ページ13『狂気と凶器』

ハプとシアルに向かって、銃弾が大量に飛んできた。先程銃弾で胸部を撃ち抜かれた彼は、まだギリギリの所で生命線を保っていた。

ハプはそれに気が付き、急いで彼の前にフライパンを持ち出し、銃弾から守った。その様子を見て相手は彼が生きていると気がついたらしく、1度全ての銃を消した。

そうして自分が浮いた状態で小型のナイフを手に持ち、手を後ろに引いた。


「...ハプ、避けて、投げてくる。」


シアルがその事を勘づいて、咄嗟にハプを引っ張った。


「待って、その人が...!!」


ハプは急いで彼の前にフライパンを出して庇おうとしたが、間に合わなかった。

その時にはもう相手はナイフを投げていた。そのナイフは見事にフライパンの隣をすり抜けて彼に命中した。彼の頸動脈の部分にナイフは突き刺さり、そこら中に血が跳ねとんだ。その後、彼は絶命した。

ハプはそれを見てビクッとして、ズルズルと後ろに下がって行った。


「なんなのこの世界...もう...嫌...。怖い...。」


ハプは頭を抱えて、そのままふらつきながら立った。


「ハプ、落ち着いて。大丈夫だから。」


ニコっと笑いながらシアルは言った。


「身分の低い人間より、身分の高い人間を優先するのは当然だよね?」


それを聞いたハプは、表情をこわばらせてシアルを見つめた。


「...それ、それだ。それなんだね?身分差別だ!身分差別があるから平和じゃなくなるんだよね、そんなの、無くさなきゃ...ね?」


「残念だけど、それは不可能じゃないかな?その身分差別はピグルットたちの時代、【旧魔術時代】から築き上げられて来た文明だ。元々身分というものはあったけど、ピグルット達が上手く整理できるよう、作られた身分による従順関係...これは壊せない。」


ため息混じりでシアルは笑った。いつものように。ハプは震えていた。


「そういえば、さっきの攻撃してきた人は...。」


「ん?ずっと攻撃してきてるよ?僕が防いでるだけで。」


よく見てみると、まだ上空に相手はいた。どんどん近づいきながら無限に銃弾を放ってくる。遂にはマシンガンまで浮かせて撃ってくるし、シアルも余裕そうに見せているがディフェンスタイプでは無い為シールドは限界に近づきつつあった。


「シアル、無理しないで、ほわもシールドは使えなくても防げないことは無いから!無茶しないで!お願い!傷だってできてるじゃん!お願い!」


「はぁ、僕は守ってるだけなんだけどなぁ?」


そんなことを話しているうちに相手はもうすぐ側に来ていて、ハプ達と数メートル離れた場所で武器を消して着地した。

その人は茶髪で肩くらいまでの長さの髪で、少しボサボサしていた。前髪は中央の部分だけ首の辺りまで伸ばしていて、それ以外は耳にかけていた。服は一見兵隊の服のように見えるが、それは模様だけで一般的な素材でできていた。切れ目の部分に焦げ茶のラインの入った服を羽織っていて、紐付きボタンでとめている。その下にベルトで同じようなミニスカートを履いている。靴下は無しで靴は革靴。

身長からしてまだ子供だろうと思えた。


「君も、トムガノの魔術師だね。」


シアルが問いかけた。攻撃はしてこないと判断し、シールドも解除していた。

相手は弾切れの拳銃を後ろに放り投げて、片手を腰に当てて言った。


「あら、よくわかったじゃない?おめでと、褒めてあげるわ。あたしはトムガノ魔術国に協力している魔術師の1人よ。それよりさぁ、アンタ。黄色い方。アンタさぁ、あのケピとかいうクソガキが「ギッタンバッタンにした」とか言ってたんだけどあれ嘘ってこと?」


次に新たな拳銃を出して、くるくる回しながら彼女は言った。


「それって、ケピ・マジシャンっていう子?それならほわを1度気絶させてたよ。もう起きたけどね。」


真剣な表情でハプは返事をした。相手はそこまで身長は高くなかったが、見下すような目で見つめてきた。


「はーん、じゃ、あいつの言ったことは間違ってなかったってこと?そ、わかったわ。アンタ達のことは知ってるわ。黄色い方はスルーリー家のやつよね?ケピに聞いたからね。あっ、それでそっちはチームソルビ市のリーダーでしょ。一応中立魔術師として、これくらいの情報は持ってるってもんよ。」


「そうだねー、僕はチームソルビ市リーダーのシアルキャリソン。こっちがハプスルーリーだね。...中立魔術師さん?君がどんな家系なのかは大体想像が着いている。星4貴族だよね?態度がおかしいと思うよ、僕達星5なんだけどな...?」


シアルがいつもの微笑みを向けて、彼女にそう言った。

彼女は手を横に出し、「けっ、」と言って決別の目をシアルに向けた。


「そーよ、あたしは星四、アンタらは星5。あたしそれくらいわかってるわよ、そんな馬鹿じゃないし。でもさぁ、いちいち気にするの嫌じゃない?あたしだって自由に生きたいじゃない?勝手にあたしの自由を奪われるとか、最悪よね?」


次は左手に小型ナイフを持って投げ飛ばしながら言った。


「うーん、君ね、わかってたらごめんなんだけど、あんまりやりすぎると罪になるよ。牢屋に入れたれたり...星6、王族とかに逆らうと死刑になるかもよ?...いいのー?」


シアルは、困ったような薄笑いを浮かべて言った。相変わらず、彼女はまだまだ攻撃してくる様子はないし、態度を変える様子もない。


「あー、知ってる知ってる。めんどくさいよねー、そういうの。別にいいんじゃない?牢屋に入れたれた所でダイナマイトとか使って脱獄すればいいじゃないの。死刑?どんな死刑か知らないけど、死刑執行する時に斧とか持って死刑囚の首切る人!あの人らならさ、人殺しとか慣れてんだよね?ならいー感じに殺りあえそうじゃない!いいわね、それ、楽しそうじゃん!ま、勝つのはあたしよね?通報した奴ら含めて、あたしは降伏させるから!」


そう言って彼女はマシンガンを構えた。

ハプはフライパンと包丁をもって、シアルは杖を持った。そうして、シアルが口を開いた。


「君は、あれだね。ピグルット時代から続く中立変人家系。どの代も名前、姓、性格共におかしいという...『ゆーぴぃー家』。」


シアルが目をキッと細めて、警戒態勢に入った。それを聞いた彼女はニヤッと笑って空中に浮かび、マシンガンを構えて言った。


「ご名答!変人ってのは気に食わないけど、あたしがゆーぴぃー家なのは間違いない事ね。あたしの名前は天才中立魔術師、ゆーか・ゆーぴぃーよ。狂気と凶器を操るゆーかゆーぴぃー様の実力、とくとご覧あれ!」


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