ページ37『騙し騙されまた騙され』

女性は...リナは、そう名乗って一礼し、顔をあげた。

それから帽子を被り直し、ステージの上を歩き回る。

そのスポットライトは、リナのいる場所を照らし続けた。



「ねぇ、ねぇねぇねぇ。私のお話聞いてたのかしらぁ?ほらほらほらっ!席に着きなさいよぉ?

...まあ、でもいいかもしれないわねぇ、立ったままでのショーって言うのも!

では改めてぇ!

観客のみーなさん。今日はわざわざぁ、私のショーに来てくれてありがとぉ♪

私ったらぁ、もう貴方達が来るのが楽しみで楽しみでとーっても楽しみでっ!夜しか眠れなかったんだからぁ!

それにそれにそーれーにっ!シアルもいるじゃないのぉ!お久しぶりねぇ?ホントのホントのほーんとに、会えて嬉しいわぁ?」



リナはステージの上をわざとらしい身振り手振りで行き来しながら語尾を伸ばし気味に話した。

彼女の喋り方は、分からない。本音なのか偽りなのか、全く理解が出来なかった。

でも、そこにいる人々には、ハプでさえ。これだけは理解出来たことだろう。

彼女には、仮面の裏の顔がある。

ここにいる自分達がこうなることを知っておきながら、それを掌の上で転がして嘲笑っている。

親しみやすいその態度の裏側には、異常な狂気が浮かんでいた。



「だってだってだってぇ、最近シアルとまーったく会ってないじゃなーいの!だからっ!

会えて嬉しいって言うのは、本当なのよ?シーアル、信じてよぉ?」



リナはステージの端に立ち、シアルの方に顔を突き立てた。

シアルは容赦なくリナに針を突き立てるが、リナは当然の如く踊るように針を避ける。



「全くもう、シアルったら辛辣ゥ♪

久々の再開なんだからぁ、そんな刺々しい挨拶なんて、私だって寂しいわぁ?」


「思ってもいないことをペラペラペラペラと、よくもそんなに戯言を思いつくものだよねー、尊敬レベルだよー、ほんとさ。」



シアルは笑顔で、リナに対して言った。そのシアルもまた、笑顔の裏の顔が存在した。

騙し騙されの論戦マジックショーが、繰り広げられている。



「ヒドイヒドーイ、シアルったら酷い!私、これでも貴方の従兄弟よぉ?もうちょっとはぁ、仲良くしてくれてもいいと思うんだけどぉ?」



リナは踵を返してステージの後方に下がり、くるりと回転して言った。



「僕は君のことを従兄弟だなんて思ってないからねー、ほら、これでいいだろー?」



シアルは一瞬目を細め、すぐに笑顔になって言った。

それを聞いたリナの目は振り向きざまに一緒光ったが、すぐさま元の笑顔に戻り、もう一度シアルに話しかける。



「もう、ほんとに酷いんだからぁ。私の乙女心が傷ついちゃうわぁ♪

でもでもぉ、いい加減にお話もやめましょうか?

ほら、追加のお客様も来たようだしっ!」



リナがそう言った。それを聞き、ハプ、ゆぴ、シアルは振り返った。

するとそこには、セレインとペリィの引き連れる第2部隊がこちらに向かってきていた。



「セレインちゃんっ!」


「ハプ様、ゆぴ様。そろそろ頃合いかと思い、やってきました。」


「少し遅かったかな?でも少なくとも、修羅場にはなっていないようだね。安堵したよ。」



それからセレインはステージの方を見て、口を開いた。



「...大方、予想は着いていました。やはり貴方ですか...。リナ。」


「あらあらぁ。セレインまで来てくれるなんてぇ、今日はとーっても素敵な日ね!私ったらワクワクしちゃう♪」


「...」



リナはセレインに対し、シアル同様に話しかけた。

しかし、セレインは反論するのではなく、黙って見ていた。

ハプはずっと気になっていた疑問をセレインに小声で聞く。



「...キャリソンって、」



するとセレインは小声で返した。



「ええ、その通りでございます。彼女は、あの時私わたくしが話すことを拒んだ、わたくしと兄様の従兄弟、そして現代の2つ目のキャリソン家の長女。

それから魔術神秘教団・第7の導き手『時間の観望者―未来―』、リナ・キャリソンにございます。」


「そっか...セレインちゃんと、シアルの従兄弟の、リナちゃん。そっか、それで言いたくなかったんだね、そっか。

...ねぇ、セレインちゃん。ケプナス...どこにいるの?ほわの今回の目的はケプナスを助けることだからっ。

だからね、案内して欲しいの。」



ハプが言うとセレインは我に返ったように頷き、ゆぴとハプを引き連れて静かに部屋から出ていった。



「君が魔術神秘教団の導き手、という人か。」



セレインとゆぴ、それからハプが出ていったのを確認すると、それを紛らわそうとペリィが前に進みながらリナに話しかける。

リナは一瞬目を細め、話しかける。



「ええ、貴方ははじめましてねぇ。私は魔術神秘教団、第7の導き手。『時間の観望者』...付け加えると、『時間の観望者―未来―』、リナ・キャリソンと申しまぁす♪」


「君もシアル様の関係者か、恐らくだが、連盟本部でセレイン様が言っていた従兄弟という人物だろう。

僕はペリィ・スリータ。チームソルビ市の副リーダー。」



リナは笑顔で、ペリィは無表情で。シアルを挟んで会話を始める。いつ何が起こっても大丈夫なよう、連盟員達も構えの体勢に入る。



「...へぇ、そう。ペリィさんねぇ。よろしくねぇ。

...所で、隠しているつもりになってるのか分からないけど、セレイン達はケプナスちゃんを助けに行ってるのかしらねぇ?」



リナが目を細めて言うと、シアルが怒りを抑えた笑顔で口を挟む。



「知っているくせにペラペラと何言ってるのかなー。甚だ図々しいんだけどー?」



その口調はいつも通りの軽はずみな口調だった。

それを聞き、リナもいつも通りの伸ばし気味の軽い口調で話しかける。



「...別にいいじゃなぁいの♪シアルったら冷たいんだからぁ。」


「シアル様、ここは僕に任せていただけるとありがたいな。それとリナ、だっけ?これはシアル様にも言えることなんだけど、そっちこそそれで隠しているつもりかな?いつも笑顔の仮面を被っているつもりなのだとしたら、全然違うと僕は思うよ。

君は自分の感情を全く隠しきれていない。僕からしたら、常に裏の顔が見えているようなものなんだよ。

もしずっと素顔を隠すのならば。笑顔なら笑顔、無表情なら無表情で。突き通さなければ。少しでも表情を歪めることは許されないんだよ。」



ペリィはいつも通りの落ち着いた口調で。いつも通りの無表情で。シアルとリナに語りかける。



「ご高説ご苦労さま♪

でも、困るわねぇ。後でちょーっとだけ、あの子と一緒にショーをしようと思ってたんだけど。何も悪いことはしないのに、助ける、ってなんか変よねぇ。」


「君は引き止めないんだね、リナ。このままだと、ケプナス様はハプ達に助け出されるかもしれないんだよ?」



ペリィは無表情のままで、リナに問いかける。しかしリナは笑顔のまま、同じ声のトーンで答える。



「そうねぇ...ちょーっと困るけど、大丈夫よぉ。

...あなた達が、どこまで私達を出し抜けるか、楽しみねぇ♪」



そう言ってリナが一礼すると、明かりが一斉に消えた。それからすぐに明かりが着いたと思うと、そこにはリナはいなかった。

それから、その部屋だけにアナウンスが流れる。



『リナよぉ、シアル、ペリィさん、連盟員のみーなさん♪聞こえるかしらぁ?今から私を探してくださいっ。この建物の中ぜーんぶ、使っていいわよぉ♪誰が1番かしらぁ?よーい、どん!』



放送が切れると、シアルは俯き、呟いた。



「...そういう事か......!」



それを横目で見たペリィは、部屋から出ていきながら呟く。



「リナを探してくるよ。みんな散らばって。

それと、シアル様。

――そのままでは、僕を騙すことはできないよ。」



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