国際魔術協力連盟
ページ26『パーティの終わり 新章開幕』
「ふんふんふーん。」
漂う香ばしい香り、華麗な鼻歌。カチャカチャという食器の音や、打ち付けられる水の音が、スルーリー家のリビングに響く。
台所に立ち、包丁をもって、踊るように料理をするハプ・スルーリー。
───パーティが、始まろうとしている。
「おにちゃーま、おにちゃーま。なんでおにちゃーまばっかりやってるのですか?ケプナスも、準備したいのです。おにちゃーまばっかりに任せるの嫌なのです。」
「駄目。却下。絶対に駄目。そんなことは絶対に、ほわは認めません。許しません。ケプナスはそっちで遊んでいましょう。」
「な、なんでなのですか!ケプナスはせっかくせっかくせっかく!お手伝いをしてあげようと思ったのに!ケプナスの心遣いを、ケプナスの親切を!むだにするなんてぇぇ。」
「違うの、そういうことではないの。あのね、わかるかな。この場合ケプナスがみんなの役に立ちたいなら、ケプナスは手伝わないこと。ケプナスが手伝う、それはみんなに迷惑がかかるの。ケプナスが手伝わないこと、それがみんなへの心遣いです!」
ハプは包丁を持ち、ケプナスの方を振り返るとドヤ顔でそう言った。
ケプナスは急に不意打ちで電撃を仕掛けられたような顔になり、とぼとぼと部屋に戻って行った。
ハプは少し心配そうな顔をした。傷つけてしまったかと思ったからだ。
しかし、これは仕方の無いこと。
ケプナスの料理─────いや、あれは、料理と言うには程遠いものである。
簡単に説明しよう。この世の未知の領域だ。あらゆる生命体の敵だ。全てを凌駕する物体だ。
この世界に来て始めてハプが食べた料理、それはケプナススルーリーのスープだった。
ケプナスが言うにはコンソメスープ。
そのコンソメスープは、まず色が緑色に近い。それから濁っている。そして野菜はどこにもない。
勇気を振り絞って口にしてみると、その味そのものが〝 地獄〟を表していた。
不味いとしか言えない、あれほど不味いものはここにしか存在しない。あれを食べることで、他のものは二度とまずいと言えなくなるだろう。
そしてHPを減らす。なんという恐ろしい物体なのだろうか。
それを思い出しながら唇を噛み締めて、ハプはたくさんの料理を完成させた。
それから次々にお皿を取り出しては、高級店のような盛りつけをした。
「みんなーっ!パーティの準備が出来ました!テーブルも整ってるから、もう入ってきていいよー!」
ハプがそう叫ぶと、みんなが次々に返事をした。
「お、ハプありがとー。今行くねー。」
「僕達も手伝うつもりだったんだけど、まさか本当に1人で終わらせてくれるとはね。感謝が足りるかどうか、疑問だね。」
「あーっ、最近まともな料理食べた記憶ないからさ!しかもアンタの手料理ときたもんよ。楽しみね!」
「ケプナスだってパーティの準備位はできるのですよ!むむぅ、お料理したかったのですのに!ケチ!おにちゃーまのケチ!」
お礼、期待、悪態をつきながら、4人は飾り付けられたパーティ会場に入った。
仕切りを跨ぎ、その光景を目にした時、みんなの目は見開かれた。
そこは、本当にリビングだったのだろうか。そんなふうに思うような、華麗な部屋だった。
「いや、凄っ...!普通に凄っ。アンタ何者!?天才じゃね?」
「ふふんっ、そんなふうに言われてほわは喜んでいます!ここにたーくさんお料理があります。ぜーんぶ食べていいからね!」
ハプがそう言うと、みんなが席に座って食事に手を伸ばした。
「ストーップ!」
「え、食べたらダメなのです?しゅんなのですよ。」
「食べる前に、手を合わせていただきますを言わないと!この料理が作られる過程で、関わってくれた人達に。感謝の気持ちを込めて!」
ハプは熱演するようにいただきますを語った。
この世界と前の世界は違うけど、あまりに不自然で耐えられなかったからだ。
「さんはいせーの!いただきますっ!」
「「「「い、いただきまーす!」」」」
それからみんなは、次々にハプの料理を口にした。
「なんなの、美味しすぎ!やっぱアンタって奴は天才ってもんよね!」
ゆぴは、ハプの作ったビーフステーキを恐るべきスピードで食べて言った。ケプナスは悔しそうな目で食べながら、ブツブツと呟いた。
「認めざるを得ない、美味しいのです...っ!
ケプナスには勝らずとも、美味しいのです...っ!」
「それは無い。ケプナスの料理より不味い料理なんてこの世に存在してはなりません。」
ケプナスはまたしも電撃を受けたような顔をした。
「...酷、酷酷なのです...。そ、そそ、そーいえば、そこでもぐもぐご飯食べてる、ちゃいろいひとはどちらさま、なのです?」
「――あ、そっか。」
ケプナスは戦争中家にいて、ゆぴは戦場に居た。
さっきもケプナスは部屋、ゆぴは外にいたため、2人は今この時、初めて出会った。
「は、アンタがこいつの言ってたケプナスって奴ね。あたしはゆーか・ゆーぴぃーよ。中立魔術師――今はチームソルビ市の一員、ゆーかゆーぴぃー様よ!さぁ、あたしを敬いなさい?」
ゆぴは食器を置いて、立ち上がり、上から見下すようにケプナスに言った。
「なるほど、ゆーかゆーぴぃーなのですね。ケプナスはチームソルビ市星五貴族の、天才回復術士プーリルスルーリーの子孫スルーリー家の天才的ケプナススルーリーというのです!
残念残念、とても残念ながら、ケプナスがお前を敬うことなどでーきーなーいーのーでーす。
ゆーぴぃー家、つまり星4貴族。ケプナスはケプナスはケプナスはぁ?星五貴族っ!
態度を改めるべきだと、ケプナスは優しく教えてあげるのです!」
「あたしはねぇ、身分とかそーゆーの、気にしないから。ドンマイね、ケプナス。
とまぁ、そういうわけで、仲良くしてあげるわ。」
そんな感じで2人は、おかしなテンションで騒いでいた。
「ははっ、あの二人は元気だねー。波長があってないように見えながらもちゃんと噛み合ってるし、面白いなー。」
「そうだね、シアル様。なかなか気の合う2人だよ。似たもの同士、というのかな。
なんというか、2人の芯は似ているような気がするんだよ。」
ペリィとシアルは、座ってハプの料理を食べながら、落ち着いて会話をしていた。
そんなみんなを見つめながら、ハプはもう、戦争があったことが嘘のように思えた。
────こんな日が、ずっと続けばいいのになぁ。
そんな望みは、この後、叶うことの無い望みとなった。
◇◆◇◆◇
パーティが終わり、夜。みんなが帰り、寝床に着いた。それから何時間か経ち、朝になった時。
スルーリー家のインターフォンが押された。
ハプはそれに気が付き、扉を開けた。そこには、スーツを着込んだ人達が、何人か集まっていた。
「あのぉ...どちらさまでしょうか。」
ハプが眠そうに、そう答えると相手は答えた。
「朝早くからご迷惑をお掛けします、ハプ・スルーリー様。」
「いえ、大丈夫です...。ご要件、教えて貰ってもいいですかぁ...?」
「はい。私達は国際魔術協力連盟です。
――ケプナス・スルーリー様は、こちらに居られるでしょうか。」
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