ええやないかええやないかぁ


 そよ風が頬を撫で、チリチリと温まっていく体はまるで太陽にでも抱かれているのではと錯覚を抱いています。


 小鳥のさえずりをラジオ代わりにして飲む朝のハーブティーは格別で、普段よりも深く僕の体を流れていく。


 「できたよぉ~」


 そこに愛しい人の声。

 これ程の幸せを感じてもいいのだろうか。


 そんな想いが僕の脳裏をかすめていく。


 「ありがとう、アイラさん」

 「いいえ~♪」


 僕を含めた三人が円卓を囲む。


 先日の夜、メアリーが「たまには朝日を浴びながら食事というのもいいんじゃないかしら?」と言い、それに賛同した僕たちは朝早くからアズールセレスティアで使っているテーブルと椅子を外に運んだ。


 目の前に置かれたのはアイラ特製のモーニングセット。

 焼きたてのパン、それに二種類のひき肉と刻んだ香草を練り混ぜて余分な脂を落としたパティと、取れたての新鮮な野菜で彩った一品。異世界アイラハンバーガー。


 他にも下味に色々な調味料を使っているらしいのだけど、僕には美味しいという以外に表現できないのがもどかしい。もちろん、モーニングセットだから他にも二品。水を使わずに野菜の水分だけで作られたスープと、甘い野菜を何種類も使った特製スムージーもご一緒に。


 ……スムージーって、ミキサー使わないでどうやって作るんだろうね?


 「「「いただきます」」」


 みんなで野菜スープの優しさを体に染み込ませると、ほっ、と安心するような感覚に包まれる。


 次はメインのハンバーガーへと手を伸ばす。


 僕は手掴みで。

 メアリーはナイフとフォークを使って一口サイズに。

 アイラはいつもなら僕と同じで手掴みで食べるけど、最近はメアリーさんの指導が入ってナイフとフォークを慣れない手つきで使っている。


 眉を八の字にして朝ご飯と戦うアイラ………素敵ですっ。


 一口、また一口と口に運んでいくと、みんなの頬が緩んでいくのが分かる。

 あぁ、素晴らしきはアイラの愛情たっぷりモーニングセット。


 思い思いに朝食を楽しみ、僕たちはそのまま日の下で余韻を楽しんでいた時だった。


 「そう言えば、アイラさんには本当に申し訳ない事をしてしまったわね」


 その一言でピンッときた僕は顔を俯かせ、アイラは顔を真っ赤に染め上げる。


 「いっいいいいいのっ! メアリーさんならいいのっ!」


 メアリーの言っているのは僕が冒険者登録に行った日の夜の事で、もちろん翌日にはアイラの前で土下座で事情説明を済ませてある。そして、僕の本音も。


 けれど、その前にメアリーが言っていたように、アイラは僕とメアリーが結婚することに反対することは無く、むしろ顔を真っ赤にしながら「ありがとう」と言った。


 土下座をしながらも首を傾けてしまった僕だけど、時間を置いた後に確認してみると、「やっぱり一人で出産とか考えると不安で……メアリーさんなら安心だし……」だそうで……。


 驚きも強かったけれど、僕はアイラの不安を取り除けていないんだなぁと、改めて実感した日になったのは記憶に新しい。


 僕は動揺と反省が入り混じる感情を押さえつける為、テーブルの上に残っているスムージーへと手を伸ばす。


 と、僕のそんな試験な想いは一瞬で吹き飛ばす。それがメアリーさん。


 「そう言ってくれるのは嬉しいのだけど、あれだけ初めては3人でって約束したのに……」


 「ぶぅぅぅーーーーーーっ!!」


 僕は口に含んだスムージーで噴水を作る。


 「ごほっ、けほっ! ちょちょちょっと!!? そんな話初めて聞いたんだけどっ!?」


 なんとマニアックなことをサラリと言ってのけるのかメアリーさん。


 肩まで縮こまるアイラとは反対に、ニヤリと口角を上げたメアリーさんがテーブルに肩肘を着く。


 「あら、だって私とローグが結婚を約束したらって話だったもの。手順を踏まなかった私も悪いけれど、覚悟を決めて私に手を出したローグも悪いのよ」


 ぐうの音も出ないとはこのことで、いくら愛しい人の許可もあったとはいえ、僕がしたことは浮気と言われれば言い訳が出来ないのも事実。というより、昔から一夫一婦制を身に刻んで生きていた僕は、未だにどこか割り切れずにいます。


 「さぁローグ? 正妻のアイラさんと交わした約束を反故にした私はどうしたらいいのかしら?」


 僕をしっかりと見据えながらも、舌なめずりを始めるメアリーさん……。

 瞬間、僕の体はブルっと震える。


 「私としては………約束を果たさなきゃいけないと思うのだけど?」

 「メ、メアリーさんっ! まだ日も登り始めたばかりの爽やかな朝ですよっ!?」

 「そう……それなら、暗くなればいいのかしら?」

 「そ、そうだよっ! せめてこういう話は夜って相場が決まってるじゃんっ!?」


 これで時間を稼ぐ。

 その間にアイラに「流石に嫌だよね?」と聞けばアイラなら「恥ずかしい……かな?」とか、そんな反応を示してくれるだろう。そうすれば、そんな事をしなくてもいい訳で───って、僕はどうするのが正解なんだ?


 「アイラさんも暗くなればいいかしら?」


 もじもじ……。


 「ちょっとだけ……なら……」


 いつからアイラはメアリーに毒されてしまったのか。この一言で時間稼ぎではなく、ただ執行時間が夜にずれただけ。


 ………想像しただけで恥ずかしい。


 「それでは家の中に戻りましょうか」


 その一言に、僕とアイラは目が点になるけれど、そんな僕たちを無視してテーブルの食器を片付け始めたメアリー。

 首を傾げながらも、メアリー一人に片付けをさせる訳にはいかないので僕たちも片づけを始める。


 そして、あらかた片付けが終わったその時、なぜか出入口の鍵を閉めるメアリーさん。


 「───ナイトメア」


 メアリーが一言呟くと、まるで闇に包まれたかの様に室内が真っ暗になる。


 「えっ? えっ?」


 僕たちの視界は真っ暗で、外の明かりも入ってこない。アイラの不安そうな声が僕の耳に届くけれど、可愛いですっ!


 「それでは始めましょうか」


 背筋がゾクゾクゾクっと。

 悪寒などではなく、僕の背中を指でなぞる感覚。


 「メアリーっ!?」

 「言ったでしょ? 暗く・・なったらって」

 「なんとっ!?」

 「───きゃっ!」


 何があったのか、アイラの驚いた声が聞こえてくるけれど、一寸先どころか自分が目を開けているのかさえ分からない。


だけど、このままでは僕は捕食される。僕は記憶の中の店内からアイラの位置を思い出して駆け寄る。


「アイラッ! 大丈夫!?」


 腕を探るように伸ばすと、片方の手が肩らしき場所へと触れる。


 ──いた。


 背に隠すように立ち、辺りの気配に集中する。


「メアリーっ! 考え直そうよっ! 三人はまだ早いって!!」


 瞬間、僕の背筋がまた震える。


「照れてるローグも可愛いわ。少し必死なのはいただけないけれど……。大丈夫。優しくしてあげるから」


 首の後ろから前へと伸びてきた腕が僕の体を絡め取り、その手が僕の胸あたりを優しく撫でてくる。


 胸の大きさで丸分かりだっ!

 なぜメアリーが後ろにっ!


「さぁ……始めましょうか」


 何が起きているのか、僕には分からなかった。

 それなのに、前からも人の気配が近付いて来る。


 ぷにっ。


 「えっと……ごめんね?」


 なぜ疑問符なのですかっ、アイラさーん?

 当たってますよー? 大きなそれがぷにっと当たってますよー?


 こうして僕の抵抗虚しく………捕食されました。 








 ──────第4章、大人の余裕? 完



 単純にメアリーさんのローグ捕食計画な四章でした。

 とはいえこの三人、心は結ばれていてもまだ結婚していないんです。


 という事で、次章、ついに結婚に向けて動き出す………かも?



 ここまで読んで頂き誠にありがとうございます。

 愛読して頂いてる方も、そうでない方も、少しでもニヤリとして頂けるようにこれからも励んで行きたいと思います。


 また、素直な想いを☆や♡でぽちりとして頂けると参考にもなりますのでよろしくお願いいたします。

 

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