ページ17『みんな仲良くいじめゼロ』

「重力魔法、そうよ、それよ!『下に落とす魔法』!ナイスすぎ!それのおかげでわかったわ。重力魔法よ!きっとあたしらのいるところの重力を大きくして、あたしらを思いっきり下に引っ張ったんだわ!」


ゆぴは手と手を組んでくるくる回りながら言った。余程嬉しかったのだろう。


「重力魔法?何それ。違うよ。下に落とす魔法だよ。」



「はぁ、分かれよ。それが下に落とす魔法なの。まあ、今は説明する時間とか取ってられないから。さぁさぁ、どうする?相手は重力魔法──通称下に落とす魔法を使ってくっから、ここからさっきみたいに攻撃しても意味ないのよね。となるとどうするか...それが問題になってくるわけよ。」


腕を組んで、斜め下の小石だらけの荒地を見つめながらゆぴは言った。

ハプはその様子をまじまじと見つめていて、自分でもどうすればいいのかどうかを考えていた。

ハプは考えたが、なかなか答えが思いつかず、頭を抱えた。

刻々と、時間は過ぎていった。どんどん時間が経過した。まだ、ローブの人物は崖の上で立っていた。

こんなに時間が経っていると言うのに、相手は全く攻撃してこなかった。


───相手の目的は、ほわたちを狙うことじゃないの?


───なら、初めにほわやゆぴを下に落としたのはなんでだろう。


頭の中で、疑問がよぎっていた。

ゆぴも隣で、額に手を当てて考えていた。


「ほわ、アンタ何か思いついた?ちょっとあたし考え浮かばないんだけど。どーしよ。これって手詰まりってやつー?」


それを聞いたハプは、目だけで横を見つめながら考えた。


「──なら、あの人とお話してみようよ。」


考えに考えて、考え抜いた挙句、出てきた答えはそれだった。「相手と話す。」

まだ敵と決まった訳でもないし、話だって聞いていない。それなら、話を聞いてみればいい。


「ほら、思うよね。初めてあった人に急に攻撃するのは駄目だよね。まずは目を合わせて、相手の前にたって、自己紹介をするの。それから「よろしくね」を言って、お辞儀をするの。

それでここに来た目的を聞いて、敵か味方かどうか決めるのはそれからだよね!」


それがハプの頭の中に1番に浮かんだ答えだった。

それを聞いたゆぴは目を大きく見開いて、ハプをマジマジと見つめてきた。


「いや、うん、そう、よね。確かにそうよね。間違ってはないのよね。でもよくこの状況でそれが言えたわね。

ん、待って。でもさ?初めにあたしらの下に叩きつけたのは相手の方じゃね?だからさ、会ってすぐに挨拶してないのは相手だと思うわよ?どう?」


少し困り顔をして、その疑問をゆぴは口にした。ハプはそれを聞いて、確かに間違ってはいないと思った。


「うん、そうだね。でも、それでこっちも仕返しするのは駄目だと思うの。

もしいじめを受けていて、それが解決しないからって自分も仕返しにその人をいじめてたら、どちらにせよ同じだよ。

だからね、いじめられたら自分で解決できるように、まずはちゃんと前を向いてその人と話し合うべきだと思うの!

そうしたら相手がなんでいじめて来たのかもわかるよね。

うん!それで、もし自分が何か悪いことをしたからいじめられているのだとすれば、そのことを振り返ってそのことを改善出来るかもしれない。ほら、いいことずくめだよ!

ほわはね、それと同じだと思うの。

攻撃されてもとりあえずやり返すんじゃなくて、まずはそのことと向き合って話し合うの。なんで攻撃してきたのか、なぜここに来たのか。

敵と決めつけて攻撃するのは、それからの方がいいと思うの!どう?」


それだけの事を思うがままにペラペラと喋り、身振り手振りを大きくつけながら情熱的にハプは語った。

ゆぴは1歩後ろに下がり、かなりの衝撃を受けたような顔でハプを見つめた。

それからしばらくその状態が続き、ゆぴはやっとの事で口を開いた。


「すーっごい模範解答みたいなこと言うのね、アンタ。ほんとにこの状況理解してる?」



「勿論だよ。理解してるからこそだよ。あの人と話してみよう。分かり合えるかもしれない。平和に解決しよう。世界を平和に!ね!ほら、お話しに行こう!

今すぐにね!

仲良くなろう、みんな仲良し!お友達の輪を広げようよ!」



「はぁ、アンタ程の『いい子』はこの世界もほんと数人しか居ないでしょうね。すごいわ。」


そう言って、ゆぴはハプを引っ張って、浮遊術で崖の方へ向かって行った。

ハプは引っ張られながら自分も浮遊術で浮かび、2人はローブの人のいる近くで着地した。

ゆぴはなかなか前に進まなかった。その様子を伺っていたハプは、ゆぴは前にはでないと分かり、平然とローブの人の前に出た。



「───なっ、アンタ!」



ゆぴが引き留めていることに気がついてはいたが、ハプは口を開いた。

相手は顔が見られないよう、手でフードの先を持ち、フードをさらに深く被った。


「ほわの名前はハプ。ハプだよ。よろしくね!」


口を開いて親指で自分を指しながら、ハプは言った。


「君は、なんでここに来たの?ほわたちを攻撃したいようには見えなかったけど。何か目的があるから来たんだよね。

教えて欲しい。急なのはわかってるんだけど、分かりあって、仲良くなろうよ。

どうしてここに来たの?どうしてほわたちを攻撃したの?」


相手の目はフードで見えなかったが、ハプは相手をしっかりと見つめながら言った。

相手はまだ黙っていた。

ゆぴは心配そうに、その様子を伺っていた。


「ねぇ、どうして黙るの?ほわは大丈夫なんだけど、無視しちゃうと喧嘩になることが多いんだよ。

ねぇ、教えてくれないなら、せめてその意思を示して欲しい。

それが、仲良くなるための第1歩だと思うの。」


ハプは見つめることをやめなかった。相手も、黙ることをやめなかった。

その状態が数分続いた。

すると相手は根負けし、口を開いた。


「───人を探しているだけです。お構いなく。貴方と馴れ合うつもりはございません。」


素っ気なく、そう言った。しかし、しばらく黙って相手はもう一度口を開いた。


「───貴方には、興味がありますか。もし、貴方が。貴方が『真実』を知りたいのであれば──。」


その言葉をいい終わろうとした時、ハプと相手の間を見覚えのある杖が舞った。


「消えようか。」


声のした方を振り向くと、そこには、紫の髪、深緑のマントを羽織った青年がたっていた。


「シアル!」


それを見た相手は一言言葉を発して、浮遊術で遠くへ行った。


「ここに居たんですね、シアル。」

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