ページ12『狂気の波動』
「貴方は...誰?」
目の前に立つ少年を見つめながら、ハプは言った。レットといいこの子といい、この世界では男であっても長髪なのが常識なのだろうか。
彼は目をぱっちり開けて口元は笑ったままで表情を変えず、ハプの方を見つめていた。
「んー?君こそ誰ー?魔術師なのは分かるんだけどねー。ある程度は強そうー?わかんないなー。」
口元に人差し指を当てて顔を傾けて、彼は口を動かした。
「...ハプ。ハプスルーリー。それより、ほわの質問に答えてもらってない気がするんだけど。」
ハプは相手に敵意を向けながら立ち上がって言った。
「あー?そっかー?ふっふん、優しーけぴはハプの為にじこしょーかいをしてやる!
けぴはー、けぴだよ!ケピ・マジシャン!けぴだよけぴだよけぴだよけぴだよけぴだよけぴだよけぴだよ!じゅっさいの魔術師!よろしくーっ。」
「ケピ・マジシャン」と名乗る彼は、手をパタパタさせながら言った。その間も、ずっと表情を変えていない。
「ケピ......マジシャン。もしかして、レットが言ってたのって...。」
ハプはレットの言っていた、「ケピ」という言葉を思い出した。
「あれー?レット?あの馬鹿のこと知ってるのー?わー!もしかしてあの馬鹿倒したのー?すごいじゃーん。もしかしてけぴのこと話してたりしてたのー?」
ニコニコしながら、無邪気にはしゃぐ子供のようにケピは問いかけた。戦場の中で。
「うん、言ってた。『ケピのクソッタレ。』とか、『関係ない方がいい』とか。」
「関係ない方がいいー?はぁ?ひっど!こんなかわいーけぴと関係あって、そんなんてないと思うんだよねー!いみふめー!サイテー、サイテー!」
ケピはじたばたしながら飛び跳ねた。ハプは隙ができたと見て、ケピに真っ直ぐ炎を放った。
ケピはしばらく気が付かなかったが、気がついて一瞬焦って急いで手から水を出して炎を消した。
「...なっ!」
「酷!酷いよ!ハプサイテー!けぴまだ攻撃してなくない!?ね?分かるでしょ!まだ戦う段階じゃないよね?お喋りしてたじゃん!2人で!ばっかじゃねぇの?いみふめー!それくらいのことさぁ、考えたら分かるものだよねー!」
ケピは、攻撃してきたハプを決別の目で見つめながら言った。話し方や声のトーンはいつも通りだったが、明らかに態度が変わった。
「ねー?ほらほら、頭使ってー?わかる?分かるよね?ね?ねね?ね?君さぁ、ほんとに頭あるの?ネジ外れてない?だいじょーぶ?けぴさぁ、君みたいな非常識人と付き合える気しないからさぁ、ちょっとどっか行ってもらってもいい?このゴミクズ人間、くそやろー。ほんっと、けぴには理解なんかできませーんだっ!」
それだけの事を全て喋り終えて、ケピは魔力を込めた。それをハプに向かって放り投げると水に変化し、大洪水が起きた。
「...うぐっ!け、ケピ!何を...!」
ハプはその大洪水に巻き込まれ、どんどん流されて行った。
「君と話してても意味ないからばいばーい!けぴの固有魔法は災害!あの馬鹿レットが災害みたいな性格だからとか言ってたけどさぁ、違うと思うんだー?ま、そーゆーわけだから、どっか行ってね、頭くるくるさん!きゃはは!」
ケピはそのままその場所に立っていて、手を大きく振っていた。ハプはそのまま流れていき、水が無くなったところで倒れていた。
「...なんなの、あの子...。ケピ...マジシャン...!」
◇◆◇◆◇
ハプがケピと対峙している間、シアルはその周囲を探し終えて、遠くの銃声のする方へ向かっていた。
「少なくともあっちに1人は魔術師が居た。でも、多分ハプが遭遇してる。他の魔力反応はなかったから、仲間もそっちには居ない。そう考えると、仲間もこっちにいる可能性の方が...。」
シアルは無駄に魔力を消耗したいよう、小走りしながら目的地へと進んでいた。
「ハプは今頃どうしてるかな?足止めくらいにはなってると思うんだけど...な。」
そんなことを呟きながら走っていると、人が倒れていた。
黄色い髪でピンクの髪飾り、胸元に宝石をつけて黒い服を着ていた。
「...ハプ!負けたのか...?そういえばこの辺りなんかやけに湿ってるな。というかハプなんでここに?あっちにいたはずなんだけど...。」
シアルはハプに自分のできる範囲の治癒魔法をかけたが、シアルの戦闘タイプはアタック。あまり大幅な回復はできない。
「...う。シアル?」
「うわ、ハプ。まだ起きなくていい。大丈夫。まだ安静にしてて。何があった?」
「ケ...ピ。ケピマジシャ...ン。」
ハプはギリギリ意識を保ちながら、ケピのことをシアルに伝えようとした。
「ケピマジシャン?マジシャン...レットの関係者か。その人がハプをここまで...なるほど、実力者であるか、便利な固有魔法、能力を持つね。」
「シアル...ちょっと魔力提供して...。」
そう言われて、シアルは急いで魔力を少しハプに提供した。するとハプは立ち上がり、台所を出してビーフステーキを作り、もぐもぐ食べた。
「...回復ビーフか!なるほど、ナイスだよハプ。」
「ふふふ、どんな時でも家事だけはほわにおまかせ!」
HPと魔力が回復して、ハプは元気になりシアルと共に銃声の響く方へ行った。かなりその場所に近づいた時、傷を負い、ボロボロになった人がこっちに向かってきた。
その人はシアルを見つけてシアルの所へ近づき、パタっと座り込んだ。
「シアル、誰...?」
「チームソルビ市の人ではない。でも、ツム国側の人間だね。僕が知らないってことは、貴族としては星一とか星2辺りだろ。..大丈夫?」
シアルがそう聞くと、彼は半分目を閉じながら言った。
「シアル...様...気にしないで...奥にいる敵は...危険です。星4貴族の人が...います。私も...」
その言葉を言い終わる前に、その人の胸を真っ直ぐに弾が撃ち抜いた。
それに気がついたシアルは急いで周りを見渡しシールドを張って、警戒態勢に入った。
ハプは周囲を見渡していると、数百㍍離れた木の上で、両手にスナイパーライフルを持った女性が立っていた。
彼女は木の上から飛び降りて浮遊術でこちらに飛んできて、自分の周りに浮かべた大量のライフルを使って、2人を目掛けて狙撃してきた。
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