ページ65『情報詮索』
「ケプナス様はまたもや、お役立ちしてしまったのですね」
ケプナスは持っていた杖を押し付けるようにエイに渡し、ナルの方に向かって歩いてゆく。
ケプナスの作ったコンソメスープ、技名『どろどろスープ』
作り方は一風変わりないコンソメスープだが、究極級の不味さを秘めている一応食用品。濁ったドブ川のような色をしている。
どろどろスープは、スプーンで1口食べるだけでも、ケプナス以外の人はHPを大幅に減らされる。
そこにハプの能力を追加。料理を魔法にすることが出来、デバフを追加。エイの魔力を追加、これにより攻撃能力を高める。ケプナスと能力合体させているため、デバフ効果も上乗せ。デバフを重ねる。
攻撃低下、更に低下、低下。防御低下、更に低下、低下に低下を重ねる。継続系ダメージを付与。更に重ねて、重ねて、重ねて。
それからの、大ダメージ。
ハプ&エイ&ケプナスによって作られたどろどろスープは、とても強い。
今回のどろどろスープは、エイの魔法と同一化させている。その為、ナルにはどろどろスープを食らった痕跡はなく、その場にただ倒れている。
「みちびきて、いい加減に死んだのです? 」
「う…」
「い、生きてる!? 美味しすぎて、成仏したのでは!? 」
ナルは腕を支えに、顔を少し上に上げた。瀕死状態なのは、間違いない。
「ハプ、スルーリー…」
ナルがハプの名前を呼ぶ。ハプは即座に反応し、ナルのそばに駆け寄って、屈んだ。
「何、かな。ナル」
「ありがとう、なの」
ハプは目を丸くする。どうして、感謝されるのだろうか。
ナルは、震える手をハプに向かって伸ばした。
「『過去の声』を聞かせる時に…ハプには、聞きたくない声を聞かせることが出来なかった…。感知はできて、それにしようと思ったの。でも、知識がなかった。この世界の人じゃないから。バグが発生したの。
だから、ハプには、本当の声を聞かせられた。あれは、過去を見た時の絶望感から、本当に話せたという希望へと…変わった、瞬間だったの。
珍しくて、これはこれでリナも喜んでくれそうなの…。ありがとうなの」
「ナルは…ナルちゃんは、まだ、リナちゃんのことが、好きなの? 」
ナルは笑った。
「『時間の観望者―未来―』は、ナルが引き継いだの。もう、リナはただのリナ・キャリソンなの。そしてナルももう、この役目は引き渡す。ナルもただの、ナル・キャリソンなの。
本当のことを気づかせてくれて、ありがとうなの」
ハプは、伸ばされてきたナルの手を取った。
「あのね、酷いこと言ってごめんね。それと、ありがとう」
「どういたしまし…て、なの」
ナルの声は震えている。ハプは必死に喋るのを止めさせようとするが、ナルは続けた。
「喋っても喋らなくても、死ぬのは同じ。回復も、しないで欲しいの。
だから、お願い。『友人』を倒して、魔術神秘教団を滅ぼして」
魔術神秘教団という教団が、どんな教団なのかは分からない。でも、間違いないことがある。シアルが、魔術神秘教団を恨んでいる。セレインも、恨んでいる。ペリィもシアルに協力的で、ケプナスも怒りを抱いている。
何より、ナルが教団の滅びを願っている。
どんな教団なのかは分からないし、ナルも知らない。ナルによると、第7の導き手の中では、リナが主軸。情報を知っているのもリナだけど、『第7の導き手』は導き手の中では最低位らしく、リナ自体もほとんど情報を持っていない。
これからの情報は、自分たちで探っていかなければならない。
「伝えて……おかなきゃ、ならない、の」
ナルがか細い声で話す。
「魔術神秘教団で、1番厄介な相手は、『友人』なの。導き手なことは間違いないけど、それ以外は分からない。名前も分からないし、『時間の観望者』といった称号も…不明。
固有能力不明、固有魔法不明、固有特権…不明。
年齢不明、経歴不明、でも、強い…それだけは、確かなの。ナルが、この目で…う」
ナルは話しながら、苦しそうに目を抑える。
「ナル、大丈夫!? やっぱり、手当して…! 」
「魔術神秘教団を真に滅ぼすには、導き手を全員殺す必要が…あ、る…の」
「そんな…! 穂羽は、ナルも仲間として…」
「1度でも導き手として活躍してしまったら、抜け出すことは…それに、シアルが嫌がるの」
ナルは苦笑いをする。
ゆっくりと目をつむりながら。
「な、ナル! でも、殺したの穂羽達だし…何も言えないじゃない! 」
「静かに。もしかすると、もしかしてだけど、『第2の導き手』はここに……なんでもないの。
『友人』の次に気をつけた方が…いい…の、は」
「ナル! もう情報なんて要らない! 穂羽達、後悔してる。でも、導き手は全員殺さないといけないなんて…で、でも! せめて、苦しまずに死んで欲しいの」
「第、5の導き手…『人る……」
技の効果。
継続ダメージ付与。
ナルは言い終える途中で、継続ダメージによりHPが0になった。魔術師の死に方は、主にふたつ。
1つ目は、一般的な死に方。高い所からの転落、出血多量、感染症、など。
2つ目は、HPの完全減少。HPが0になった状態だ。HPは生命力のようなものなので、これが切れることにより、意識が永遠に戻らなくなる。
ナル・キャリソン討伐完了。
魔術神秘教団・第7の導き手『時間の観望者―未来―』、『時間の観望者―過去―』討伐完了。
◇◆◇◆◇
討伐後、国際魔術協力連盟本部。
魔術神秘教団の情報に詳しい人、直接相手と戦闘を交えた人、導き手について詳しく知っている人を集めて、教団の情報の整理を始めている。
「まず大事なのは、『友人』のことでございます。私わたくしと兄様は、直接に出会ったことがあるのでございます」
「そうだよね、ショーで聞いた。シアル、セレインちゃん。どんな人だったか、覚えてる? 」
「髪の色は緑だったかな。フードから左右両方にちょっとだけ出てるって感じー? 」
まずは、『友人』について。1番、謎が多いこと。
「ケプナス、違和感に気がついてしまったのです。あのお友達は、はじめ攻撃して、パーティ会場を火事にしてしまったのです。その後、あのお友達は、風を吹かせていたのです。何タイプなのです? 風タイプ? 炎タイプ? 」
ケプナスの言った言葉に、その場が静まり返る。
「ほんとだ、ほんとだケプナス! ケプナスが気がつくなんて! 」
「2つもの属性魔法が使えるなんて、どういった固有魔法なのでございますか…」
「それにね、シアルの魔法が効いてた。というか、穂羽、あの時始めてシアルがあんな魔法使えるんだって知ったよ」
「そりゃあ、言ってなかったからねー。ケプナスにも。僕の魔法は『時間停止』だよ。今現在、その時ピッタリの時間を切り取って、自分や触れた物以外が動けない空間を作り出す。効かない相手は、同一能力を持ってる奴だけのはずなんだけどな…」
そんな感じで友人の話を終える。結局、友人のことはほとんど探ることができなかった。
「リナの能力は別に必要ないのですよね? 」
「一応、でございます。その紙に、書いておいてくださいませ」
「書けない字がある時は、どうしたらいいのですか? 」
「大文字でいいですから…」
この世界の文字はローマ字。大文字がひらがなで書いているような基本形で、小文字が漢字やカタカナを混ぜたような形、と覚えている。
「それとね、穂羽が聞いた2番目に注意しなきゃな人。じんるって言ってたよ! 第5の導き手なんだって! 」
「僕は…知らないなー。多分だけど、ナルのショーで言ってた、唯一出会った導き手、じゃないかなー? 導き手の名前とかと照らし合わせて、『じんる』まで来たら、しっくり来るのは『人類』かなー。人類の…の後に続く言葉が分からないけどさー」
「多分、とても強いのだと思うのです! 」
ケプナスが鉛筆を力強く紙に押し付け過ぎたあまり芯を折りながら話す。
「はい、鉛筆削り。とても強いから、ナルは言おうとしたんだよ。それと鉛筆、もっと優しく使ってよね」
それからもしばらく話し合いをした。
「じゃぁ、帰ろっか。今度こそ、パーティをしよう。エイも一緒に。
今度こそ、後日談を」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます