ページ24『暖かな光が秘めた影』
「来るな、って言ってるの?え?どういうこと?シアルは、ほわたちに来て欲しくないの?
でもでも、ほわたち弱いんだとしても、行ったらちょっとは戦力になるよね。
...なら、どうしてだろ。
怪我したら痛いし、出来るだけ早くおうちに帰れた方が、疲れないのに...。」
ハプがペリィの言葉を聞き終えると、ハプが急に止まり、ジャリ、と地面から音がした。
ハプは急いでいるためか、心配そうな声色で早口言葉のように問いかけた。
ゆぴは少し2人と距離を取った場所で座っていたが、その話を聞いて少し顔を上げ、耳を傾けた。
ペリィは断じてその場から動かない様子だった為、ハプはその隣に体育座りをした。
ペリィは、斜め上の暖かい光を見上げながら、言った。
「シアル様はね、素晴らしい人だよ。」
「うん、知ってる...けど...。それが、どうか、したの?」
ペリィは、口元に薄笑いを浮かべた。
「そうだね。君もよく知っている。今の君も、前の君もね。
でも、君の知らない〝シアルキャリソン〟も、どこかにいるんだよ。」
ハプはそれを聞いて、ちらっとペリィの方を見た。ペリィはそれに気が付き、続きを話すことで答えた。
「シアル様にはね、自分の人生の全てを使って成し遂げたい、目的があるんだ。...1人で...。
僕もね、力になりたいんだけど。
シアル様は優しいから。
僕達を巻き込みたくない、と言ってるんだ。」
「なんで!絶対絶対、絶対に、人が沢山いた方が、その〝目的〟も達成できるのに!
それに、シアルがもし危ないことをしようとしているんだったら、助けてあげないと!
シアルは強いよ、とても強いよ!でもね!いくら強くても、1人だったらできないこともあるよ!
みんなで手を取り合って、一致団結して!
シアルは...シアルはどうして...。」
ハプが身を乗り出して言うと、ペリィが目を閉じ、人差し指を口元に当てた。
「ごめん...。ペリィに行っても分からないよね...。
で、その目的って...。」
「僕には、残念ながら知る余地もないね。僕には、到底届かないよ。あの人の考えていることなんて、分からない。僕も、まだまだだね。」
ペリィは、もう一度視線を斜め上に向けた。
ハプも、その隣に座って、ペリィの視線の先を見上げた。
それを確認すると、ペリィは輝く光、暖かい光を指さした。
───太陽じゃ、ないんだよね。
───帰りたいな、地球。
そんなことを考えて、少し悲しそうな目で、ハプもその光を見つめていた。
「あそこに、見えるでしょ?僕達を照らす暖かい光が。
僕達を支えてくれてる、僕達を優しく包んでくれる。
直接ではないけど、大切に、守ってくれている。
そして、僕達には、手の届かないところにいる。そんな光だよ。あれは。
シアル様は、そんな存在。僕の支えになり、優しく包んでくれて、いつも守ってくれている。
そして手の届かないところにいる。
...すごい人だよ。」
ペリィは目を閉じ、俯いた。
◇◆◇◆◇
そんな話をしている時に、シアルとケピ、レットは激戦を繰り広げていた。
「もうー、なんでなかなかやられてくれないのー?
早く終わらせて帰ってゆっくりしたいのにー!」
「これだけは同感。はやくかえってごろごろしたい。
その辺で死んだふりしてくれない?
倒すのめんどくさいから。」
「残念ながら、僕は君たち2人の要望を聞くことはできない。
君たちは、しっかりと僕の力になってもらわないとね。」
シアルは、レットに対してシールド、ケピに対して杖と針で対抗していた。
それから、1度攻撃とシールドを止めた。次の瞬間シアルは2人の間合いの外側に居た。
「───でも、もういいかな。」
そう言って、シアルは杖を片手に持ち、空に掲げた。
それから杖をクルクルと回して、つぶやくように言った。
「ウィスパー・オブ・タイム。」
すると、シアルの周囲180度に時計のエフェクトが現れ、その時計の針がくるくると回った。
そしてその針の全てが今の時間────正午になった時、全ての時計が光り、次の瞬間にケピ達のいた所が爆発した。
「チェ、やっぱり逃げたかー。」
しかし、その場所にはもう、ケピ達は居なかった。
「状況を報告してくれ、ケピ・マジシャン、レット・マジシャン。君たちの国の代表に。
早く、戦争を終わらせてくれ。きっと君たちが状況を報告すれば、相手も危機に勘づいて諦めるだろう。
...少しは、強くなれたかな。」
シアルはそう言って、自分の両手を眺めた。
「気絶したフリをしたり、不意打ちを食らわせたり。頭脳戦も結構上達した。
でも、まだ足りない。数で押されたら一溜りもない。1人で勝つには、全滅されるには、考える頭脳と、とても強い戦力が必要になる。
まだ、まだ、まだ足りない。僕は努力しなくては。
──あいつらの言ってることに影響を受けるなんて嫌だけど、僕は一応...言われていたこともあったんだから...。」
シアルは手を下ろし、どこか遠い場所を眺めるような目でブツブツと呟いた。
「───魔術の熟練者、と。」
シアルが俯いていると、シアルの背後からジャリジャリという音がした。
「...ハプ。」
振り返ってその姿を見た瞬間、シアルはいつもの笑顔に戻った。
「シアルっ!良かった、無事だったんだね。ケピ達は?どうなったの?」
「あの二人なら逃げて行ったよ。きっと、戦争は終わるだろう。
僕も、良かったよ。見る限り、ペリィとゆぴも無事のようだしね。これでやーっと一息つけるっ、てとこかな?」
ハプはそれを聞いて、ぱあっと輝くような、無邪気な笑顔になった。
「良かった!じゃあ、シアルも、ケピも、レットも、みーんな大丈夫なんだ!
それに、戦争も終わるんだ!じゃあ...お家に帰れる...。」
その言葉をいい終わろうとすると、ハプの顔は少し曇った。
「ケプナスなら、大丈夫。きっとわかってくれるさ。」
それを聞いて、ハプの顔に笑顔が戻った。
「ありがとう、シアル!でもごめんね、ほわ、何も力になれなくて、何も知らなくて...。」
ハプは少し悲しそうな顔になったが、シアルがニコッと微笑むと、微笑み返して、ゆぴ達の方へ走っていった。
シアルはもうみんなが充分に離れると、呟いた。
「いいんだ、僕が君の分まで。知らなくていいんだ。そのまま、無邪気で、無知でいてくれ。何も知らずに、ただ平穏に、普通の人生を送って。
幸せな、楽しい、満ち足りた人生を。
その為に、僕は成し遂げる。
僕だけで、滅ぼしてやる。
───魔術神秘教団。」
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