ページ40『許しません』
それは、愛では無い。愛なんて言葉では表せない。愛という言葉で表すには、その言葉の意味が浅すぎる。
「魔術...神秘教団...!」
ハプが呟く。下から睨みつけるように、敵意を剥き出しにして。
ハプが敵意なんてものを出すのは、何時ぶりだろうか。ハプが怒りなんて味わうのは、何時ぶりだろうか。ハプが本気で相手のことを理解しようとしないなんて、馴れ合おうとしないなんて、分かり合おうとしないなんて、友達になろうとしないなんて。
しかし考えてみると、そんなに前の出来事では無いのかもしれない。ハプはかなり最近、その感情を抱いていた。
国際魔術協力連盟___否。国際魔術協力連盟の名を語る魔術神秘教団に、ハプは怒りを抱いていた。
ハプは指を折り、数を数えながら呟く。
「1つ。国際魔術協力連盟の名前を、勝手に借りたこと。」
ハプは1本指を曲げる。ナルは不思議そうにそれを見る。
「2つ。ケプナスを...奪ったこと。捕らえたこと。」
声に怒りを表しながら、2本目の指を曲げる。ナルは同じように見ている。
「3つ...愛というものを。好きっていう気持ちを!踏みにじったこと!」
怒りを露わにして叫び、3本目の指を曲げた右手をナルに突き出す。
「ほわほわの顔も3度まで、ほわはお前を許さない。いい?良く考えればすぐにわかるよ。勝手に別組織の名前を無断で借りるなんて、絶対にしたら行けないんだよ?これは犯罪。わかるかな?しかも国際魔術協力連盟って、要はここでは一番偉い人達って言ってもいいじゃない。魔術師全体をまとめる組織だったと言うことで今回は例外だけど、もしこれが別の国の政治に関わる組織だったとしたら?それは戦争になりかねない。それが戦争を起こす引き金になるかもしれない。君達は、何をしたか知ってるの!?
それから次。ケプナスを奪った。無理矢理に。ハプの目の前で!家に入ったことはハプが入れたことだから不法侵入罪にはならないけど、ケプナスを連れ去った。これは列記とした犯罪行為!誘拐!常識的に考えるとこうなるよね。その上、ほわやケプナスを苦しめた!人の気持ちを考えて行動しなさいって、道徳の授業で習わなかったの!?ナルはリナちゃんが連れ去られたらどう思う?嫌だよね!自分がされて嫌なことは、人にやったら行けませんから!こんな人がいるから平和が作れないんだよ!なんで仲良しに出来ないの!?なんで!?
それから3つ目。ナルは言ったよね。リナちゃんを愛してるって、リナちゃんがだーいすきだって!ダメだよ、そんなの。愛することは、好きなことは。とってもいいことなの。すごいことなの。素晴らしいことなの。平和なことなの。でもね、ナルの言ってるのは愛なんかじゃない。そんなのダメだよ。それを、愛なんて言ったら行けないんだよ。ダメだよ。それは、愛に失礼なんだよ...?愛って言うのは、相手を思う気持ち。優しい気持ちなの。ナルのリナちゃんへの気持ちは、それは...愛じゃない。一方的な縛り付けだよ。ナルはリナちゃんが好きなんじゃなくて、リナちゃんに...!ナルは愛を踏みにじった。ナルは好きを馬鹿にした。これは___。」
ハプは必死に叫んだ。それから、目から光を消し。影で顔をおおい。
「ほわには許せません!」
炎が渦巻く。ナルは驚き、少し焦るが、落ち着きを取り戻して言う。
「取り乱しちゃツアーが出来ないの。全くもう。仕方ないの。手っ取り早く。」
ナルは旗を掲げて、ハプの額に先を当てて。
「参ります、過去探検ツアー。」
「___え?」
次の瞬間、目の前からナルが居なくなった。
そこは、病院の個室だった。
1人の女性が、小さな赤ちゃんを抱き抱えて、ベッドに横になっている。
「...お母さん?」
「ここは、君の過去の世界なの。これは、過去体験ツアーなの。ナルの『固有特権』は、自分や他の人の過去を見ることなの。」
◇◆◇◆◇
「うぅぅぅぅ。」
真っ白な檻の中、ケプナススルーリーは壁を爪で引っ掻いている。
「う、う、う、う、う、う、う、う!なんでなのですぅ!開かない開かない開かないのですっ!ケプナスがこんなに一生懸命に開いてとお願いしていると言うのにっ!」
ケプナスはその壁を思いっきり殴り、赤くなった手を抱えながら言った。その叫んだ大きな声がその空間で反響する。
「うっるっさいのです!誰なのですか!」
ケプナスは自分に怒って叫び、その叫びがまた反響する。
それが繰り返されていると、ケプナスの背後から声が聞こえる。
「馬鹿。君の声だよ。あと、うるさい。しー。」
ケプナスが振り返ると、黒髪に黒瞳__エイが、そこに居た。
「なんなのですかお前は。いつからいたのですか中二病。」
「エイ中二病って名前じゃない。エイはエイ、それだけ。それとさっきここに放り込まれた。」
「そうなのですか、エイなのですね。こっちは天才天才ケプナス様なのですよ。よろしくなのです、中二病。全く。なーんでケプナスはこんなところに入れられないといけないのですか。」
ケプナスは腕を組んで歩き回りながら、エイはその場で体育座りをしたままで話す。
「エイに聞かれても困る、エイも知らないし。エイもなんで入れられてるのか知らないけど、まあとりあえずここの牢屋、本部のより簡単な構造だね。」
「ケプナスだって知らないのですよ。
本部の牢屋...?も、もしかして。中二病は前に他のところでもこんな牢屋に入っていたことがあるのですか!?前科ありなのですか!?中二病は悪い子なのです!」
「しつこい、エイはエイ。中二病じゃない。それとエイ、悪いこと何もしてないから。エイ知らない間に入れられてた、それだけ。」
「だーもう中二病に見えるんだから中二病でいいのですよ。だって前髪長くて片目隠すとか中二病そのものじゃないのですか。それにケプナスが中二病だと言ってるのですから中二病なーのーでーす。
で、前にも牢屋入ってたのですよね、で、ここの牢屋はそこより簡単なのですよね!?それはつまり...?」
ケプナスは一筋の希望に賭けて、身を乗り出してエイに問う。
簡単な構造なのならば、何とかすれば脱獄出来るかもしれないと、そう思ったからだ。
「壊せるよ。」
「壊すのですか!?」
予想外の答えを聞き、ケプナスは転がる。ケプナスはどうにかして鍵を開けたり、別のルートを探したりするのだと考えていた。
「うん、ある程度の攻撃をすれば、壊せるよ。」
「ある程度...って、どれくらいなのですか?」
「ある程度。」
「むむむ、よく分からないのですが...良かったのですね中二病!君は運がいいのです!幸運なことにここには、天才的で頭脳明晰、世界最強クラスの魔術師、ケプナススルーリー様がいるのです。ちょちょいのちょいで壊せるかもしれないのです!」
ケプナスはキラキラのオーラを放つ。エイはそれを見てケプナスが本気で強いのだと思い込み、笑顔になる。
「ほんと?それはよかった。ケプナス強いんだね。ならちょちょいのちょいでぶっとばそう。」
「そうなのですね!それでは!シャボン玉用意、液に付けて〜。ケーッ、プーッ!」
ケプナスは何も無い空間からシャボン玉を取り出し、液に付けて吹く。しかし、牢屋は微動だにしない。
「お、おかしいのすね...ケーッ、プーッ!」
やはり、動かない。
「ケプナス、ほんとにつよい?」
「もっ、もちろんなのです!ケーッ、プーッ!」
「...エイがやる。下がって。」
そう言ってエイが手を上に掲げると、ケプナスは悔しそうに下がっていく。その掲げられた手に十字架の杖が現れ、服が青に黄色のラインが入ったローブに変化する。
それから十字架の中央に光が集まると、エイは杖の先を床に置く。その先を中心に床に魔法陣が広がる。
___次の瞬間には、牢屋は消えていた。
「はい、終わり。」
エイは当然のようにそう言う。ケプナスとエイは、脱獄に成功した。
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