想像を超えてらっしゃる……
「では準備はいいかしら?」
広々とした一階のホール内には、四人位で囲める位の円卓が十卓。それ以外にも壁際や空きスペースにはカウンター席を準備してある。まるで子洒落たカフェテリアだ。
その隙間に二十人を超える従業員が立ち、フリフリのエプロン姿に身を包んだホールリーダーこと、メアリーが従業員を見渡しながら話している。
馴染みのない二十人を超える顔ぶれはクレイグ商会とクルス商会からのヘルプさん達。その中に坊主の侍さんがいるけれど、もう気にしない。毎日土下座で待たれることに比べれば全然気にならないもん。
一人一人の顔を見ながら頷いたメアリーが、今度は隣に立っている僕とアイラへと視線を向ける。
「それでは何か一言お願いします」
事前の打ち合わせ通り、まずは僕が一歩前へと出る。
「本日が開店初日です。僕も初めての経験だし、皆さんも慣れない仕事が続くと思いますが、よろしくお願いします」
無難。
こういう所で何かウケを狙えるのは僕みたいな凡人には無理なのです。
従業員からパチパチとまだらな拍手が舞う中、今度はアイラが一歩前へと出る。
「どぉも~、今日から《アズールセレスティア》オープン? らしいからよろしくね?」
何で疑問文、とも思うけど、僕の時とは違って割れんばかりの拍手が巻き起こる。侍さんなんか目を腕で覆いながら拍手してるし……。
開店準備にいたるまでに、アイラの手料理を食べた人たちだから気持ちは分からなくもないけれど……、何というか、本当にアイラが遠くなっていくよ。
ちなみに《アズールセレスティア》は店名で、アイラの髪色と、なぜか一緒に働くことになっていて、店の裏手に自宅まで造ったメアリーさんの二つ名から決めました。主にメアリーさんが。
と、悲しくなる気持ちをいったんどっかに捨てておいて、今日から開店な訳で、僕もそれまでにドラちゃんと狩りに出続ける日々だった。それも集落で暮らしていた時とは比にならないくらい狩りに没頭した。そのおかげか、感慨深い気持ちが否応なしに僕の胸から込み上げてくる。
「静かにっ!」
パンッ、とメアリーが喝采する従業員を止め、静かに見渡す。
「それでは各自持ち場についてください。ローグさん、私と一緒にお客様のお出迎えを」
「はい……っ」
メアリーの言葉で執事服を着た従業員はホール内に一列に並び、それ以外の人達はキッチンへと姿を消していく。
「ローグ、頑張ろうね♪」
「う、うんっ。アイラも無理はしないようにね?」
「私は大丈夫♪」
笑顔でキッチンへと姿を消していくアイラ。
さて………、アイラの為にも頑張りますかっ!
と、一瞬だけ思いました。
「………メアリー、これって」
「………そうね、ちょっと予想外だわ」
店と外を隔てる扉を開け、外に出た僕とメアリーがしばらく言葉を失ってからの発言。
ここはティーグから北に一時間ほど歩いた先にある。それにも関わらず、並んでいるお客さんの最後尾がまるで見えない。もしかして、ティーグの街中まで列が出来ているんじゃないだろうかと疑ってしまう程に。
「メアリー、試算って来客数で計算したんだよね?」
「えぇ。ただこれは全部の対応は無理そうね……」
一応はテイクアウトも出来る様に準備はしてあるけれど、いくらアイラのスペックが崩壊しているとはいえ、限界がある……と思う。
フリフリエプロンとは対照的に、眉を歪めたメアリーが口を開く。
「ローグ、ちょっと配置を変えましょう。ここはローグ一人でお願い。私はホールのヘルプに入るわ。それと一人は頭取りをしてもらいましょう」
打倒な意見かなと思った僕はすぐに頷き、それを見たメアリーはすぐに動き始めた。
男性従業員が木の板を持って店からティーグに向かっていくのを見送ったあと、一人残された僕は扉を開け放つ。
「お待たせいたしましたっ! 只今より《アズールセレスティア》開店ですっ!!」
長い長い闘いの幕開けだっ!
────この日。
売上は飲食店業界に旋風を巻き起こし、それと共に、倒れた従業員が半数の十人越え。
名実共に、商会の中では伝説となってしまった日となった……とかなんとか。
────二章 完
アズールセレスティアオープンっ!!
ってか結婚はどこに行った!?
と、そんな二章が終わりました。
もしよろしければ
次回、三章はローグさん、ちょっと落ち込みます。
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