ページ46『友達』

___ああ、なんで、また役にたてないのか。


半目になり、ケプナスは虚ろな目をしてそう思う。


___あの時、もっと考えて行動していれば___!


これでは、足でまといになっただけだ。対して活躍もしていないのに、すぐにやられて行動不能。戦闘の手助けもできない状態で、ただここで寝ているだけ。


――エイ、いいなぁ。とっても強くて。すぐに檻を壊してくれたし、リナもあんなに簡単に捕まえた。

瞬間移動テレポートも使えるし、あれを本当の天才って言うんだ。それだけじゃなくて、すぐにケプナスのところに駆け寄ってくれた。迷惑をかけただけの相手に、あんなに優しく...。


――ぺリィも、いいなぁ。あんなに頭が回って。すぐに状況を判断できるし、作戦も完璧だ。勉強もできるし、色んなことを知ってる。どんな時でもブレなくて、冷静な対応。焦ってばかりのケプナスとは、大違いだ。あんなふうに、なりたいなぁ。


――おにちゃーま、いいなぁ。みんなのことを考えれて。みんなの役に立てて。自分も大変なのに、自分以外のことも考えて、思いやれる。それに回復が出来るから、役に立てる。いつも自分のことで精一杯のケプナスとは大違いだ。あんなふうに、役に立ちたいなぁ。


――ゆぴ、いいなぁ。自分の無力を認められて。自分は弱いんだって、吹っ切れて。固有魔法も持ってないのに、ケプナスより強くて。弱いなら弱いなりに、別のことを極めて、役にたとうとして。弱いことを認められない、ケプナスとは大違いだ。


――リーダーも、いいなぁ。はっきりと、目の前と向き合えて。色んなことを知ってて。リーダーとして、みんなを導いて。リーダーなら、信じられるから。影でみんなの役に立ってるし、しっかりと自分の目的を持ってる。何をすればいいのか分からないし、1人で囚われているケプナスとは大違いだ。



みんなみんなみんなみんな、羨ましいな。なんでこんなに無力なのかな。自分だけ、自分だけ。もっと、何か出来るかもしれないのに。何か、してあげたいのに。役に、たってみたいのに。目的を、持ってみたいのに。

___なんで、生まれてきたのかな。



「ケプナス、だって...!」



過ぎ去っていくエイの背中が見える。ケプナスからどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどん離れていく。遠くへ遠くへ。前へ前へ。ケプナスは、その場で止まったまま。


___置いて、行かないで。


エイは、ケプナスを置いていってなんか居ない。リナをシアルの所に運んで、決着をつけに行くだけ。そんなことわかってた。わかってたのに___。



「なんで、ケプナスをひとりぼっちにするのです。」



ケプナスには自分が、置いて行かれているように見えた。

ケプナスだけを無力なままで、残して行くように見えた。



「なんで___。」



瞳の奥が熱い。悲しみの温度だ。

泣くな、泣くな、泣くな。こんなことで泣くな。

必死に、自分に言い聞かせる。

必死に、泣くまいと歯を食いしばる。

そして、力を入れたその時、頬にハンカチが投げられた。


ケプナスは閉じていた目を開ける。



「泣きたいなら、泣けばいいじゃない。」



◇◆◇◆◇



「まって、ハプ、行かないでよ!」



過ぎ去っていくハプに、ゆぴは手を伸ばす。セレインはその様子を見つめている。

ゆぴは、その呼び掛けがハプには届いていないことがわかると、手を引っ込めてセレインを見る。



「あたし、まだアンタのこと疑ってるから。」



謝ろうとしたのに、謝ることが出来なかった。謝ると、負けたようで気に食わないから、意地でも謝らない。そんな感情が邪魔してきた。



「疑われようと構いません。わたくしはやっていない。その事実がある限り、いくら疑われようと事実は事実なのですから。」



セレインはそう、言い放つ。



「あたしは、もう行く。アンタはシアルの方帰ってよ。」



ゆぴはセレインに言い放ち、反対の向きへ進んで行く。その途中で、ゆぴは立ち止まる。

魔力反応がした。その反応は一旦大きくなり、それから細く、小さくなった。



「ケプナス!?」



その反応は、ケプナスのものだった。少ししか会ってないが、まずあったことのある人が少ないゆぴにはわかる。

そして、一旦反応が大きくなり、小さくなるこの反応。数々の戦争にでてきたゆぴならわかる。


___ケプナスが、かなり負傷した。



「...ったく、脱獄したってんの!?てか、なんなのよあいつ。放置してたらすぐ調子のって死ぬんじゃないの!?バッカみたい!」



そう言いながらも、体はケプナスの方へ向かう。心の中では心配だからだ。



「...だーもう、あたし、ケプナスのこと心配してる訳じゃないから!」



またもや、心の奥とは真逆の言葉を言う。



「あいつのこと、ただの仲間としか思ってないから!」



まあもや、真逆。それから、最後に。数日前を思い出して、大きな声で叫ぶ。



「あたし、ツンデレじゃないんだからーーーっ!」



首を振りながら走り回ってケプナスを探すが、連盟の作りが難しく、なかなかたどり着けない。それから角を曲がろうとすると、声が聞こえてくる。



「なんで、ケプナスを1人ぼっちにするのです。」



ケプナスの声だ。震えていて、今にも泣きそうな。ゆぴは廊下の角で立ち止まり、様子を見ようとする。

毛布を被って、床に横になっている。



「床に横になるとか、緊急時くらいでしょ。もうちょっとマシなとこに寝れなかったの?ったく、誰よ寝かせたやつ。」



ゆぴはつぶやく。すると、ケプナスがまた話す。



「なんで___!」



やはり、泣きそうだ。震えている。それから、上手く声が出せていない。


――あいつ、泣きそう。


そう思って、ケプナスを見ている。ケプナスは泣きそうなのに、泣いていない。


――なんで泣かないのかしら。


ゆぴは不思議そうに考えると、はっと思いつく。


――そっか、泣いたら負けだって、そう思ってるんだ。なら。


ゆぴは、ケプナスに向かって駆け出す。それから、ポケットの中に入っていたハンカチを、思いっきりケプナスに投げつける。


――馬鹿、なんであたし投げつけんのよ。手で渡すとか出来なかったの!?



「泣きたいなら、泣けばいいじゃない。」



○●○●○



見上げると、ハンカチをなげつけた張本人であろう、ゆぴが立っていた。



「ゆ...ぴ」


「何よ、ゆぴよ。見ればわかるでしょ。お久ね、ケプナス。なんで泣きたいのか知らないけど、泣きたい時は泣くのが1番よ。泣いたあとの開放感ったらやばいんだから。」



目に涙を浮かばせながら、必死に堪えようとしているケプナスに、不思議そうにゆぴは言う。



「...な、泣いてないのです!」


「馬鹿?それで誤魔化せると思ってるのなら、あたしはアンタを世界一のバカに認定してやってもいいと思うわ。あ、世界ってのはあたしの見てきた世界。

で、泣きなさいよ。泣くなら縮こまってじゃなくて、堂々と泣けばいいじゃない。みっともなく喚き散らして、ギャーギャー泣きなさい。あたしはその光景一生忘れてやらないわ。」


「ひどひどなのです...。」


「ひ、酷くないし。だから、泣けばいいじゃない。ね?

隠し事とかやめましょーよ。...あたし、アンタと友達になってやらんこともないって思ってるんだから。」


「とも、だち...。」



ケプナスはそれを聞いて、知らずの内に涙がこぼれていた。涙は流れているのに、笑っていた。



「変なの、なのです...!ケプナスは、ゆぴのこと、もう友達だと思ってたのです...!ふ、ププッ、『なってやらんことも無い』...なりたいと思ってるくせに!ゆぴのつんつん!」



ケプナスは泣いて、笑いながら言う。ゆぴはそれを聞いて、顔を赤らめる。



「はぁ!?友達...。あ、あたしはそんなふうに思ってなかったから!アンタがどーうしてもあたしと友達になりたいってっからなってやるの!バカ!バカ!バーか!それと、あたしはつんつんじゃない。言っとくけど、ツンデレでもないから!」


「くく、くくっ。ゆぴはおもろいのです!でも、ならケプナスはお友達になりたいのです。ケプナスのお友達にしてやるのです。光栄なことなのです!喜べなのです!

はわっ!つんつんじゃなくて、ツンデレだったのです...。」



緊張した国際魔術協力連盟で、2人の少女の笑い声が響く。

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