焦っちゃダメダメ


 「「「いただきます」」」


 アイラとクレイグさんと丸テーブルを囲みながらアイラの作ってくれた料理たちに手を伸ばす。


 「んーーーっ! これですよっ! これ!」

 「ふふ、そんなに凝った物じゃないけどね♪」

 「いえいえご謙遜をっ、こんな美味しい料理は世界どこに行ったとしても食べられませんからね。それだけで来た甲斐があると言うものです」


 満足げに笑みを浮かべながら咀嚼を繰り返すクレイグさん。

 でも、こんなにアイラの料理が評価されるってことは他の人達は一体何を食べているんだろうね?

 一応はクレイグさんから聞いたけど、やっぱり集落から出ていない僕とアイラはピンとこないんだよね。


 「さて、それでは今回の報酬は何にしましょうか? また欲しい物があれば仕入れてきますし、無ければ金銭を置いていきますが」

 「う~ん………、ローグは何か欲しい物ある?」

 「う~ん……ない……かな?」

 「それでは金銭を置いていきますね」


 クレイグさんは立ち上がると外に置いてある荷馬車へと向かい、戻ってきた時には片手に小さな麻袋を持っていた。


 「では、今回は五百食分ですので売上の半分で2万5千クルスですね」

 「は~い」


 アイラがそれを受け取り、二階にへと姿を消す。


 僕たちの生活でお金があったところで余り意味はなさないんだけど、他に欲しい物が無い時は頂いている。


 この世界では五百円玉位の硬貨と同じような大きさと形をしていて、種類は5種類だっけ?


 1クルスが黒色の硬貨。

 十クルスが土色の硬貨  

 百クルスがシルバーの硬貨

 千クルスが透き通た金色。 

 1万クルスが虹色の半透明の硬貨だったはずだ。


 見た目が派手になるほど価値のある硬貨だってことは分かるんだけど、黒色の硬貨が百円程度なのか一円程度なのか。虹色の硬貨が一万程度の硬貨なのか千円程度の硬貨なのか………。


 買い物をする機会がない僕とアイラにとっては、正直あまり興味がないので深くは考えていないんだよな……。


 だからいつも受け取った効果は部屋の一室に全て保管してある。一応はクレイグさんの教えで中身を確認はしているけど、僕とアイラは観賞用に見ている位かな。虹色の半透明の硬貨は光に当てると本当に綺麗だからね。


 「じゃあクレイグさん、今日も泊っていきます?」

 「いつも申し訳ないのですが、そうして頂けると助かります」

 

 理由は単純。ここはそれほど田舎で、首都ティーグまでは時間が掛かるからね。流石に日の暮れてきた今から荷馬車を引くなんて危険すぎるし。


 それに、クレイグさんからも僕たちの知らない話をいっぱい聞けるから、実はちょっとした楽しみだったりする。


 戻ってきたアイラと三人で変わらずのハーブティーをゆっくりと味わいながら雑談を繰り広げる。


 今日の話では神童と呼ばれている商人がちょうど風の国に来ていて、クレイグさんとしても動向が気になるだとか。そろそろ武装大会なんてお祭りもあるらしく、戻ったら屋店の準備も急がないといけないとか。


 「あぁ~、それでこんなに頻繁に引き取りに来てたんですか」

 「そうなんですよ、アイラさんにはご迷惑をおかけしてます」

 「いいえ~。私としてはもう少し多くても平気だよ。ずっと暇してるのも性に合わないからね~」

 「アイラは本当に元気イイね……」


 確かここ十日だけでも、


 味付け干し肉と香草のセットを千食分。

 アイラ自家製のつくだ煮みたいな料理を五百食分。

 ハーブティー用の茶葉を百袋。

 それとは別で家で取れた野菜や果実もいくつか。

 更に今日は、下ごしらえだけをして焼くだけの状態になった串焼き用の肉を五百食分。


 それを作る時間に加えて、


 僕が持ってきた獲物の血抜きや加工処理。

 畑の手入れ。

 家の掃除や洗濯。


 ………アイラさん、ちょっとスペックがおかしいことになってませんか?


 「ローグさんも本当に素敵な女性と出会えたものですね……。正直に言ってしまえば羨ましいものですよ」

 「偶然隣に住んでいて、両親が仲良くなったのがきっかけなんですけど………」


 でも、そうだね。

 思えば両親が死んでしまった時、アイラがいてくれたから頑張れた部分が多くて、1人だったら多分……ね。


 「今ではすっかり大切な人ですよ」


 にこやかに微笑むクレイグさんと少し恥ずかしいのか、頬を染めたアイラ。


 「本当に羨ましい限りです。ところで、ご予定はないのですか?」

 「何の予定ですか??」


 急に話が変わって、しかも主語が無い。それに僕たちは毎日同じような生活だから予定も何もあったもんじゃないんだけどなぁ。


 「ご出産のですよ」


 「「………えっ?」」


 「あれ、もしかしてまだ予定はなかったのですか。すいません、お二人とも十六歳で成人になりましたからてっきり………。でも、焦るものでもないですからね」


 何かを感じ取ったのか、クレイグさんはそそくさと立ち上がり「少し疲れたようですのでお先に失礼します」と言って、あてがわれた部屋へと逃げていく。


 ………で、クレイグさん。この空気が僕にどうにかできるとでも思ったのかな???

 



 

 


 


 

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