ページ57『動揺して、隠して』
「弱いのに意地張って、仲間を切り捨ててでも1人で戦う、アンタと違ってさ 」
ゆぴは維持を張り、誇らしそうに、ナルを見下して言った。
その隣でケプナスは、自分の言おうとしたことを全否定され頬を膨らませていたが、やはりケプナスもナルを見ると威張るような表情になった。
「そうさせたのは…そうさせたのは、お前達なの」
ナルは珍しく、上目遣いで2人を睨みつけた。
しかし、ゆぴは動じない。
「アタシらいなかったし。後から来ただけなんだけど? あたしにはアンタにはきちんと目が着いてるようには見えるわけなんだけど、ホントのとこどうなわけ?
見えてなかった?その目はガラス玉か何かなわけ? 」
ゆぴはひたすらにナルを煽る。
「そんなわけ___」
ない。そう言おうとして、ナルは踏みとどまった。
それから数秒間無言になり、ゆぴとケプナスを交互に見つめる。
2人は一瞬疑り深い目でナルを見つめて、もう一度。
「聞いたのですよ? 無視はダメダメなのですよ? 」
「そんなわけ、あるの」
「___は?」
ゆぴは一瞬だけ、そう、一瞬だけ動揺した。
そんなわけ、ないに決まっているのに。
「《動揺感知―増幅》隙あり、1本取ったり、なの」
ゆぴが気がついた時には、その首元に、ダガーの先があった。
ゆぴは目を丸くするが、それも一瞬のうち。
「……あたしに、凶器の扱いでかけるとか思ってるわけ? ハンっ! 1億年早いってんのよ! 」
「ちっ、効果切れなの」
「何がなんだか知らないけどさぁ、アンタがその態度を取ってくるんだから、アタシもその態度を取るのが礼儀ってもんよね。
いいわいーわよ。ふふ。いいじゃない」
それから、ゆぴはナルに右手を突き出して。
「ここで会ったが1億年目、覚悟なさい、導き手! この天才凶器使いのゆーか・ゆーぴぃー様が、アンタを血祭りにして差し上げるわ! 」
「け、ケプナスのパクリはよして欲しいのです! 」
「アンタの真似なんか、したくもないわねっ! 」
そう言って、ゆぴは右手に3つ、左手に3つのダガーを持つ。
そして。
「条件は、対等に」
その内2つを、ナルに向かって投げつけた。
ナルはそれをキャッチするが、まだ戦闘体勢に入ろうとしない。
「少し待つの、ちょっと話をしてから___」
「やーよ。アタシはねぇ、話すより戦ってる方が楽しいって思ってるわけだから。
今回は仕方なーく、平等な条件にしてやってんの。今からアタシは、アンタと一騎打ちを始めるってわけ」
ゆぴは4つのダガーのうち2つを腰につけ、2つを両手に持った。
それを見てナルは不満な表情をしたが、この状況で戦わないのは流石に不味いと考え、同じようにする。
ゆぴは感謝する、とも言わんばかりにニヤリと微笑み、ナルに向かって真正面から攻撃を仕掛ける。ナルはその斬撃を何とか受け止め、片方の手に持ったダガーをゆぴの背後に回す。
そこから刃先を首に近づけ、突き刺そうとすると、そのダガーが飛んで行った。
ゆぴは慌てて振り返ると、飛んできたダガーを取ろうとして失敗し、手に貫通させているケプナスが居た。
「何やってんの、馬鹿! 」
「ゆぴを助けてやったのです」
「別に助けなんか要らなかったし! それに馬鹿! 一騎打ちも知らないわけ? 」
「一気にぃ、打ち込む、なのです! まぁよく分からないのですが、ケプナスも混ぜて欲しいのです 」
ワクワクした表情を浮かべているケプナスが、その手に持っているのはおもちゃのナイフ。
ただし、突き刺さっている1本のダガーを除いて、だが。
ゆぴはケプナスをしばらく見つめて、声も出なくなる。
それからしばらく考える。その間、ナルは攻撃してこなかった。2人の方をじっと、見守っていただけだった。
「……条件は、平等に」
◆◇◆◇◆
「ひゃっはっはぁー! なっはっはー! わーーっはっはっはー!
天才凶器使いケプナス・スルーリー、ここに現れるのです! 覚悟しろみちびきて! 血祭りにあげてやるー! 」
ケプナスはゆぴに渡されたダガーを4本同時に振り回し、大声で叫ぶ。
その振り回し方は、あまりにも『振り回す』という言葉がピッタリのように、危なかっかしく、所構わず闇雲に鋭利な刃物を振り回していた。
「ケプナス様のお通りなのです! 」
ケプナスは、全くもって刃物の扱いがなっていなかった。しかし、それがまた良かった。刃物の扱い方を全く知らず、その危険性を理解していない。
そしてその刃物で自分が傷つく可能性があるということも理解しておらず、戸惑いなく振り回している。
その身勝手な動きを読むことができる人は誰も居ず、ケプナスでさえも、自分の行動を理解していなかったのだ。
「危なっ、怖っ、馬鹿ケプナス! アタシまで切り裂こうってんの? 」
「ケプナスが斬り裂こうとしているのは、みちびきてだけなのです! 」
そう言うが、その刃はまたしもゆぴの腹部を斬り裂きそうになる。
「行動と言動が一致してない動きってのにも、程ってもんがあるでしょーが!? 」
「馬鹿って失礼なのですね! ケプナスにひどひどな言葉を連発するにも、程ってものがあるべきなのですよ! 」
自分に向かって飛びかかってくる2人を見て、ナルは思う。
――これが、最後のチャンスだ。
「《動揺増___」
「させないのですっ! 」
ケプナスは持っていたダガーの持ち手を、ナルの口に突っ込んだ。
「あがっ! 」
「わかったのですよ! さっきから何回か言ってるそれ、土曜日、じゃなくて、どよーぞーく、ち、違って、えとえと、それが! 固有魔法なことはわかっているのです! 効果は分からないのですが、発動はさせない方がいいと、そう思ったのですから! 」
ナルは膝をつき、ダガーを抜きながらゆっくりと立ち上がる。
「理解しているのかしていないのか、いまいちよく分からないけど、思ったよりも隙が無いの。」
「理解しているに、決まってるのです! 何せ、天才ケプナス様なのですからね!
さぁ、もう立ち上がることは出来たのですか? どうなのですか? 」
「見ればわかると思うの」
ケプナスは言われて、ナルを見つめる。そのナルの様子は、何故か焦っているように見えた。
「無視は、無視はやめて欲しいの。なんでナルのこと無視するの?やめて、無視なんかされても嬉しくなんか無いの。」
ナルは下を向いて、顔を暗くして言う。それから、顔をあげて。へら、と、わざとらしく微笑んで。
「___ねぇ、早く終わらせよう? もう、私は疲れたよ」
「え? 」
「は? 」
それから、本気の、笑みを浮かべて。
「《動揺感知》完了。《動揺増幅》
___別に、戻りたかったわけでは、ないの」
手に持った2本のダガーをそれぞれ、前も見ずに、2人を突き刺した。
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