必ず結婚します 2


 ───精霊教会。


 各国に必ず一つは存在し、その国に纏わる精霊を崇める場所。

 日々の生活に、新しい出会いに、晴れた日に。理由は人それぞれ。


 もちろん、僕たちの様に結婚する為に正式な形を取りたいと婚姻名簿に名前を刻む者もいる。


 だがしかし。


 「………ナニコレ?」


 僕の左にはメアリー。右にはアイラが腕を絡め、僕は花火の入った箱を頭に乗せながら精霊教会の扉を開けた。そして思わず口から出て来たのがこの一言。


 「……ちょっとむさくるしいわね」

 「えっと……みんな結婚……するのかなぁ?」


 僕に続いて声を漏らしたの二人だけど、アイラは若干、メアリーはかなり顔を引き攣らせている。


 数えるのも億劫になってしまうそうな数の椅子が並ぶ中央には、絨毯の敷かれた通り道。その最奥に一つの祭壇がある。その祭壇で婚姻名簿に名前を刻む訳だけど、祭壇から僕たちのいる出入り口まで人が並んでいる。それも、なぜか男性が腕を組んで。しかも、並んでいる人全員が男性。


 あまりの光景に僕は何が起きているのかと細かく観察する。時折見える男性たちの表情はみんな引き攣っている。……なぜ?


 鍛え上げたであろう筋肉質な腕と腕とを絡め、何があっても離れないと言う誓いなのか、絡めた腕には血管が浮き出るほどに力を込めている。その姿は相手に締め技を掛けようとしたら間違えて腕を絡めとっちゃった♪ みたいな感じです。………なにがあったの?


 「ま、まあ、とりあえず僕たちも並ぼうよ」


 あまり他人様の事情にとやかく言うのは良くない。それに、並ばなければいつになっても僕たちの名前を刻むことが出来ないし。


 僕のそんな考えは、一時間もしない内に疑問で埋め尽くされた。

 並び始めてからそれなりに時間は経過しているはず。なのに列が一歩たりとも前に進まない。


 僕の横にいる二人も怪訝に思っているみたいで、さっきから表情が曇っていた。


 「流石に……変……だよね?」

 「いくら何でもおかしいわ。名前を本に書くだけよ?」

 「う~ん……、なにかあったのかなぁ?」


 あまりにも不自然な状況に、僕たちが結婚という幸せを前に違和感しか感じなくなり始めた、その瞬間。


 ────バンッ!!!


 僕たちの後ろにある出入口の扉が勢いよく開かれる。


 「ちょっと待ちなさいっ!!!」


 それと同時に教会内に響き渡る女性の声。

 気付けば視線はを出入り口へと向けていた。


 そこに立っていたのは三人の人。


 一人は片目以外を布で覆っている袴姿。

 もう一人は蝶を連想させるようなマスクをつけ、真っ赤な服に身を包んだ達磨のような人物。

 この二人に挟まれる様に中心に立っているのは、鉄仮面を付けた戦乙女を連想させる女性。


 「……なにやってるんですか?」

 「………リーザ、今日で護衛解除していいかしら?」

 「…………誰?」


 アイラだけが首を傾け、僕とメアリーは盛大なため息を吐き出す。


 どう見たってリーザさん、ティンティン、グールじゃん。なんで三人で仮装大会なんかやっているのか……僕には分からない。それと同時に、僕の中で関わってはいけない人ランキングトップ3に就任っ! おめでとう!


 「バレたならしょうがないわねっ!」


 そう言って、鉄仮面を華麗に投げるリーザさん。隣の二人は気に入っているのか、外そうと手を掛けるも、すぐに引っ込めた。


 「リ、リーザさんっ!?」


 アイラだけが口を手で隠して目を見開いています。


 「アイラ、関わっちゃダメだよ? ああいう趣味の人達もいるから、遠くから見てるくらいにしておかないと」


 アイラの背に手を当てて、僕は祭壇の方へと向きなおる様に促す。おどおどとしながらも頷いたアイラと、もう一度深いため息を吐き出したメアリーと三人で向き直る……と、なぜかさっきまでお互いの腕を締め上げていた男性が腕を解いて僕たちを見ている。


 しかも、その視線が親の仇でも見ている様だった。


 「……ナニコレ?」


 僕が思わず漏れた声と同時に深いため息を吐いたメアリーが、リーザさん達へと向きなおる。


 「リーザ、あなた騎士団まで使って私達の結婚を邪魔したいの?」


 メアリーのその声に、僕たちへと向けられた視線を一つ一つ見ていくと……前にリーザさんに呼ばれた時に僕の背中を突いていた騎士が視界に映る。


 そして、僕の背中からは怒声にも似た声が響き渡る。


 「貴方たちの結婚じゃないわっ! 私とローグの結婚よっ!」

 「いいやっ! 私とアイラさんの結婚です!!」

 「そうではないっ! 私とメアリー様が初夜を迎える日だ!!」


 よし、みんなダウトッ!


 

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