ページ36『道化師は踊る』

「じゃあこっち。」



シアルは最前線に立ち、誰もいないことを確認してから手招きをした。


するとゆぴ、ハプと2人の引き連れる集団はそれに続いた。

今、チームソルビ市含む連盟軍は二手に別れて行動している。

シアルをメインとして裏口から乗り込み、導き手を判断するグループ。

セレイン、ペリィを中心とした頭脳派の監視組。

それから内部に侵入することに成功した後、ハプとゆぴはケプナスを探し、助けるグループ、シアルは導き手を引き止める役割。その引き止める役割にペリィが加わり、セレインが案内人としてハプとゆぴに加わる。

ケプナスを救い出すことに成功したら、ハプとゆぴ、それにケプナスもシアル達に加わり、導き手を討伐、それが不可能でも情報を聞き入れる。



「...物音がする。戦闘準備。もし使徒が来た場合は気絶させる。」



そう言ってシアルは杖を構え、他の人々もそれぞれの武器を構えた。



「ゆぴ、足音をよく聞いて、狙撃。君なら外さないから。」



シアルは小声で隣にいたゆぴに指示をする。ゆぴは頷き、スナイパーライフルを構えた。

それから引き金を引き、弾を飛ばした。



「...当たった感触がしない。あのスピードで避けるとかやばい!先読みされてる!あーもう降りてきなさいよ!」



「...」



ゆぴは確実に命中させたが、避けられた。それを見て、シアルは目を見開いた。



「嘘だろ...。」



全員が戦闘態勢に入り、上を見上げた。しかし、上からは誰も出てこなかった。

当たりを見渡していると、後方にいる連盟員が悲鳴をあげた。



「...何!?どうしたの!?」



ハプは驚いて、手にしていたフライパンを持ったまま振り向いた。



「こっ...ここから先は通しません!」



そこには、ナイフを片手に持った黒いローブの集団が居た。

黒のローブ、金色のライン。胸元に黒いリボン、背中に赤色の六角形、金色の羽の模様。


___戦争中、ハプの見たローブ。



「わっ、私達は!魔術神秘教団の使徒です!平民なので魔法は使えませんが、足止めくらいにはっ!」


「魔術神秘教団...!」



その集団はそう名乗り、ナイフを向けてきた。

その様子を見ながら、シアルは腕を組んで呟いていた。



「...使徒がいる。『友人』と『箱』はなし。そしてその使徒の人数は多め。で、正気を保ってる。『使役者』なし。」


「シア...ル?何言ってるの?」


「導き手を判断してる。結構みんな戦い方に特徴があるからさ。判断しておいた方がやりやすいし、判断もつけやすいんだよねー。例えば導き手の中にも使徒を連れてくるやつ、連れてこないやつとかいるし。まあ、その戦い方を知ってるだけで、名前とかそういうのは知らない人がほとんどだけどさ。」



シアルはそう言って、前に進んだ。それから使徒の攻撃をシールドで防ぎながら、話しかけた。



「さすがに、エリアボスの情報聞けたりはしないよねー?」



その表情は、笑顔で親しげだった。使徒は一瞬震え、息を呑んで答える。



「...残念ながらお答えできません。導き手の方に言わないように伝えられてあります。絶対に守ります。ここから先は私達を倒してください。少しは時間稼ぎになりますから!」



そう言ってその使徒はシアルに向かってナイフを刺そうとした。シアルはシールドで受け止めた。



「...予想を遥かに裏切ってくるなー、まるで道化師じゃないか。はーぁは、踊らされるのは勘弁だよー。」



そう言ってシアルが杖を振ると、ローブの人々は気絶し、倒れて行った。



「...ごめんねー、でも君達だって魔術神秘教団だからねー。例え『星なし』庶民だろうと、容赦はしないよ。気絶レベルだからねー。

あっ、みんな。恐らくだけどこれから、星一から星3貴族も出てくると思う。順番に強くして行く...そんな感じだ。次のところに行こう。導き手が分かったらもう直行で進んでいくだけだけど、それまではゆっくりね。僕の指示に従うこと。いいね?」



それからシアルの言った通り、進むにつれて相手のローブ集団は強くなって行った。シアルはよく不意打ちをかけようとするが、その不意打ちは1度も当たらなかった。



「...あんなに頑張ったのになー...さすがに、1度も当たらないのは傷つくよー、はは。

しかもあいつら、ハプが誰かを回復させたり、ゆぴが弾の入れ替えをしている時、少し立ち止まって話し合いをしている時、油断している時を綺麗に狙ってくるしさぁ。もう、うんざりだよー。」



シアルは少ししょんぼりしながら歩いて、悲しそうな声で言った。しかし、その顔はいつも通りの笑顔だった。

シアルはハプ達に心配をかけないよう、いつも明るく振舞っている。その様子を見る度に、ハプは心配になっていた。



「次は...当たるよ、きっと。」


「いいや、当たらないね。」



ハプが心配そうにシアルの顔を覗き込んで声をかけると、シアルはキッパリと、断言した。



「な、なんでそうやって言いきれるの...?」


「理由は主に2つだね。まずは...もう、そのチャンスがない。...ここの部屋に、導き手が居る。」



それを聞いてハプが顔をあげて前を見ると、大きな金色の扉があった。とても大きな部屋だ。恐らく、国際魔術協力連盟ではパーティか何かの会場に使われていたのだろう。



「そして...もう一つの理由は。」



そう言ってシアルは扉に手を当てて、押した。



「その導き手はそういう...」



それからシアルが前に進んでいき、その両開きの扉はゆっくりと音を立てて開いて行った。



「能力のやつだからだ...!」



完全に扉は開いた。そこはハプの思っていたようなパーティをするような会場だった。中央にレッドカーペットが敷いてあり、その先には大きなステージがあった。



「全く、導き手として活躍するだけではもの足りず、星五貴族を誘拐し、人質にとり、国際魔術協力連盟を踊らせるとはね...!」



シアルはそのレッドカーペットの上を歩いていき、進んで行った。声には怒りが込められていた。



「面汚しめ...!」



ハプやゆぴ達を差し置いて、シアルはズカズカと進んでいく。笑ってなんかいなかった。



「僕やセレインの事も...少しは考えたらどうだ!?」



シアルはステージの1歩手前まできて止まり、叫んだ。



「居るんだろ...?『時間の観望者』...!!」



シアルがそう言うと、その大きな部屋の照明が一斉に消えていった。それからステージの中央にスポットライトが光り、帽子を被った人物の影が移し出された。



「ショーへようこそ。」



女性の声がして、ステージの下から色とりどりの光が光った。ツインテールの、紺色のシルクハットを被り、カラフルな派手な服を着込んだ女性が立っていた。

それを見たシアルは、怒りの形相で、怒りの声で。今までに見たことの無いようなシアルキャリソンで、呟いた。



「やっぱりお前か...!」



照明の色は白1色になり、しっかりと顔が見えた。ピンクに近い薄紫色のストレートの髪、紫色の瞳。

小顔で、美しい女性だった。

ハプは遠くからその様子を見つめていると、女性が口を開く。



「観客のみーなさん。席に付かなきゃダメでしょぉ?ほらほら、はーやーく!」



それから帽子を取って一礼し、彼女はもう一度言った。



「はじめまして、観客さん♪自己紹介をしておくわぁ。よ、ろ、し、く、ね?

――魔術神秘教団・第7の導き手『時間の観望者』。リナ・キャリソンと申しまぁーす!以後、お見知り置きをぉ♪」

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