ページ72『今と昔の殺人鬼』
今こうやって君に過去を語ったり、ナルの過去公開ショーを聞いたりしてると、つくづく思うよ。
友人は、人を教団に誘い込むのが上手だ。人の弱い心につけ込み、望んでいることを与える。その人の望みを与えようとしながら、尚更選択の余地を与える。
リナの時。まずは、教団について説明する。その説明がこうだ。教団は、目的を果たすのであれば、何をしてもいい自由な空間。
事実である。
教団は基本的に自由。最終的に目的が達成されるのであれば、決まった役割がない限り、自由だ。活動をするのもしないのも、自由。
それからこう言った。でも、対抗者だって現れる。
事実である。
教団はあまり知られていないが、何らかのことで情報にたどり着いた者、偶然出会した者、僕のように恨みを持つ者。対抗者は現れる。
それから。自由もあれば不自由もあるのはどちらでも同じ。つまり、希望と絶望。でも、その差が、大きいのはどちらか。リナにたずねた。
リナは、希望と絶望の変化のある人生を望む。この選択は、間違いなく教団の方である。でも、そうと確定するのではなく、相手にたずねる。
そうすることで、入りたい気持ちを増幅させる。
リナに初めに聞いたのは、リナが入れば、ナルが入ることを知っていたから。
それから僕の時もだ。存在価値なんてない、そう思っていた所に、必要とする。貴方を必要とすると強調して言ってきた。タイミングも、言葉も、弱みにつけ込んでくる。
しかも、ここしかないと。僕が役に立てるのはここしかないと。その『しか』という言葉が、当時の僕には刺さった。
自分なんてセレインの欠陥品だと思っていたから、役に立てないと思っていた。
だから、ここしかという言葉が、本当に感じた。
身寄りがないからという理由を言い訳に、僕は教団に入った。
教団には、本拠地がある。でも、場所は知らない。外に出る時は必ず、瞬間移動テレポートだからだ。
その中で僕が道に迷っていた時があった。その時に出会ったのがケミキルだ。
「大丈夫? 君。誰か知らないけどさ。こんな子供がこんなとこに迷い込んだ的な感じ? それとも使徒とかの息子? まさか君自体が使徒ってことは無いよね? 」
「君は? 」
「僕? ここの第6の導き手、身体の管理者だよ? 君は見たことないな、迷子? 」
「僕も、君と同じ、導き手だ。第7の導き手『時間の観望者―現在―』、第3の導き手『魔術の熟練者』シアル・キャリソン」
「はえー、こんな子供が?しかも僕より上だしさ? キャリソン家だしさ? てか、どこ行くつもりだったの? 連れてこっか? あ、僕はケミキル・バントね? 」
その時僕がテレポート地点に移動する時にケミキルと話して以来、よく一緒に居るようになった。
◇◆◇◆◇
「あ、シアルじゃん? いたいた〜。今暇? 」
「あ。来てたのか。別に特に用事はないよ。何か? 」
「ならさ、仕事手伝ってくんない? ほんとに、ほんとにちょーっと手伝ってくれるだけでいいからさ?」
「仕事…教団の…仕事、か。いい…よ。どうせ暇だ。それくらい、手伝おう」
本当に『それくらい』の気持ちで手伝ったその罠作りが、僕のその後を大きく変えた。ケミキルのいいようによれば、僕が仕事を手伝うようになってから、仕事が捗ったらしい。
僕の罠は高性能で、とても助かると何度も言ってきた。僕は別に嬉しくもなんともなかったし、適当に笑って誤魔化していた。
それからも特にすることはなかったから、ずっとそれを手伝っていた。ケミキルも喜んでくれるし、一応、僕も教団の…導き手なんだし。そう、僕は、『魔術神秘教団』だ。僕自身が選んだことなんだから。 僕の居場所は、ここになったんだ。
もう、家に帰っても、誰もいない。セレインも、どこにいるかなんて分からない。
それに、ここにいれば僕は、役に立てるんだ。
そうだ、ここにいれば僕は、必要とされるんだ。
そうだよ、僕は、ここにいるべきなんだよ。
「あ、シ〜アルっ。おはー。今日も来たよ」
「ん…君か。最近、毎日ここ来るんだな、おはよう」
「いやー、君がいるからね? 君がいると話弾むし? 仕事捗るし? 何より仲良いじゃん? 」
「仲良い? 僕と君が? いつからか君は冗談が上手くなったんだな、おめでとう」
これは、僕がケミキルと毎日仲良くしていた頃の日常だ。まだ、僕が教団の目的、ケミキル・バントの仕事の真実を知るまでの。
「全く、酷い酷い。冗談なんか言ってないけど? ほらさ? 君くらいなんだよね? 」
「何が僕くらいなのかな。主語がないと理解できない」
「あー、ごめんね? ほらほら、わかんない? 君くらいなんだよ、僕が1度も殺したいと思わないの? 」
僕は呆気に取られ、数秒間沈黙が続いた。これは、ケミキルを怪しんだ理由の1つでもある。
「君、今いかにも当然のようにとんでもないことを話した ことには自覚あり? 」
「え? 無し」
ヤバいやつだね、うん。そんな感情だったと思う。恐怖を悟ったよ。僕はその日は適当に言い訳をつけて帰ってもらい、調べた。調べる宛はなかったから、とにかく調べた。最近のニュース、新聞をあらゆるところから見て、昔のニュースだって見た。昔って言っても、ケミキルが生きている範囲だから、20年とか30年前とか。
そういえばその時は、あいつの年齢は知らなかったな。でも、相手の能力は未知数だ。だから、数百年も前のものだって、できる限り調べ尽くした。
そこで見つけたのが、2つの事件だ。どちらも似たような事件。簡単に言うと、大量殺人事件。つい最近と、約200年前だ。
「殺人事件…」
直感だったが、あの時僕は、あのままあいつと関わっていれば、何かが起こってしまうと考えていた。あいつは、何かがおかしい。あいつといると、いつか僕は後戻り出来なくなる。そう考えて、ケミキル・バントについて、知れるだけのことを知ろうとした。
「まずは……最近のから、かな」
毎夜起こる連続殺人事件。地域も一定している。
毎日夜になると、少人数の人が村から居なくなる。死んでいるのかどうかは分からない。だが犯人は、殺した痕跡を隠さない。血の跡、凶器など。
殺害場所には必ず精密な罠があるということらしい。動物を捕まえたりする時に使うような、罠だ。
僕は急いで、その罠の写真を調べた。新聞には写真はなかったから、SNSを探った。『連続殺人事件 罠』で検索をかける。
――あった。
あ、これ、駄目だ。無理無理無理、すみませんでした。
僕は大きな勘違いをしていた。
僕は大きな過ちを犯していた。
「…もうひとつは…200年前の…。…大量殺戮事件」
僕は古い新聞を手に取り、その記事を何度も何度も読み返した。
「山のふもとにある森の近くの村で起きた事件…? 今はもうない森かもしれないな、僕は知らない。夜何者かが村を襲い、村の住民を殺害した…1人を除いて。1人を除いて? 」
その事件は大きなもので、他の新聞にも載ってたよ。だから、全部全部読んだ。
「村に住んでいたのは53人…小さな村にしては多いな。内死体が見つかったのは52人。1人は生息不明。その事件に気がついたのは通りすがりの旅人。近くの連盟に調査してもらったところ、魔術ではなく、一般的な凶器によって殺されたことが判明した。その凶器は…メス」
◇◆◇◆◇
次の日、僕は2枚の新聞を持って、そのふたつの事件について聞いた。
「あ、シアル。おはよー」
「…ケミキル・バント」
「あれ? 珍しーね? 名前で呼んでくれるとかさ? 」
「これは、どういうことだ? 」
1つ目に聞いたのは、連続殺人事件。
「あ、それ? 助かってるよ? シアルのおかげでさ? まぁ、そういう系で2度も新聞載るのは嬉しくはないけどさ? 助かってるのは事実だよ? 」
「…君は、僕を何に巻き込んだのかな」
「なんか言った? 」
「…いや。なんでもない。2度もって、どういうことだ? まさか、これ? 」
そこで、200年前の村全体大量殺戮事件の新聞を見せた。
「あれ、もしかして僕調べられた? 友情深めるためとか? うれしーな? よくわかってるね? 」
「…やっぱりか。なんでこんなことした? 」
「………えーと……趣味、かな?」
「趣…!? まぁ、いい…なら、この時のことを、詳しく教えて貰おうか」
「…仕方ないな? 特別だよ? 僕は元々、山の中に住んでいたよ? でもねー? ちょーっと色々あって、家は無くなったわけ? それで…まぁ、色々あって、僕は村の奴らを全員殺そうって感じになって? 」
「…待てよ、いくらなんでも情報が飛びすぎている。もう少し詳しく…」
ケミキルの意味の分からない話に違和感を覚えた僕は、聞いた。でもね、あいつは無視して、そのまま続けた。僕のこの違和感だって、次の話で消し去られたよ。
「ほとんど殺そうとして、1番離れたところにあった家に入って寝てる女にメス突きつけたんだけどね? 避けられたんだよね? その村に魔術師なんて居ると思ってなかったからさ? かなりびっくりしたんだよね? そのすきにかなりやられたんだけど? まぁ、その後よ? そいつはこう言った」
その後、ケミキルが言った言葉。
『私は友人。貴方達使徒の友人であり、この世界の友人でありたいと願う者。そちらから来てくださるなんて、なんとも私は幸運ですね、『管理者』様』
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