所有者はだぁ~れだ?


 「ローグ、何か欲しい物があったらすぐに言ってね。今日はお姉さんのおごりだから♪」

 「と言われても………」


 僕は横並びで歩きながら辺りを見渡す。


 人、人、人。


 近くにあるはずの露店すら見えない状況で欲しい物と言われても。気を使っているというのもあるけど、単純に何があるのかさえ分からない。


 「それと、はぐれると大変だものね♪」

 

 いろいろと困惑気味な僕の隙をついて自分の腕を僕の腕に絡めてくるヴァル───リーザさん。実際、隙なんか無くても僕よりも早く動けるリーザさんから逃れる術はないんだけども。


「い、いや、流石にそれは……」


 僕の小さな抵抗には聞こえなかったフリをして、リーザさんがそのままがっちりと僕の腕を固めています。


 軽装とはいえ、胸当ての無いリーザさんな訳で………。ものすごく腕が圧迫されています。これがまた、歩く度にたわ~ん、たわ~んって……。アイラもすごいと思ったけど、まさか……それ以上?


 僕はこんな状況に陥った原因を頭の中で思い浮かべ、隣のリーザさんにバレない様に心の中でため息を吐き出す。


 僕にとっては未来を掛けた大勝負、観客から見たら「何してんだこいつら?」みたいな戦いを終え、無事に未来を守りきった僕なのだけど、納得のいかないリーザさんが「代わりに私に一日付き合いなさいっ!」と激おこしたわけで……。


 待ち合わせの場所に来てみれば、いつもの戦乙女のような格好じゃなくて、胸元の大きく開いたトップスと足首が見えるか見ないか位のロングスカートで待っていた。もちろん予備のナイフは持っているらしいけど、いつもの剣はぶらさげていない。


 この間、自分で「聖女なんて呼んでくれる人もいるのよ?」と言っていただけあって、ちょっと正面から直視は出来なさそうです。


 そんなこんなで、僕はリーザさんに言われるまま、ティーグで最も賑やかだと言われれているらしい大通りの市場まで足を運んでいる。


 それにしても、と思う。

 さっきからすれ違う人々が、まるで珍獣にでも出会ったかのような視線を僕へと向けてくる。


 僕は隣にいるリーザさんに顔だけ向けると、こちらを見ていたリーザさんとバッチリと視線がぶつかり、そのまま首を傾けながら微笑みを投げかけてくる。


 リーザさんが綺麗だから人目を集めてるのか、人気みたいだからなのか……。日頃から注目されるような人生を歩んできた訳じゃないから僕には分からないけれど。


 とりあえず、今日一日我慢すれば終わるから。頑張れ、僕。


 「ここら辺はよく来るんですか?」

 「そうね……、この国にくるのも十回目くらいだから多少は知っているかもしれないけれど、地元の人と比べちゃうとそこまでは知らないかしら?」

 「それじゃ僕よりは全然詳しですね。ちょっと僕じゃどこから見たらいいのかも分からないんでリーザさんのオススメがあればそこに行きません?」

 「私の知ってるところなんかでいいのかしら?」

 「えぇ、僕じゃ決められそうにないですし」


 少しの間、顎に指を人差し指を当てて空を見上げたリーザさんが頷く。


 絡められた腕を引っ張る様に向かった先にあったのは店の半分がカフェ、もう半分が雑貨屋になっている様な場所で、前の世界でもよくあった男性だけでは入りずらい店と言った感じ。


 リーザさんが腕をがっしりと絡めているから出来ないけど、できることならちょっと後ろを歩きたいと思う。慣れば気にはならないと思うけど、少なくても今の僕には抵抗値が少なすぎてどうしても挙動不審になってしまいそう。


 「どうしたの? そんなに汗流して」

 「い、いえ、何でもありません……よ?」

 「そう? じゃあちょっと早いけどお昼にしましょ♪」


 リーザさんのラジコンとなった僕は、言われるままにカフェスペースに向かい、椅子に腰を掛ける。


 「ローグは何を食べるの?」

 「は、は初めて来た場所なんでリーザさんにお任せします」

 「ふふ……、分かったわ。適当に頼んでおくわね」


 どうやらカウンターまで行って注文するタイプの店の様で、リーザさんはそのまま席を立つ。


 ふぅー……。


 昔からの疑問なんだけど、緊張した状態で一人になるとやたらと落ち着くのはなんでなんだろうか。一人飯の方が気が楽的なやつ。絶賛そんな感じに陥ってます。


 そんな時間が長く続くはずもなく、注文を終えたリーザさんがすぐに戻ってくる。

 ただ、さっきまでとはどこか府に気が違う。嬉しそうとういうか楽しそうというか。


 しばらくして、リーザさんが注文したであろう物がテーブルにドンッと大きな音を立て、僕の目の前に置かれるるるるるる。


 「こ、こ、こ、これは………」

 「最近カップルの間で流行ってるみたいなの♪」


 テーブルの真ん中に置かれたのは、まぎれもなく僕の顔よりも大きなタル状のコップ。そして、一つのストローが途中で枝分かれをして、見事な曲線を描きながらも一つのハートを作り出し、相反する方向へとコップの淵に項垂れている。


 前の世界でも見たことの無いカップルストロー……。

 この世界にもあったのかっ?

 っていうかなんてモノ頼んでるんですかっ?


 「……お待たせしました」


 接客業にしては不釣り合いなトーンの低い声。しかも、どこかで聞いたことのある様な声に、僕の視線が店員さんい吸い寄せられる。


 「…………」

 「…………」


 あらどうしましょ。

 なんで目の前にメイド服姿のアイラさんが青いオーラを出しながらプルプルとした手をコップに添えていらっしゃるのかしら??


 「あら、あなた達どうしたの?」


 アイラさんの後ろには、もう一人お知り合いの方がいらっしゃいますね。メイド服を見事に着こなされていますが、確かメアリーさんですよね。知ってますよ。なんたって前の世界の婚約者なんですから。


 「今日は店に顔を出してたの?」

 「えぇ、アイラさんがジッとしてるのもつまらないって言うから手伝ってもらってるのよ」

 「ここ人気だものねぇ~」

 「そうね。おかげさまで好調よ」


 僕とアイラが口を開かないまま、話しを続けていたメアリーがカップルストローに視線を固定、と同時に、まるで敵でも見るかのようにリーザさんにキッと釣り上げ、氷の眼差しを向ける。


 「リーザ、今度・・は私のローグに手を出すつもり?」

 「ちょっとメアリー、それは失礼じゃない。私、一度も男性とお付き合いしたことないのよ? ………って、何言わせるのよ~もぉ!」


 頬を桃色に染めたリーザさんが両手で顔を塞いでイヤイヤしています。


 なにこのカオスな状況?

 ちょっとだれか僕に説明プリーズ?


 そこに来て、ダンッと一際大きな音を店内中に響かせたのはプルプルと震えながらテーブルを叩いたアイラさん。


 「ローグはわ・た・し・の、ですっ!!!!」


 もうあれです。ここにいる四人だけじゃなくて、店内にいる人はもちろん、店の前を通りかかる人までもが僕たちを見てらっしゃいます。


 と、僕の頬が見る見るうちに赤くなってるの分かります?

 僕もイヤイヤしていいかな?


 


 


 


 



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