ページ60『人生を変える1幕』
嬉しかった。
その時、差し伸べてくれた手が。
注いでくれた愛情が。
初めて知った。
他人のことを好ましく思う気持ちを。
愛して貰えたという実感を。
初めてだったのに、すぐに理解した。
それが愛なんだ、と。
大好きと伝えた時に、リナは驚いていた。
思ってみれば、急に大好きなんて言われたら、ほとんどの人は驚くはずだよね。
でも、そう思ったから。愛情ってこういう事なんだって、知ったから。
その気持ちは、嘘偽りない素っ裸の気持ち。
だって、相手の愛もそうなんだから。
◇◆◇◆◇
言いたかったことを言い尽くした。
楽しくはないと否定された時は、少し驚いた。予想外だったから。
思うがままに生きていても楽しくなくて、自由を封じられながら生きていても楽しくなくて。
ナルなら、知っているかと思っていた。
楽しい人生を。
生きがいのある人生を。
生きる意味を。
でも違う。なら何なのだろうか。
人生って何?
生き方って何?
楽しいって何?
自分って、何?
ナルも知らないなら、丁度いい。
分からないなら、これから知ればいい。
知らないことはある。こっちにも、あっちにも。
でもナルは、こっちの知らないことを知ってるから。
私は、ナルの知らないことを知ってる。
教え合えばいい。伝え合えばいい。
お互いに助け合って、お互いに歩み寄って。
一緒に、探して。
だから伝えた。まずは、今思っている『人生』を。
素晴らしい瞬間という自論を話して聞かせた。合っているのか、間違っているのか。そんなの関係ない。
でも、『今信じているもの』を話した。
これから2人で、これが正しいのかどうかを探すために。いつか、正しい『人生』を見つけたられた時に、その時の答えと、今の答えを比べるために。
「リナ、だーい好きなの」
話して終わると、そう言われた。
なんて言われるかなんて、想像してなかった。でも、意外だった。
その話の流れから、『好き』なんて言葉が、『大好き』なんて言葉が、出てくるなんて。
でも、わかった。
すぐにわかった。
その好きは、本物の好きだということを。『後継ぎとして』とかそういうのじゃなくて、人間として、好きって言って貰えたんだと。
だから、嬉しかった。
「あらあら、嬉しいわぁ」
◇◆◇◆◇
好きって言ったら、嬉しいって言った。
相手も好きなのかどうかはわからなかったけど、それでも好き。
なんでって?好きだから。
相手を好きになるのに、理由なんて必要ない。
好きだから。その人がひたすらに好きだから。
守りたいと思う、ずっと一緒にいたいと思う、いつでも話していたいと思う、その人のものになりたいと思う、その人を自分のものにしたいと思う。
そしたら好き。
愛してる。
好きだから、一緒に居たいと思った。
好きだから、役に立ちたいと思った。
好きだから、喜ばせたいと思った。
元々、リナの付き添いになる予定だったのなら、とても好都合だ。
リナのものになってやる。
「リナ………ナルは、リナのお付き添いとして、いつも一緒に居るの。リナのために、一生懸命……」
リナは笑った。悪戯な笑いを口元にうかべた。
まぁ、その笑みの理由を考えるなんて、その笑みの理由なんでどうでもいい。
リナに笑って貰えたのが、1番の収穫だから。
「私に、いいように使われることは覚悟できて居るんでしょうねぇ? 」
「リナのそばにいることが、ずっと一緒にいられることが、ナルの希望なの。そう思えるように、なりたいの」
「そう……でも、その希望、すぐには叶わないわねぇ」
その時の面会は終わった。リナから、これからしばらくは会えなくなると言っていた。両親が、もうしばらく2人を引き離そうとしたことが原因だそうだ。
次会える機会は、本家との面会式。リナはもう既に会ったことがあるが、ナルはまだ会ったことがない。
そのための面会に加えて、ナルが正式にリナのお付き添い係になることを発表するらしい。
リナの話によると、ナルをリナのお付き添い係にすると決めたのも、両親だそうだ。
それからは数日、リナと会えなかった。
日付を聞くまで1ヶ月だと勘違いしていた。
その時、初めて知った。
誰かを嫌いになるという気持ちを。
◇◆◇◆◇
パーティの日は来た。朝起こされて、クローゼットに案内された。色々な服があって、好きに選んでいいと言われた。
色々な服があったが、選んだのは紺色のタキシードだった。この上にはシルクハットが置いてあり、所々に派手な色が付いていた。
「お嬢様、それは道化の者の衣服です。貴女が着るようなものでは……」
「良いのよぉ、私、これがいいの。偶に私もショーをみていたけど、凄く素敵だったと思わない?何が起こるかわからないような不可解なことが、次々と怒って。見ていて、とってもワクワクするのよぉ。
私、道化師は好きよぉ。
私は知りたいのよぉ、道化師のショーは、見ている私達だけではなく、ショーをしている本人も、ワクワクするものなのか、ってね。」
準備を続けて、パーティー会場へ行った。本家側の人たち、2つの家の使用人達、キャリソン家に関係しているたくさんの人達。100人位は、人はいたのではないだろうか。
その人たちに挨拶しに回ったり、食事を食べたり、色々なことがあったが。
一番嬉しかったのは、ナルと会えた時だった。
◇◆◇◆◇
リナとまた会えて、初めて従兄弟と出会った。従兄弟と出会って、特には何も感じることは無かった。
1人はシアルと言った。長男の方だ。年上で、強い魔力の気配を感じた。そこに至るまで、たくさんの努力を積んできたという話だ。まさに、未来のキャリソン家のトップに相応しかった。
もう1人はセレインと言った。長女の方だ。ナルよりも年下だった。出会って自分が年下だと気がついた瞬間に、対応を変えていた。人により柔軟な対応ができる、しっかりした子だった。
リナと会えた時ほど嬉しい時は無かった。パーティでたくさんのもてなせば、リナは笑うと思っていた。でも、リナはパーティの最中は、1度も笑うことはなかった。
そう、パーティの最中は。このキャリソン家全体でのパーティは、思いもしなかった形で幕を閉じることになったのだから。
◇◆◇◆◇
このパーティに関係する出来事で1番に嬉しかったのは、ナルと再開した時だろう。
そして、その次に嬉しかったのは、パーティが終わった時だと思う。
その日、その時、その瞬間は、リナの人生を、大きく変えた時。
その出来事は、リナとナルの人生の地図に、大きな曲がり角を作って、無理矢理に進む道を変えてしまった。
特に楽しいとは思うことの無い、パーティが続いていた。ナルと2人きりになった時には、固有魔法の話をした。
その頃は2人とも、固有特権のことを固有魔法だと思っていた。
遊び半分で、隣に座っている人の未来を見た。すると、ありえないことが起こっていた。
数分後、その人は死ぬ。
それが分かり、絶望し、恐怖し。同時に、人生に動きができたことに対して、喜びを感じていた。
扉が開いた。あまりにも自然に。父親が「ようこそいらっしゃいました」と挨拶をしようとした。
参加者だと思っていたようだ。しかし扉が開いたその先には、黒い、金色のラインが入ったローブを着込んだ人がいた。
深くローブを被り、顔は見えなかったが、声を聞くことで女性だと理解した。
「ご丁寧にどうも」
その一言だけを残し、女性はこちらに近づいてきた。
余程の異質感を放っているのに、何故か違和感を感じないまでの、自然な歩き方で。
それから、立ち止まり。俯いて、顔の見えないままで、3人に言った。
「私は友人。貴方達導き手の友人であり、全ての使徒の友人である。
お迎えにまいりましたよ、『観望者』様」
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