ページ5『魔術特訓』
第1章︰始まりの戦場
ページ5「魔術特訓」
「ハプ。的から外れてますー。魔力コントロールがなってないよー!」
とても広い広間のような場所で、できるだけ声を大きくして叫ぶシアル。
「は、はいっ! 想像、想像! 的に当てて、わーっと!」
それに対して元気よく、声を荒らげて返事をするハプ。
「おにちゃーま、そうじゃないのです! こーなのですっ!」
それに反抗するように大きな声で叫びながら、ふにゃふにゃな攻撃を的に向けようとして外すケプナス。
今、2人は魔術特訓をしている。
◇◆◇◆◇
数日前、ケプナスとハプがシアルの家に居た時。帰り際に、シアルは2人を呼び止めた。
「ハプ、ハプって、チームがどうしてあるのかについて詳しいことは知ってるのかなー?」
それを聞いたハプは、一瞬立ち止まった。確かにケプナスに『魔術師を住んでる場所ごとにわけわけしたやつ』とは聞いているが、ケプナスの事だ。
言っていないこともあるに違いない。
なら!
「ケプナスからちょこっとだけ聞いたけど、そんなにかな…...。どうかしたの?」
何か教えてくれるかもしれない、そう思いシアルにそう言った。
「はは、ケプナスかぁ。そっかぁ、なら詳しいことを僕が説明するかなぁ。ほらほらーケプナスも聞きなよ」
そう言ってシアルは2人に手招きをして、話をはじめた。
「チームが地域ごとに魔術師を集めている、という点についてはケプナスも間違ってないね。でも、なんでわざわざ集めるんだと思う?」
それを聞いてハプはしばらく黙り込んだ。その隣で、ケプナスはウトウトしている。
「…...わかんない。」
「ま、そうなるよね。チームを作ってまとめるのは、単純。理由は2つあるんだよ。まずこの星、分かるかな? 「シャムールア星」って言うんだけど、その世界中の魔術師を纏めている組織があるんだ。」
「組織?」
組織、か。組織は組織でも、異世界の組織。さも不思議でファンタジックな組織。ふふ、楽しみだな。
「うん、国際魔術協力連盟って言うんだけどね。その連盟が世界中の魔術師を纏める訳だよね? そしたら、バラバラになってたらとてもまとめにくい。そこで。まず州で分ける。そこを国で分ける。そして市で分ける。その中をチームで分ける。そしてそのチームに1人ずつリーダーを配置する。そして、リーダーにそこのチームメンバーの管理を任せる。すると?」
ハプはそれを聞いてしばらく頭に手を当てて、うつむきながら考えた。
穂羽は学校に行かず、ずっと家でいた為頭はそれほど良くはない。
それから数分黙っていたが、シアルは穏やかな笑顔で待っていた。
「…...あ、チームメンバーをリーダーが管理するから、連盟はリーダーを管理するだけで実質世界中の魔術師を管理できる…...?」
はっ、と思いついたようにハプが言った。
それを聞いたシアルはさらにニコッと笑い、言った。
「正解ー。おめでとう。その通りだねー。それが主なチームの存在意味。そしてもう1つ。ハプは戦争って知ってるかい?」
「戦争......知ってるけど、急にどうしたの?ほわ、戦争は大嫌いなんだけど。みんな仲良くしたいじゃない」
『戦争』と言う単語を聞いた瞬間、ハプが声色を変えてそう言った。ハプは『平和』が好き……いや、好きという言葉では足りない。ハプは『平和』でなければならないと狂信していた。そんなハプの中の価値観では、戦争と平和は真逆語になっている。
「はは、僕も好きではないな。でも残念ながら、世界には戦争と言うものがある。それは止めようにも止められないことだからね。その戦争に加算するのも、魔術師の役目なんだからね」
「そ、そうなんだ...…。仕方ない、んだね...…」
ハプはそう言ってうつむき、虚ろな目をした。心の中では様々な否定の言葉が飽和していたが、今はシアルの話を聞くべきだと言葉をうながす。
「それで、急にどうしたの? 戦争の話なんかして...…」
「それはね、ハプ。ほら、ケプナスも聞いて」
真剣な顔で、シアルは言った。それを聞いたケプナスはきちんと座り直した。
「チームソルビ市が、ツム国とトムガノ魔術国のツム国軍に起用された」
「…...どういうこと?」
「これは、ケプナスにも分かるのです。魔術師はせんそーに呼ばれることがあって、今回はツム国とトムガノ魔術国のせんそーにチームソルビ市が巻き込まれたってことなのです」
ケプナスはケプナス流にブツブツ呟いた。いつもなら理解できないところだが、今回はわかる。
要は何らかの原因でここ、ツム国と『トムガノ魔術国』という国の間で戦争が発生し、有利にするために魔術師を呼んだということだろう。
「…...断れないの?」
「断った場合、国際魔術協力連盟のポリシーに違反したことになり、罰が下される。僕にね」
「シアルに...…か」
ハプは、ハプが罰を受けるだけでいいのなら、と思っていたが、自分一人のわがままで仲間を傷つけるなんて嫌。『平和』はとても大事だけど、自分のせいで仲間が傷つくことは穂羽の中で『戦争』より我慢できなかった。
それなら仕方ない。戦争を...…するしかない。
「相手は魔術師は1人だけ。どこのチームにも所属していない魔術師だ。他の魔術師は敵味方ともに全員戦死したみたいだね。そこから分かるように、今回の戦争はとても厳しくなると思う。まだ戦争に行く指令を直接されたわけではないけど……まあ、時間の問題だね。そこで記憶喪失で魔力を上手く扱えないハプ、チームで1番弱いケプナスはこれから、特訓が必要だ」
ハプは無意識につばを飲み込む。そして隣で固まっている弱くて可愛い妹を確認すると、両手をグッと握りしめた。
◇◆◇◆◇
「いいね、ハプー。大分当たるようになってきたよー! 次は威力だねー。単純なレーザー攻撃だけじゃなく、タイプを生かした炎攻撃もマスターしていくよー」
「...はぁ、はぁ、了解!」
汗だくになって息切れしながらも、ハプは大きな声で返事をする。
そしてシアルはケプナスの方へ行った。
「ケプナス! 攻撃の正確率がない! 攻撃が出来ないなら、回復、治療を学ぶよー!」
「は、はいなのですっ!」
あのケプナスが、こうも本気で特訓している。
「死なない、死にたく、ない、のです!」
ゼェゼェ言いながら、ケプナスはずっと特訓を続けている。早く走ったり、音を立てずに歩いたり。浮遊術を習得しようと頑張ったり、魔力切れスレスレまで魔術特訓をしたりしているのだ。
「ケプナスは、死なせない。戦争なんて、早く終われ。平和を、平和を、平和を! 絶対に、死なせないんだから!」
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