ページ41『隠れ鬼』

「はい、できたよってば。ケプナス、出てきてよ。」



完全に砕け散り、消滅したその空間。箱檻の外から、エイが手招きする。

ケプナスは今となれば無のその空間があった場所で、呆然とエイと箱檻跡地を交互に見つめていた。

ケプナスでさえ、この時感じた。本能的に、直感が働いた。


――エイは、敵に回してはいけない。


ケプナスは自分のことを最強の魔術師だと思っている。その自信過剰な考え方が、より強くそう思わせた。

ケプナスは自分ならば箱檻なんて、一瞬で壊せるレベルの魔術師だと思い込んでいる。しかし、その予想は外れて、檻は微動だにしない。当然だ、ケプナスはケプナスの考えているほど強くはない。しかし、ケプナス視点から見てみると、この箱檻は天才の力を持ってしてまで壊せないとてつもなく強硬な物。それを知り苦戦している中で、さも当然のように、余裕でそれを壊したエイ。

この時エイと一緒に居たのがケプナスだから、エイの強さは少なくともケプナス以上。それから浮遊術の時に、ハプや他の人達よりも遥かに速く飛んでいたことからハプ以上の強さを持っていることになる。

この時ケプナスは、もうひとつ訳の分からない現象を見た。『魔法陣』である。魔法陣を見て、ケプナスの常識は覆された。

魔術の世界に、魔法陣なんてない。魔術を使用する際に、魔法陣が現れることはないのだ。

この世界では、魔法陣のようなものを使用することはある。それが、召喚陣だ。何者かを召喚する時に使う陣。これが、最も魔法陣に近いものだと考えられる。しかし、エイが攻撃する時に床に広がっていたその陣形。それは、魔法陣だった。



「ケプナス、早くしないと。もし気が付かれたら、また入れられるかもしれない。それと、ハプ。ハプ、助けに行かないと。」


「な...そ、そっ、そうなのですねっ。ケプナスより中二病が強いのは癪なのですが、まあ助かるのは事実なのですから!ここは素直にせんきゅーなのです!」



ケプナスは驚きを隠すように急いで明るく振る舞い、エイの隣にたって言った。



「じゃあ、おにちゃーまを探しに行かないといけないのです!中二病、おにちゃーまはどこにいるかわかるのですか?」


「エイ、ハプだけは認識できない。だから、ケプナスがハプの魔力反応辿って。その場所にエイが連れていくから。」


「ははーん!それくらいは楽勝なのですよ!この天才的ケプナス様におまかせあれなのです!むむぅ...おにちゃーまはぁ........................あれ?おにちゃーまの反応がないのです!つまり、遠く離れてるのです!」



ケプナスは目を瞑って手を合わせ、ハプの魔力を感知しようとしたが、見つからない。



「そっか、ハプ、どこだろ。この世界から遮断された空間にいる可能性もあるけど。まあ、仕方ない。ハプは後にしよう。国際魔術協力連盟の人たち。紫の男の人の魔力探して。」


「リーダー...なのですかね。いいのですよ。この天才ケプナス様におまかせあれっ!なのです。むむむむむっ、リーダーはぁ、この地図の、ここだーっ!なのです。」



ケプナスはもう一度目を瞑り、一回転してから目を大きく見開き、思いっきり壁に貼られた地図の一点を指さした。



「うん、わかった。ならケプナス、手を握ってくれる?」


「ふえぇ!?なんでケプナスが中二病とおててつないでしないと行けないのです!?変な儀式とかならやらないのですからねぇ!?」


「エイ中二病じゃないってば。ほら、早く。置いてくよ。」


「なっ!わ、わかったのですから!おててつないですればいいのですよね?ふんなのです!」



ケプナスは渋々エイの手を握る。するとエイはその場で3回跳ねた。その三回目、その場に足を着く時には、2人はその場所にはいなかった。

その瞬間、ケプナスの視界が切り替わった。箱檻の跡地の殺風景な廊下から、大きな劇場のような部屋に切り替わる。

つまり、一瞬で場所を移動した。

その技術は───



瞬間移動テレポート、なのです!?瞬間移動テレポート使えるのです?中二病!」


「うん。急いでたから。ごめんね。」


「だ、大丈夫なのですが...っっ、すごいのです...。」



瞬間移動テレポート。旧魔術時代に、ピグルットのチームの一員であるミクス・コリアの開発した固有能力。魔法を使い、一瞬のうちに使用者の肉体と触れている物や人を最小に、原子や分子の状態にまで破壊し、一緒で目的地に行き、即座に原型に変換するという移動技術。この固有能力は移動にとても適していた。



「リーダー、リーダーいるのですー?」



ケプナスは即座にエイの手を払い除け、シアルを探す。すると、その声を聞いたシアルが反応する。



「...ケプナス!?なんでここに!?」



シアルは心の底から驚きの声をあげて、目を擦ってもう一度ケプナスを見て、瞬きをした。



「中二病が箱檻をぶっ壊してくれたのです。中二病強いのです。」


「中二病じゃない。エイはエイ。」



ケプナスがシアルを見上げながら話すと、エイが後ろから歩いてきた。

シアルは納得したように笑顔になり、ケプナスに状況を説明する。



「良かった。本当はもっとゆっくり再会の言葉をかけてあげたいんだけどねー。いまは、魔術神秘教団優先で、ごめんねー?今ね、魔術神秘教団...君をさらったヤツらね。そこの導き手って言う幹部的な...」


「ナルなのです?」



ケプナスはシアルの話を遮り、質問する。



「ケプナスさらわれたあと、導き手って名乗る変な語尾のやつがいたのです。たしか、ナルって名前だったのです。そいつなのです?」



シアルは目を細める。



「やーっぱり、そっちも居るのかよー。全く、2人揃ってお出ましとはさ。僕達も歓迎されたものだねー。まあ、リナも言ってたしなー。『どこまで私達を出し抜けるか』。私達、ってね。それに、ハプ達がケプナスを助けに行くのを止めなかった。そうだと思ったよ。ケプナス、今はそいつの話じゃない。いい?よく聞いて。」


「よく聞くのです。」


「ケプナス、今からこの建物全部を逃げ回る、ピンクっぽい髪の女の人を捕まえてほしい。隠れたり、逃げたりすると思う。僕は1人で回るから、ケプナスはエイと一緒に。」



シアルはケプナスにそう言い、指を1本、ケプナスの額に当てた。それから強調して、一言。



「――隠れ鬼して、遊ぼうか。」


「隠れ鬼!」



それを聞いて、ケプナスはエイを連れて真っ直ぐに、後ろを振り返らずに進んでいく。迷うことなく。



「場所、わかるの?」


「わかるのです。」



部屋に残って、シアルは呟いた。



「さぁ、僕も行くかなー。まあ、こうして置いて正解だね。ケプナスの固有能力はなし、固有魔法は『遊び』。

攻撃方法がおもちゃなのはそうとして、ケプナスに何かすることを『遊び』だと思わせることによって、その遊びによって違った効果を発揮する。リナ、助かったよー。こんな形にしてくれて。」

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