本当に師匠にして平気??
「「おはよう」」
ベッドに横になりながらも、目が合ったアイラと朝の挨拶を済ませる。
何気に集落に住んでいる時は別々の部屋で寝ていたから、ティーグに来てから新鮮な光景だ。……もうちょっと近付いてもいいかな?
でも安心して下さい。朝からねちっこいと思われたくないので爽やかで行きます。こういうのは雰囲気が大事ですもんね。
重だるい体をベッドから引きはがし、アイラと共に身支度を済ませる。
「どう?」
アイラがくるりとその場で回転すれば、ふわりと踊るフレアスカート。
「今日も似合ってるよ」
「ありがと♪」
見慣れたはずのいつもの服装だけど、都会で見る田舎っぽい服装ってこれはこれでいいよね。まぁアイラの場合は何を着ても似合うだろうから、イブニングドレスなんか着せたらワオーンする自信あるね、僕。
うん、朝から煩悩は良くない。
身支度が終われば気分転換に街へと繰り出す予定だ。
昨日、メアリーと話したことは既にアイラへと告げたのだけど、怒ると言うよりは僕と同じで唖然とした感じだった。
もちろんこの世界でも一夫一婦制で、それに慣れている僕たちでは感覚が分からない。だから頭の中で理解が追いついていない状態なんだと思う。
とにもかくにも、首都であるティーグに来てから色々とあり過ぎて観光すら出来ていない僕とアイラ。今日はその埋め合わせに羽を伸ばす予定な訳だけど………。
「………えぇ……っと?」
「どうしたの?」
「良く分からないだけど………土下座してる人がいる」
借りている部屋からの一歩踏み出すと、廊下で土下座をしている坊主っくりの男性。首元のシワを見る限りだと中年位の男性がいた。
アイラが僕の後ろから土下座男性を覗き見る。
「あっ! 昨日はありがとう♪」
「えっ? アイラ知り合い??」
「ここのキッチンで料理作ってる人だよ。朝ご飯作った時に頼んだ人だから知ってるよ」
それなら知っていてもおかしくないけど………なんで土下座?
「朝早くから申し訳ありません」
ずっと下げていた頭を上げた坊主さん。キリリとした目と、覚悟を持っている者が宿す光が目から……って、なんで朝からこの人はこんな目でここに土下座?
「折り入ってお願いがありましてお待ちしていた次第です」
「お願い??」
「はい、是非弟子にして頂きたく参上した次第です」
言葉遣いがサムライですよ? 時代と世界が違うならだけど。
「ん??? 弟子?? 誰の??」
「たぶんだけど、アイラの料理の弟子ってことじゃないかな??」
アイラの問いに僕が答えると、大きな目をパチパチと数度瞬きをして首をかしげる。
「なんで???」
「先日の調理中の姿に惚れました。産まれてこの方、料理だけを人生と思い精進し続けたにも関わらず、私にはあなたの様な料理は作れなかった。濃厚なのに重くならず、舌の上にいつまでも残るのに、くどくもしつこくもない。私にはどう作ればいいか全く想像がつかないのです」
目をキラキラさせながら侍が言い切ると、アイラが一歩引いたのが背中越しに伝わって来る。アイラにとっては普通のことをしてるだけなのに、相手の過剰な態度が怪しい人に見えてるのかもしれない。
僕はずっと傍で見て来たから慣れちゃったけど、ちょっとだけ気持ちが分かっちゃたりするんだよな……。だって目の前で自分よりすごい人とか見ると興奮するよね。僕もやってみたいって。
「じゃあアイラ、朝だけキッチン使わせてもらうのはどうかな? 僕も近くにいるしさ」
「う~ん……、ローグがいるなら………」
渋々といった様子で頷いたアイラ。
メアリーの話では店が出来るのが二週間後位とか言っていたし、それまでは暇ではあるからね。
侍さんの案内でキッチンへと足を運び、僕はアイラの背中を眺め、侍さんはアイラの横で真剣な眼差しをアイラの手元へと向けている。
「できたよぉ~」
「もしかして……実は気になってた??」
「だって私の知らないとこで作られてるんだもん」
アイラが作ったのは疑似サウザンドブレッドだった。
しかも、キッチンに材料があったからとパンも一から作ったらしい。
侍さんを交え、三人でアイラの作ったサウザンドブレッドを口に運ぶ。
「────っ!!? この前のと全然違う……」
「やっぱりこっちの方が美味しいねぇ~♪」
「………これを」
僕とアイラは動かした口が止まることなく平らげ、僕は「ごちそうさま」、アイラは「お粗末様でした♪」と言う。
やっぱりこれだよね。普段の日常で、極上の日常。早く家が欲しいなぁ……。
「たったの五分で……このクオリティー………」
出来すぎな女性でしょ? 素敵でしょ?
アイラさん、僕の妻なんですよ?
……まだ正式じゃないけど。
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