ページ22『実践訓練』

「へぇ、君もなかなかやるんだねー。ケピ・マジシャン。

僕の攻撃をこうも簡単に防ぐとは、感心するよー。」


「はー?あったりまえじゃん?ケピつよーいんだから!

まだ本気とか出てないんだよー?

だからー、ケピ本当はもおーーっと強いんだよ!

テカゲン、してあげてるんだよー?すごくない?すごいよね!ケピ優しー!」



そう言ってケピはシアルに向かって勢いよく水を発射した。

シアルは杖のひらひらで水を弾き、ケピの背後に回り込んだ。



「ねぇ、なんでこーげきしてこないのー!本気出せよー!

ケピは本気出さないからさー?ハンデだよ、ハンデ! 」


「僕は君を倒すのではなく、時間稼ぎがしたいだけなんだけどなー?

だからー、僕は早めに君を倒してしまうよりはー、できるだけ戦いを長引かせたいんだー。」



そう言って、シアルはもう一度ケピに攻撃をしかけた。ケピは、その攻撃に対して今度は防御ではなく水をぶつけて、攻撃で対抗した。



「ちっ!なんなのー!

あとさぁ、そこでへたーーーーっとなってじーーーーーって見てるレットはさぁ、早くケピのお手伝いに来るのがジョーシキってものだよねー!

苦戦とかしてなくてもさぁ、一応トムガノ軍だよね!

動けるなら動けよこのバーーーッカ!」



ケピは次々に放たれる攻撃を、避けたり防いだりしながらレットに向かっていった。

それを聞いたレットは一瞬ギクッとなり、片手を頭に当ててゆっくりと立ち上がった。



「チッ。ずっとサボってゴロゴロできるかと思ったんだが。

めーんどくさ。

しゃーねーな。手伝ってやるよ。」


「うんっ、それがとーぜんだよねー。

で、どーするのリーダーの人ー。

これでさぁ、チョーつよーいケピとぉ、あるてーどは戦力になるレットの2人がこっちの戦力になりましたー!

それに対してー、君はひとりぼっち!どーどー?この状況でぇ、勝てるのー?」



ケピはレットが立ち上がり、立ち位置に着いたことを確認すると、煽るようにシアルに向かって言った。



「うーん、そうだね...はは、確かに僕が不利になっちゃった。

ここにはハプもいないし...僕も、本気を出していいかな?

君達も本気で対抗する、という条件付きだけどねー。」



その煽りを聞いて、いつものような笑顔でシアルは言った。

シアルが本気を出す、と言った。

それを聞いたケピは困り顔で首を傾げた。

レットはその隣で会話の成り行きを見守った。



「ふむふむー、本気、出してくれるんだねー!見たいみたいー!でもさぁ?ケピ達もさぁ?本気出したらさぁ?君の不利は変わらないんじゃないかなぁ?

だって、ケピたちもー?今は本気じゃないじゃん!だからさぁ、どちらも本気を出したらー、同じだけ戦力が上がると思うんだよねー。

あ、こっちはレットもいるからこっの方があがるかもー!

ね?そーゆー細かい心遣いするって、やっぱりケピって優しいよねー。」



シアルは笑顔でその言葉を聞き終わると、ニコッと笑った。



「そうだとしても、もし僕が今。本当にちょびっとの力しか出てないとしたら?

本気を出した時、2人3人分の力が上がるとしたら?

その時は、条件が同じになると思うんだけど。」



ケピは不満そうな顔をして、何かを言おうとしたが、それをレットが遮った。



「上等、上等。俺は別にそれでいーと思いまーす。

こいつの意見とか聞かなくていいから。

別にここの全てにおいて性別がわかんねークソ野郎はさ、相手にとって有利になるように仕掛けて後で感謝求めてくるだけだから。

俺別に感謝して欲しいとかそんな事考えてねーからさ。

俺等が勝ってもそっちが勝ってもいいからさ、早く終わらせたいわけよ。

というわけで、もう攻撃に移ってもらってOK?」


「はぁ?お前が勝手に決めんじゃねーよこのバカレット...」



ケピがその言葉を言い終える前に、シアルは針を持ってケピに斬りかかった。

ケピは雪の結晶で防ぎながら、同時に水を投げて攻撃し続けた。


シアルは少し不安を感じたのか、表情を変えないままで魔術攻撃も追加した。



「いやこれ、俺の入る隙ねぇよ。」



レットはそんなことを言いながら、シアルに向かって攻撃を続けていた。

2人は戦っていて、レットは補助という形が数十分続いたが、なかなか致命傷をお互いに与えることが出来ていなかった。

いい加減に飽き飽きしてきたのか、レットはシアルに言った。



「───お前、本気出してねぇな。」



それを聞いたシアルは、しばらく黙ってから言った。

ケピの攻撃を交わし、攻撃しながら。



「なんでそう思ったのかな?レット君。」


「本気出してたら、少なくとも俺はもう倒せてる筈だろ。忘れたと思ってんのか?ちょっと前の戦い。

ある程度長持ちしてたけど、俺すぐに切り刻まれたじゃん。」


「ちぇ、覚えてたかー。」



シアルは残念そうに笑い、それを聞いたレットは少し震えた。

ケピは、一旦攻撃をやめて、衝撃を受けた表情で言った。



「はァァ!?何でだよ!?本気出す約束だったじゃん!なんで本気出さないのぉ!

いみふめーいみふめー頭おかしいのー?!ねーねーねーねー本気出せよ!

何でだよ!」


「はは、ごめんね?僕は君達を、ある程度の実力者と判断したんだ。

僕は今、本気をだしてからすぐに倒すのではなく、できるだけ長引かせて、今後の戦いの参考にしたいんだ。」



シアルは笑顔で、再び攻撃を再開しながら言った。

ケピが、よくわからなさそうな顔をしたのを見て、シアルは説明を付け加えた。



「僕はね。いずれ来るであろうもっと大きな、膨大な戦力との戦いのために、もっと強くならなくてはならないんだよ。

強くなる為には、訓練を重ねて、戦術を見出す。これが近道だからね。

君たち程の実力があれば、ある程度は考えなくてはならないだろうし、これは戦争、実戦なんだ。

ということは、相手も本気で殺しにかかってくる。

いい、訓練だよね。」


「───こいつッ!」



レットが呟いた。聞き終わって、理解したケピは、怒ったようにシアルに言った。



「ケピ達をけーけんち代わりに使ったってこと!?はぁ!?」


「はは、まあそういうことになるね。君たちには悪いけど。

あ、それとレット君に付け加えると、あの時僕は本気なんて出てないよ?

僕が本気を出してたら、ハプが回復できない状態にだってできてたし、レットがレットのままであれたかも分からないよ?

要は、殺すこともできたっ、てことだね。」



ニコッとシアルは笑い、もう一度ケピに攻撃を仕掛けた。

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