと立ち上がり、シアルの周りに集まった。
「シアル、シアル!もしかして、戦争終わったの?いい、お知らせ?
平和な、お知らせ?」
「...いいの?あたし、もうすっかりチームの人みたいになってるけど。
もしかして、あたしはチームに入れて貰えないとか...そんなお知らせだったり?」
「シアル様、大丈夫だった?もしかして、トムガノ軍がまた攻めてくるとか...。」
3人は、それぞれの不安や希望を次々に口にした。
シアルは、その3人の声を遮るようにニコッと笑い、言った。
「トムガノ魔術国とツム国での国際魔術戦争、これにて終戦ー!」
シアルは笑顔で、両手を広げ、空高く掲げて、叫んだ。
ハプの笑顔は輝いて、その奥に安心した表情があった。
ゆぴは感動で声が出ず、ただただ感謝のお辞儀をしていた。
ペリィは目を閉じ下を向き、ニコッと笑って手元の本をぎゅっと握りしめた。
シアルはそんな3人を『優しい笑顔』で見守った。でも、その手は震えていた。
「───シアル、良かったね!戦争、終わったみたいだね!これで、お家に帰れる!
ほわね、とってもとーっても嬉しいの。
ほわね、帰ったらまずは、美味しいご飯を食べたいな。そして、ゆっくりお風呂で温もりたい。
ゆぴも誘って、お食事会を開くのもいいね。
それと__1番大事なこと。
帰ったら、まずケプナスと話をしないと。
戦争に勝ったことを言ってから、ごめんなさいっ、て謝るの。
それからケプナスも一緒の、みんなのお食事会を開く。
仲間外れなんて、そんなこと、ほわには出来ないから。」
ハプは弾んだ声で、弾んだ笑顔でそう言った。
それからケプナスのことを話し出すと、真剣な、どこか悲しそうな笑顔で。
シアルもまた、同じような笑顔で返した。
「帰ろう、ケプナスの待つ、ソルビ市に。」
すると、ゆぴが隣から口を挟んだ。
「え__と、なんか感動の展開ーっ的な雰囲気になってるとこ悪いんだけど。」
荷物の準備をして、帰ろうとしているみんなが一斉にゆぴの方を振り向いた。
ゆぴは、ゆっくりと口を開いた。
「ケプナスって...誰よ。」
◇◆◇◆◇
『全国のニュースです。今日、先程をもって、ツム国とトムガノ魔術国の戦争が終わりを迎えました。』
静かな薄暗いリビングで、大きなテレビの画面の中のニュースキャスターが戦争の終わりを伝えた。
そのニュースを、テレビの正面から、黄髪の少女───ケプナス・スルーリーは眺めていた。
「終わ...、おにちゃーま、帰ってきちゃうのです...?」
『戦争は終わり、勝利の旗はこちらの国に上がりました。
戦争を仕掛けてきたのはトムガノ魔術国ですが、未だにその真意は見えていません。
何か裏で怪しい動きがないか、国際魔術協力連盟が調べているようです。』
ケプナスはソファーから身を乗り出して、テレビの画面を見つめた。
「連盟が動く...けっこー、大変だったのですね...それなのに...ケプナスは...っ!
でも、勝ったってことは、おにちゃーまは無事なのです...。」
『次のニュースです。───。』
ピッ。
ニュースが終わると、ケプナスはリモコンの電源ボタンを押した。
「部屋に...戻るのです。おにちゃーま帰ってくるのです...。」
そう言ってケプナスはリビングを出たところにある螺旋階段をあたふたと駆け上がり、部屋の扉を閉めた。
◇◆◇◆◇
「ケプナース、ケプナス帰ったよ?...居るかな?」
家の鍵を開けて、ゆぴとシアルが話をしている間にハプは家に帰ってきた。
「ケプナス、ケプナスケプナスっ。」
ハプも螺旋階段を駆け上がり、ケプナスの部屋をノックした。
「...入るよ、ケプナス。」
「なのです。」
ボソッと、返事が帰ってきた。ハプはドアノブをひねり、扉を開けた。そこには、ベッドの布団の中に縮こまっているケプナスが居た。
「___久しぶり、ケプナス。」
笑顔を作ってハプは言うが、ケプナスは気まずそうにハプを見つめているだけだった。
ハプは、その隣に腰掛け、周りを見渡した。
すると、こんもりとした、シーツの被せられた山が目に止まった。
「ケプナス、これなぁに?」
「────っ、それはっ!」
ケプナスが手を伸ばして止める前に、ハプはそのシーツを引っ張った。
ハプは、それを見て息を飲んだ。
そして、口元は知らずのうちに微笑んでいた。
「...おにちゃーま。」
そこには、たくさんの積み上げられた本があった。1番目立つ所、取りやすいところにある本の表紙に、書かれた文字。それは、『初級魔術入門編』。その他にも『魔術のスキルアップ』、『少ない魔力でも強くなれる』などの題名の本、魔法陣の書かれた本などが積み上げられていた。
「───ケプナス。」
後ろを振り返ると、画用紙にマジックで的を描いただけの簡単な的が壁に貼り付けてあったり、家にあった簡単な構造の魔具が置いてあったりした。
「ケプナス、ケプナス、ケプナス、ケプナスっ!」
ハプはとても嬉しそうな声で名前を呼び、笑顔でケプナスを見つめた。
ハプの瞳には、キラキラと光る雫が映っていた。
「あんなこと言ってごめんなさい、弱いなんて言ってごめんなさい。馬鹿だなんて言ってごめんなさい。
ケプナスのことを考えていなかった、ごめんなさいっ!
ケプナスだって、ケプナスだって!とっても、とっても、とーっても、頑張ってるんだよね!
そっか、そうだったんだ。戦争に出なかったのは、もっと、強くなるため...。
間違ってた、ごめんなさい。わかってなかった。ごめんなさい。
そして...ありがとう!」
ハプは泣きながら、ケプナスに抱きついて、笑顔でそう言った。
表情のなかったケプナスの目に、光が点った。
その途端、ケプナスの頬を涙が流れ、ハプに抱きつき返した。
「ケプナスも、ケプナスもっ...!ごめんなさいなのです。あの時、なんにも言わなかったし、ケプナスは、ケプナスはぁ...!頑張ったのです。悲しかったのです。
おにちゃーまに謝りたくて、辛かったのです。
ずっと、ずっと!
────ごめんなさいなのです!
それから、ありがとうなのです。帰ってきてくれて、ありがとうなのです。ほんとに、ほんとに!ありがとうなのです!」
それから2人は立ち直り、笑顔で一緒に言った。
『ごめんなさい、そしてありがとう!』
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